『イタリアで加速する「digitalizzazione」』、『感情認識AIのRealeyes、日本での本格始動を開始』、『ディープテックに強い欧州スケールアップトップ20』、『英Arrivalがゼロエミッション商業車の実現を目指す』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第30回」をお届けします。
このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
イタリアで加速する『digitalizzazione』
西欧の中でデジタルインフラ整備が遅れていたイタリアで、国を挙げたデジタルトランスフォーメーション(digitalizzazione)が進んでいる。最大のハブであるミラノでは2019年だけで3億ユーロ以上のVC投資を記録し、1万以上のテック企業を抱える国内エコシステムも確かに拡大していると言えるものの、欧州の他都市と比較するとその額はまだ遠く及ばない。しかし、2012年に政府が開始した『Growth 2.0』をはじめ、伊ではVCの投資活動の活発化を図る策が講じられてきた。さらに政府が『digitalizzazione』の戦略を明確に追求し始め、その流れはこのパンデミック中にさらに加速している。例えば、税金のオンライン支払いを可能にするデジタル公共サービスや、政府が管理するVCの『National Fund for Innovation』に7.5億ユーロ以上の資金が注ぎ込まれ、そのうち1億ユーロが既に160社のスタートアップ に配布された。また5月には追加策として、VCへ2億ユーロ、インキュベーターに1000万ユーロ、公共サービスのデジタル化に5000万ユーロの投資が発表され、イノベーションが国内において明らかな優先事項となっていることが伺える。デジタル化での遅れを認めざるを得ない日本も、パンデミックの流れに乗ってこのような積極的な動きを見習いたいところだ。
感情認識AIのRealeyes、日本での本格始動を開始
弊社が日本市場進出サポートを提供し、現在は拠点を設立し本格的に国内での活動を開始している感情認識AIの
Realeyesが、市場拡大のため複数の日本企業が出資する北欧特化型VCの
NordicNinjaから追加資金を調達した。Realeyesは、ウェブカメラと機械学習を用いて視聴者の注目度や感情を分析し、企業の広告キャンペーンや動画コンテンツの効果を高める高度なAI技術を提供している。今までにもNTTドコモ・ベンチャーズやグローバル・ブレインからの出資を受けてきた同社は、ロンドン本社に加え、ニューヨーク、ボストン、ブダペストにも拠点を置き、クライアントには広告代理店や市場調査会社だけでなく、Warner Media、コカ・コーラ、AT&T、エクスペディアといった世界大手ブランドも名を連ねている。2016年のAppleによるEmotient買収や、2019年のAmazonによる人の感情を検出するAlexa発表など、いわゆるテックジャイアントからも注目を集めている感情認識AIのグローバル市場は、特にこの5年間で数倍以上の伸びを見せている。
ディープテックに強い欧州スケールアップトップ20
EUが2008年に設立し、欧州のイノベーション強化を推進する
European Institute of Innovation and Technology (EIT)のデジタル部門が開催する
The EIT Digital Challenge 2020のファイナリストが発表された。同イベントはEIT Digitalの主要領域であるDigital Finance、Digital Tech、Digital Wellbeing、Digital Cities、Digital Industryでディープテックに特化したソリューションを開発するスケールアップに焦点を置いている。今回のファイナリストには、欧州11ヵ国から集まった400以上の応募の中から20社が選出され、AIを活用した患者のケアや自律走行車、人間と機械の相互作用を再定義する3Dレーダーまでディープテック内でも幅広い領域の企業が集まっている。スケールアップは既にある程度の会社規模で資金と利益を確保しているため、海外市場拡大を計画する企業も多く、今後このファイナリストから日本に進出する企業が出てきてもおかしくない。なお、優勝者は11月12日に各企業のピッチを経て最終決定される予定。
英Arrivalがゼロエミッション商業車の実現を目指す
2015年からロンドンを拠点に公共交通機関向けゼロエミッション車両の開発・生産を行うユニコーンの
Arrivalが、1億ユーロの調達に成功した。既存の投資家にはHyundai MotorやKia Motors、UPSが含まれる。同社は今回の資金調達により、製造コストや出荷時のCO2排出量を削減しながら1万/年の商業車の生産が可能なマイクロファクトリーの稼働を欧米で加速する予定。Arrivalは今年6月にゼロエミッションのバスも発表し、現在は世界中の政府や自治体と連携しながらバス、カーシェアリング、タクシー、配達ロボット、充電ステーションなどを充実させ、排出量ゼロの目標達成を後押しする総合型公共交通エコシステムの構築を目指している。一方、既に米大手物流のUPSから1万台の電動商用車も受注しており、今後は米国だけで2030年までに800万台の展開を目標に、2021年末の生産開始を予定している。
植木このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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