『工業テックへのVC投資、過去最高額を上回る勢い』『リアルタイム物流可視性プラットフォームのShippeoが資金調達』、『英国政府がバッテリーR&Dに2億ポンドを投入』、『中部電力、Eavorへの直接投資に関する契約を締結』、『ビッグデータプラットフォームRapidSOS、7500万ドル調達』『カリフォルニア州、独を抜いて世界第4位の経済大国へ』、『インドネシアXurya、三井物産とSSIAより3,300万米ドル調達』、『ScaleUp Malaysia、「100 Soonicorns」プログラムを開始』を取り上げた「イノベーションインサイト:第4回」をお届けします。
工業テックへのVC投資、過去最高額を上回る勢い
2022年の欧州工業テックへのVC投資が、現在までに470億ドルに達し、過去最高となった昨年の490億ドルを超える見通しとなった。工業テックは、近年最も顕著な成長を見せている領域の一つで、大企業からの同領域への投資も、今年だけで2020年の倍となる8億ドル以上となっている。サブセクターでは物流が最大の投資を受けており、それにロボット工学とエネルギーが続く形となった。また産業プロセスは、欧州域内における CO2 排出量の 3 分の 1 以上を占めていることから、クライメートテックに焦点を当てたスタートアップへの投資も11億ドルを記録している。また欧州VCの多くがクライメートテック企業向けのファンドを展開しており、その数は60以上に達しているという。この結果により、工業テックが気候危機の解決に重要な役割を果たしていると言えるだろう。
リアルタイム物流可視性プラットフォームのShippeoが資金調達
サプライチェーン向けに、リアルタイムで輸送に可視性を提供するSaaSプラットフォームの
Shippeoが4000万ドルを調達した。これは同分野のソフトウェアに関連する資金調達で、過去最高の金額となった。今回のラウンドには、既存投資家で、弊社のイノベーションネットワークパートナーである
ETF Partnersや
Partechに加え、
Yamaha Motor Venturesや香港を拠点とする
LFX Venture Partners が参加し、Shippeo は今後アジア太平洋地域での展開を強化する予定だ。2014年にパリに設立された同社のプラットフォームは、すべての輸送手段に活用可能で、輸送管理システム、テレマティクス製品、ERP、電子ロギングデバイス技術などのデータソースを統合する API により、位置データ、配送追跡、独自のアルゴリズムを提供することで、ユーザーは貨物の到着予定時刻を含め、リアルタイムの貨物追跡に即座にアクセスできるようになる。このソリューションは、既にコカコーラ、ルノー、シュナイダーエレクトリックなど多くの多国籍企業に採用されており、この資金調達によって国際市場での地位強化と、製品革新を継続して提供することを目指すという。
英国政府がバッテリーR&Dに2億ポンドを投入
英国政府が、2022年から2025年にかけて、バッテリーに関する研究開発に2億ポンド以上を投入すると発表した。この投資は、英国における最先端の研究とバッテリー製造の拡大を目的に2017年に開始されたUK Research and Innovationの
Faraday Battery Challenge の一環で、このプログラムは既に140以上の組織をサポートし、民間部門だけで4万ポンドを上回る投資を集めてきた。同政府は、バッテリー産業が 2040 年までに約 10万人の雇用を支え、電気自動車や再生可能エネルギーなど主要産業の成長の中心になると想定している。
中部電力、Eavorへの直接投資に関する契約を締結
中部電力がカナダの地熱技術開発スタートアップ
Eavor Technologiesと、株式引受契約を締結した。これにより、地下にクローズドループを形成し、地上から水などを循環させることで地下の熱を回収するEavor-Loopという新たな地熱発電技術の活用を推進する。Eavorは地上と地下数千メートルをつなぐ網目状のループを掘削し、その中で水を循環させることで地下の熱を取り出す方式を採用している。地下の熱水や蒸気が十分に得られない地域でも効率的に熱を取り出すことが可能なため、幅広いエリアでの開発が可能であり、掘削後に地下の熱水や蒸気の不足により開発が中止となるリスクを回避できるメリットがあるという。この技術は、1度動かし始めたら、なかなか止める事が難しいベースロード運転だけではなく、低需要時に地下に蓄熱し、高需要時に蓄熱したエネルギーを電力に変換する調整力電源としての機能も備えるため、将来的にエネルギー業界のゲームチェンジャーとなることが期待されている。中部電力では今回の出資を通じて、Eavor社が海外で取り組むプロジェクトへの出資参画機会の拡大を模索し、クローズドループ地熱利用技術の国内展開も検討する方針だ。
ビッグデータプラットフォームRapidSOS、7500万ドル調達
ニューヨーク発
RapidSOSが、7500万ドルの資金調達ラウンドを完了した。同社は過去10年間、90以上のハイテク企業、50以上の公共セーフティソフトウェアベンダー、4大陸をまたぐ15000以上のファーストレスポンダー機関にターンキー監視、音声、データ接続を提供し、コミュニティの安全確保に貢献してきた。高齢化、犯罪の増加、悪天候、世界的なパンデミックの継続的な影響の中、今年だけでも昨年を上回る1億3000万件以上の緊急事態の対処をサポートした実績が評価され、今回の資金調達に至った。同社はAPIを提供し、5億台の接続デバイスから緊急通報オペレータやファーストレスポンダーに必要な命を救うデータを安全にリンクすることで、世界初の緊急対応データプラットフォームを構築している。RapidSOSの技術は、全米5,200の公共安全機関に利用されており、人口の95%以上をカバーしている。現在、米国を中心に、英国、欧州、南米で事業を展開しており、日本(出資している
NTTドコモとの戦略的パートナーシップにより)と南アフリカでもまもなくサービスを開始する予定だ。
カリフォルニア州、独を抜いて世界第4位の経済大国へ
地震、山火事、干ばつ、ホームレス、そして税金や規制のないライフスタイルを求めてテキサスへ逃げ出すという企業トレンドとは裏腹に、カリフォルニア州がドイツを抜いて世界第4位の経済大国へのし上がった。パンデミックを経て、現在はインフレが進行する中で、人口4000万の同州内総生産は、ドイツを抜いて、アメリカ、中国、日本に次ぐ世界第4位の規模になろうとしている。実際、カリフォルニアは多くの産業において、米国や他の国々を凌駕している。特に再エネは、カリフォルニアとドイツで最も急成長しているビジネスで、ブルームバーグがまとめたデータによると、この事業に携わるカリフォルニア企業の時価総額は過去3年間で731%増加し、ドイツ企業の1.74倍となっている。注目すべき例としては、フリーモントに本社を置く太陽光発電とストレージのソリューションプロバイダー
Enphase Energy Inc.が916%増、ドイツの北海沿岸のクックスハーフェンにある風力発電所メーカーPNE AGの410%増を記録した。再選を目前にしたニューサム州知事が言うように、ポジティブな軌跡をたどる経済力が「カリフォルニアの夢はまだ生きている」ことを証明するのだろうか。
インドネシアXurya、三井物産とSSIAより3,300万米ドル調達
インドネシアの太陽光発電レンタル・施工スタートアップの
Xuryaは、2021年12月に2,100万米ドルを調達したラウンドに続き、三井物産とPT Surya Semesta Internusa Tbk(SSIA)からシリーズA ラウンドで3,300万米ドルの資金を調達した。2018年に設立された同社は、国内の商業及び工業施設を対象に、屋上用太陽光発電システムのレンタルスキームを提供し、その設計・施工・運用・保守を行うとともに、分割払いが可能なフレックスプランなども用意しており、企業が巨額の先行投資なしに太陽光を活用することができるようサポートしている。その顧客数は現在、Ciputra GroupやTravelokaなど60社に達している。なお、インドネシアのエネルギー鉱物資源省は、2025年までにエネルギーミックスにおける再エネ比率の目標を23%に掲げており、Xuryaは更なる資金を太陽光発電システムの開発に注ぎ込み、今後のビジネス拡大を図る予定だ。
ScaleUp Malaysia、「100 Soonicorns」プログラムを開始
ScaleUp Accelerator Sdn Bhd (ScaleUp Malaysia) と
Proficeo は、成長が見込まれる 100 社のスタートアップ企業を支援し、ユニコーンに成長させる「100 Soonicorns(「次期ユニコーン」)」プログラムを共同で開始する。2023年第1四半期から段階的に展開される予定で、100社のスタートアップの選出から始まり、メンタリング・セッションを経て、上位20社は個別で指導やメンタリングを受け、さらには投資家、政府機関、またその他エコシステムのプレイヤーより投資を受ける機会が与えられるという。現在マレーシアには2,500社のスタートアップが存在し、これを機にディスラプションを起こすスタートアップの養成が期待される。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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