『Atomico、最新のState of European Techレポートを発表』、『英国、新たな主要テクノロジー政策を発表』、『英ICLと独TUM、サステナビリティ促進に向け提携』、『自動3D技術開発のDivergent、2.3億ドル調達』、『Cytovale、早期敗血症検出テストの商業化に向けて資金調達』、『実験室で成長するヒト臓器を培養、Vivodyneが3,800万ドル調達』、『JALA Tech、エビ養殖管理で1,600万ドル獲得』、『Lendela、APAC市場拡大に向け500万ドルを調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第60回」をお届けします。

今年に入り、インフレ、金利上昇、地政学的動向に影響を受けたテック業界の低迷が、世界的な現象として見受けられている。欧州VCのAtomicoが毎年発表している「State of European Tech」の最新レポートによると、その結果、欧州企業による2023年の調達資金総額は、前年比で約半分となる420億ドルにとどまる見込みだという。しかし、この情報から想定するほど厳しい状況ではない。なぜなら、この過去2年間は金利の低下、パンデミックによる技術活用の急増などにより、エコシステムの活動という点では異常な記録を叩き出していたからで、コロナ以前と比較すると、その数値は緩やかな、そしてより健全な上昇曲線を描いている。現在の欧州エコシステムは、これらの点を証明するポジティブな兆しをいくつも見せている。例えば、欧州エコシステム全体の価値総額は、2022年に4,000億ドル減少したものの、今年は2021年の最高記録である3兆ドルまで回復した上、世界で唯一、資金調達額が2020年の水準から上昇した地域でもある。また、欧州における気候テック分野の著しい成長も無視できない。2023年、同エコシステムはその強靭な回復力を世界に見せつけているようだ。

ジェレミー・ハント英国財務相が、秋の声明(Autumn Statement)の中で、研究開発減税からAIコンピューティングへの追加出資まで、英国のハイテク部門を支援することを目的とした数々の施策を発表した。この声明は、「現代における過去最大の企業支援」になると期待されている。主な政策としては、中小企業に対する研究開発減税制度の見直し(年間2億8,000万ポンド相当)、政府が支援するベンチャーキャピタル信託と企業投資スキームの延長と、初期段階におけるスタートアップや投資家への減税適用、さらにウェスト・ミッドランズ、イースト・ミッドランズ、グレーター・マンチェスターにグリーン産業と先端製造業に特化した「投資ゾーン」を創設することなどが挙げられる。一方で、9億6,000万ポンドのアクセラレーター・プログラムを実施するクライメート・テック、今後2年間で5億ポンドを追加出資するAI、春の声明で25億ポンドの国家量子戦略を発表した量子コンピューティングなど、複数の成長分野に注力することも表明した。

英国Imperial College LondonとドイツTechnical University of Munich(TUM)が、持続可能性とゼロ汚染における最先端技術を促進するために提携を発表した。世界有数の両大学は、The Imperial-TUM Zero Pollution Advanced Fundを発表し、公害に関するチャレンジを変革する画期的なアイデアの創造、そして両大学間の先駆的プロジェクト支援、両国産業界からの資金調達、企業とのパートナーシップ締結促進を目指す。各プロジェクトは、探索的研究、小規模実験、プロトタイプの開発、ワークショップなどを目的に、大学から最大15万ポンドの初期資金を受け取ることができる。各大学はまた、クリーン・テックを支える革新的なアイデアの開発・商業化期間を短縮するため、産業界と提携したい意向だ。例えば、各大学はすでに自動車業界で、性能向上と二酸化炭素排出量削減に向けたEVのパワートレイン技術、またグリーン燃料、バッテリー、自律走行技術の研究開発などにも取り組んでいる。


自動3Dプリント・組立技術開発のDivergent Technologiesは、スウェーデンの Hexagon AB主導、新規・既存の機関投資家やファミリーオフィス投資家参加のもと、シリーズDラウンドで2億3,000万ドルを調達した。Divergentの事業の中核には、従来の設計・製造・組立方法の枠組みを超えるとされるデジタル工業生産システム「DAPS」がある。AI主導のデザイン・ソフトウェア、積層造形、自動化されたフィクスチャレス(治具不要)アセンブリを統合することで、DAPSは製造プロセスの効率性と適応性の向上を図る。同社はDAPSを戦略的に展開することで、既に自動車、航空宇宙、防衛業界に進出しており、ティア1サプライヤーとして、アストンマーチンやメルセデスAMGなど7社の高級自動車メーカーに製品を供給している。また航空宇宙・防衛産業において6社の米国政府請負業者とも提携している同社、今回の資金注入でデジタル産業製造分野における影響力拡大を目指す。

サンフランシスコ拠点Cytovaleは、敗血症早期発見のための診断テスト商業化を進めるため、Norwest Venture Partnersが主導するシリーズCラウンドで8,400万ドルを調達した。IntelliSepと呼ばれる同社の検査は、2022年12月にFDAの認可を受け、今年8月に商業販売が開始された。救急センターで受診する患者の敗血症の検出に役立ち、標準的な採血で、10分以内に結果が得られる。世界中で毎年1,100万人以上が敗血症によって死亡しており、これは全世界の死亡原因の20%を占める。敗血症はまた米国の病院においても主な死因である。敗血症患者の死亡リスクは、診断も治療もされないまま1時間経過するごとに8%増加する。市場初の早期発見検査を提供するCytovaleは、医療ケアが必要な患者に対し、適切な治療をしかるべきタイミングで提供する方法を劇的に改善する可能性を秘めている。

フィラデルフィア発Vivodyneは、Khosla Venturesが主導し、CS VenturesやKairos Venturesなどの投資家が参加したシードラウンドで3,800万ドルを調達した。Vivodyneは、臨床予測AIを使用して治療標的を特定、実験室で培養したヒト臓器組織で薬剤をテストすることで、薬剤に対する患者の反応を予測する創薬スタートアップだ。ロボットによる自動化を活用し、一度に1万以上の組織を投与、培養、分析することができ、AIトレーニングのための膨大な数のヒトデータセットを作成することができる。組織の培養、投与、サンプリング、イメージングからデータ分析まで、検査パイプラインのあらゆるステップを自動化し、前臨床研究開発とヒト臨床試験のギャップを埋める。Vivodyneのプラットフォームで一度に何千もの試験を行い、新しい治療法をスクリーニング、開発する能力は、製薬業界に前進をもたらす。医薬品や救命生物製剤を前例のない規模でテストできるため、臨床試験に入る治療薬の成功率向上が期待される。


シンガポールのAccounting and Corporate Regulatory Authority(ACRA)に提出された最新の資金調達報告によると、インドネシアを拠点にエビ養殖管理を行うJALA Techが、シリーズAで約1,613万ドルの資金を調達した。この最新ラウンドは、インドネシアのベンチャー投資家Intudo VenturesとSMDV、仏MirovaのSustainable Ocean Fund、また米国を拠点とする沿岸漁業に特化したインパクト投資家The Meloy Fund、Real Tech Japanなどが参加した。ジョグジャカルタ市に2015年に設立された同社は、エビ養殖池の水質を測定するハードウェアや、技術・財務データを可視化・管理するプラットフォームを活用し、エビ養殖業者にデータによるインサイトを提供、収穫の失敗を軽減する。また、エビ養殖業者と加工業者をつなぐマーケットプレイスも運営している。

シンガポールに本社を置く消費者信用管理プラットフォームのLendelaは、同じくシンガポールを拠点とするChocolate Venturesが主導する最新のシリーズAラウンドで500万ドルを確保した。なお、Lendelaのシード投資家であるCocoon Capital、そして新規投資家であるPhillip Private EquityとGenting Venturesもこのラウンドに参加している。2018年設立のLendelaは、借り手とローンの選択肢をつなぐデジタル・ローン・マッチメーカーで、借り手への透明性が高く、パーソナライズされた選択肢を提供する。創業以来、同社は10万人以上の消費者を100社以上の融資パートナーと結びつけてきたと公表している。現在、シンガポール、香港、シドニー、およびクアラルンプールにオフィスを構え、3つの市場で顧客にサービスを提供している。

植木 このみ
Corporate Development Services, Intralink Limited
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