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イノベーションインサイト:第52回

イノベーションインサイト:第52回

『英国、宇宙イノベーションに6,500万ポンドを投入』、『EU、炭素国境調整メカニズムの移行期間を開始』、『植物性食肉代替技術のUmiami、米市場拡大に向け資金調達』、『Sierra Space、日本のコンソーシアムから約3億ドル調達』、『Harbinger Healthが1.4億ドル調達、がん検診で大きな前進へ』、『生成AI特化型バイオテックEvozyne、8,100万ドル調達』、『インドネシアGOTO、大型調達で金融インフラ・持続可能性促進へ』、『マレーシアMADCash、女性起業家支援で約100万ドルを調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第52回」をお届けします。

英国、宇宙イノベーションに6,500万ポンドを投入

英国宇宙庁は、2020年に開始された「国家宇宙イノベーションプログラム(NSIP)」の一環として、宇宙技術における英国のリーダーシップを高めるために最大6,500万ポンドの資金提供を発表した。この取り組みは、例えば、気候変動対策への衛星データの利用や、軌道上アプリケーションをより持続可能なものにするためのサービス提供など、「ハイリスク・ハイリターン」のプロジェクトを支援する。最大3,400万ポンドとなる第一弾の資金提供に向け、プロジェクトの公募が行われている一方で、残りの資金は2024年と2025年の更なる募集に分配される。なお、プロジェクトの実施期間は、2027年3月までとなっている。2020年以降、NSIPは英国組織に2,500万ポンド以上の資金を提供しており、なかでもロンドンに拠点を置くSatVuはこの支援を受けて、初の中波長赤外線(MWIR)衛星を開発、2023年6月に打ち上げに成功した。今回の英国政府の新たな資金提供は、価値の高い宇宙技術を市場に投入し、繁栄するスペーステック・エコシステムとしての英国の地位を高めることを目的としている。

 

EU、炭素国境調整メカニズムの移行期間を開始

10月1日、待ちに待った炭素国境調整メカニズム(CBAM)が暫定的に発効した。CBAMは欧州における主要な輸入炭素税であり、EUの気候変動対策パッケージである「Fit for 55」の一環となっている。これは、炭素集約的な生産がグリーン基準に積極的でない国々に移転したり、欧州発の製品が持続可能性の低い輸入品に置き換えられたりすることで、EUの気候政策が影響を受けることがないようにするための措置で、移行期間中はまずセメント、鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力、水素の輸入に適用される。これらをEUへ輸入する業者は、その輸入量と生産過程で組み込まれた温室効果ガス排出量を報告する必要がある一方で、税金を支払う義務はない。この移行期間は、すべての関係者(輸入業者、生産者、規制当局など)にとって、2026年のCBAM完全発効に向けた準備期間となる。

 

植物性食肉代替技術のUmiami、米市場拡大に向け資金調達

フランス発フードテック企業のUmiamiが、欧州と米国の新市場でその植物性食肉代替技術を拡大するため、シリーズAラウンドで3,250万ユーロを調達した。これにより、Umiamiがこれまでに調達した資金は1億ユーロを超えた。同社は、植物由来の切り身に肉のような繊維質を与え、鶏肉や魚の食感を再現する革新的なタンパク質食感技術を開発する。Umiamiはこの技術により、ひき肉の代替のみに焦点を当てた他の植物性代替肉との差別化を図る。またフランス政府の投資計画「フランス2030」の支援を受け、同社は仏アルザスに14,000平方メートルの新工場を建設予定で、1ラインあたりの生産能力は7,500トンにのぼるという。将来的には、2025年までに15,000トン、2026年までに20,000トンの植物性フィレの生産を目指している。

Sierra Space、日本のコンソーシアムから約3億ドル調達

航空機や宇宙船の開発製造を請負うSierra Nevada Corporationの子会社Sierra Spaceは、次世代宇宙往還機Dream Chaserと商用宇宙ステーションプロジェクトを拡大するため、MUFG、兼松、東京海上日動が共同主導、既存投資家も参加したシリーズBラウンドで2億9,000万ドルを調達し、その評価額も53億ドルに達した。コロラド発Sierra Spaceは、Dream Chaserのような再利用可能な機体で地球低軌道を事業化し、貨物、乗組員を運ぶことを目標に、長年開発を進めてきた。外観はNASAのスペースシャトルを小型化したものに似ており、従来のロケットの上に打ち上げられ、飛行機のように滑走路に着陸するように作られている。Dream Chaserは、来年初頭にかけて国際宇宙ステーションへの補給ミッションを開始する予定。最新資金ラウンドをリードした3社は、Sierra Spaceと共にアジア太平洋地域における戦略的パートナーシップを締結し、新たな事業創出、社会課題の解決にも貢献する意気込みだ。

 

Harbinger Healthが1.4億ドル調達、がん検診で大きな前進へ

液体生検検査と、採取した血液サンプルを分析してがんの初期徴候を見つけるための付属ソフトウェアプログラムを開発するHarbinger Healthは、創業投資家Flagship Pioneering主導、PictetやPartners Investmentなどの新規投資家参加のもと、シリーズBラウンドで1億4,000万ドルを調達した。新たな資金は、がん検診プラットフォームを検証するために1万人の参加者を募り進行中の研究に資金提供するなど、Harbingerが検査モデルと機械学習ソフトウェアの開発を継続するために使用される。6月に開催された米国臨床腫瘍学会の年次総会で発表された研究結果によると、同社の機械学習アルゴリズムは82%の感度でがんを検出することができ、その感度はがんの進行に連動して上昇したという。Harbingerは、がん検診を日常的に、手頃な価格で、誰もが利用できるようにするため、2025年に同社初のプロダクトを発売する予定だ。

 

生成AI特化型バイオテックEvozyne、8,100万ドル調達

ディープラーニング・バイオテックのEvozyneは、生成AI主導の新薬開発を推進するため、OrbiMedとFidelity Managementが主導し、Paragon Biosciences、NVIDIAのベンチャーキャピタル部門NVenturesも参加したシリーズBラウンドで、8,100万ドルを調達した。2022年4月、Evozyneは武田薬品と遺伝子治療工学に関する戦略的共同研究契約も締結しており、ポートフォリオ作成に全力を注ぐ環境が整ったと言える。同社のアルゴリズムは、局所的な配列に特化した従来の手法よりも効率的に、数百万年にわたるタンパク質の進化をシミュレーションする。Evozyneプラットフォームにより、タンパク質全体に起こりうる変化の探索が可能になり、多様な可能性を持つタンパク質の同定が容易になる。バイオ医薬品業界は生成AIに対し、新薬候補特定プロセスの自動化、コストと市場投入までの時間削減、成功率向上への貢献などで期待を抱いている。

 

インドネシアGOTO、大型調達で金融インフラ・持続可能性促進へ

インドネシア最大のデジタル・エコシステムであるPT GoTo Gojek Tokopedia Tbk(GoToグループ)は、World Bank Groupの一員であるInternational Finance Corporation(IFC)より1億5,000万ドルを調達した。IFCは、新興市場の民間部門に焦点を当てた世界最大の開発機関。現在100ヶ国以上で活動し、その資本、専門知識や影響力を駆使して、発展途上国における市場創出と経済発展に貢献している。GoToエコシステムは、GojekTokopediaGoTo Financial、またGoTo Logisticsの各プラットフォームを通じて、オンデマンド・サービス(モビリティ、フードデリバリーなど)、Eコマース(サードパーティ・マーケットプレイスや公式ストアなど)、ファイナンシャル・テクノロジー(決済、金融サービスなど)、およびロジスティクスで構成されている。今回の提携により、GoToグループはインドネシア全土における金融インフラ整備に加え、保有するドライバー・配送パートナーの車両を電気自動車に移行し、業務効率を改善することで持続可能性を促進するという。

 

マレーシアMADCash、女性起業家支援で約100万ドルを調達

女性起業家に金利ゼロの小口資金を提供することに特化したフィンテック企業のMADCash Sdn Bhdは、最新のプレシリーズAラウンドで106万ドルを調達した。新たに獲得した資金は、AIを活用した同社のプラットフォームの強化、運営費とマーケティング費に充てられ、今後東南アジア地域での拡大機会を模索するという。MADCashは、「Multiply, Assist, Donate Cash」の略で、銀行口座を持たない女性・女性起業家に資金を提供し、成長を促すことで、将来的に銀行口座を開設できるよう代替的なクレジットスコアリングの構築を目指している。今回の投資ラウンドをリードしたArtem Venturesはマレーシアを拠点とするVCで、持続可能で適応力のあるビジネス構築に向けた起業家の強化に注力している。同VCは、アーリーステージのフィンテックとインシュアテック・スタートアップに投資するTIM Venturesの運営を通じ、十分なサービスを受けられない地域の金融インフラ整備ならびに社会保障の促進を目標としている。

植木 このみ

Corporate Innovation Services, Intralink Limited

 

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