『英国、電気通信に関する連合発足と大型投資を発表』、『サクセスストーリーの後押しを受け、伊エコシステムが台頭』、『空間コンピューティングとメタバースのイノベーション・ハブ開設』、『Stoke Space、再利用型ロケット開発で1億ドル調達』、『Electric Hydrogen、グリーン水素業界初のユニコーンへ』、『AI駐車場プラットフォームMetropolis、17億ドル調達』、『Good Doctor、追加資金調達でインドネシア全土へ拡大』、『WORQ、収益性を背景にプレシリーズB資金を調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第53回」をお届けします。

英国、電気通信に関する連合発足と大型投資を発表
英国は、オーストラリア、カナダ、日本、米国とともに、「Global Coalition on Telecommunications (GCOT)」と呼ばれる非公式な多国間連合を共同で発足。電気通信のセキュリティやイノベーションに関する協調強化に動き出し、サプライチェーンの途絶やサイバー攻撃などの課題に直面した際、通信ネットワークが確実に適応できるよう、この連合を活用する。参加各国も、研究開発、情報共有などのより緊密な協力関係を模索する。また英国政府は、この機会に新たに発足したUKRI Future Telecoms Technology Missions Fund(TMF)プログラムを通じて、革新的な電気通信技術の開発に7,000万ポンドの初期投資を行うことも発表した。対象分野には、6Gのほか、宇宙と地上のネットワーク接続に関する新技術、データ転送の容量・速度の増加、クラウド化によるネットワークのエネルギー効率の改善などが含まれる。

サクセスストーリーの後押しを受け、伊エコシステムが台頭
かつてイタリアは未熟なスタートアップ・エコシステムだった。しかし、今では新興テック・ハブとして注目されている。この背景には、同国における2つの「サクセスストーリー」、ユニコーンとなったフィンテックのScalapayとSatispayの存在が指摘されている。両社とも、Tencentを含む世界的に知名度の高い投資家から資金を調達し、イタリアのテック企業が国際的なスポットライトを浴びるきっかけとなった。この変化は、2015年以来、187のローカル・スタートアップを支援してきた開発銀行Cassa Depositi e Prestitiのような政府支援や、テック分野でのキャリアを選択する国内トップレベルの研究機関からの人材の増加によるものであるという。なお、次期ユニコーン候補には、従業員管理プラットフォームのJet HR 、アプリ開発のBending Spoons、そして原子力エネルギーのnewcleoが挙げられている。

空間コンピューティングとメタバースのイノベーション・ハブ開設
オランダのHigh-Tech Campus Eindhoven(HTCE)は、空間コンピューティングとメタバースに焦点を当てた、最新かつベネルクス初のイノベーション・ハブである3EALITYを立ち上げた。このハブは、VRとAR、空間コンピューティング、その他のメタバース実現技術に基づくアプリケーションとビジネスモデルの開発に重点を置く。また、これらの技術のユースケースを検証するためのテストベッドとして機能し、数多くのコミュニティ・イベントを通じて最新のアプリケーションを紹介する。同ハブの建設は今後数ヶ月のうちに開始され、2月中旬に正式オープンを予定している。HTCEには、300社以上のテック企業と1万2,500人のイノベーター、研究者、エンジニアが集まっている。3EALITYはHTCEの5番目のイノベーション・ハブだが、キャンパスには他にも5G Hub、AI Innovation Center、HighechXL、Urban Air Mobility Hubなどがある。


Stoke Space、再利用型ロケット開発で1億ドル調達
ワシントン州拠点のStoke Spaceは、Industrious Venturesが主導し、ミシガン大学、Breakthrough Energy、Y Combinator、Point72 Ventures、Toyota Venturesを含む投資家が参加した最新ラウンドで1億ドルを調達した。Stokeが開発する「Nova」と呼ばれる完全再利用型ロケットは、地球低軌道に5,000キログラムを運搬できる中型クラスのロケット。イーロン・マスク率いるSpaceXの成功に対抗するため、多くの米国企業が再利用可能ロケットの開発を目指しているが、Stokeは製造から収益を上げるまでの実質的な時間短縮に焦点を当てることで、衛星業界への価値提供を目指している。また大気圏外まで打ち上げることが主な役割の第1段ロケットよりも、軌道導入が目的の第2段ロケットの開発とテストを先に進めてきた。「Hopper2」プロトタイプの飛行テストを先月終えた同社、今後は第2段ロケットを軌道に乗せられるよう進化させ、大型の第1段ロケットを製造する予定だ。

Electric Hydrogen、グリーン水素業界初のユニコーンへ
水素電解槽メーカーElectric Hydrogenが、グリーン水素業界初のユニコーンとなった。英石油大手BP、ユナイテッド航空、マイクロソフト、オーストラリア鉄鉱石大手Fortescue Metalsなどの大手企業から3億8,000万ドルのシリーズC資金を調達し、評価額も10億ドルに達した。グリーン水素は、排出される炭素がほぼゼロのクリーンな水素である。2021年現在、世界の水素の96%は、気候変動の最大の原因である化石燃料によって生産されている。Electric Hydrogenの技術は、電気を使って水(H2O)を水素と酸素に分解することで、グリーン燃料を作り出すことができる。このような技術はElectric Hydrogenに限ったものではないが、同社は、経済的に実現可能なコストで北米最大の電解槽を建設できると意気込む。同社は現在、液化天然ガスNew Fortress Energyとの契約の下、100メガワットの電解槽を開発中で、マサチューセッツ州の新しい施設で来年から生産を開始する予定だ。

AI駐車場プラットフォームMetropolis、17億ドル調達
ロサンゼルス拠点、AIを駆使した駐車場プラットフォームを提供する Metropolisは、駐車場施設管理サービス会社SP Plusを買収するため、株式と負債を合わせて17億ドルを調達した。同ラウンドにはEldridge Capitalと3L Capitalが共同出資し、Vista Credit PartnersやTemasekなどの投資家も参加した。Metropolisは、既存の駐車場施設にコンピュータービジョン・システムを導入し、利用客がクレジットカード決済や現金支払をすることなく、ドライブスルーのように車に乗ったままチェックイン、チェックアウトを可能にする。名前、ナンバープレート、電話番号、支払い方法を入力し、アプリから、利用内容を確認、料金をリアルタイムで知ることができる。入庫した車をMetropolisが追跡後、所有者に料金を請求し、出庫後に領収書をメールで送信する。MetropolisはSP Plus買収によって、3,300ヶ所以上の駐車場、160ヶ所の空港にて駐車場とシャトルバスを管理するなど、米国とカナダの確立されたビジネスをさらに拡大することになる。


Good Doctor、追加資金調達でインドネシア全土へ拡大
インドネシア発テレヘルススタートアップのGood Doctorは、既存投資家であるGrabの支援を得て、MDI Venturesが主導するシリーズAラウンドで1,000万ドルの調達に成功した。2018年設立のGood Doctorは、オンライン医師相談、Health Mallを通じた医薬品の購入、また提携病院での医師の予約サービスなどを提供している。今回の資金調達により組織構造が変更、MDIとGrabが少数株主となり、SoftBank Vision Fundと中国のPing Anによる合弁事業は事実上終了したこととなる。同社は、インドネシア全土にサービスを拡大することで、「一家に一人の医師」を確保するという野心的な目標を掲げている。今後はエンタープライズ向けプラットフォームの開発、新製品、サービスのローンチ、そして企業のオペレーションをサポートする計画だ。Good Doctorは、2月にタイ市場から撤退した後、インドネシア市場に完全に焦点を移している。同社はインドネシアで顕著な成長を遂げ、独立したアプリとして、またGrabHealthの一部として、個人消費者向けと企業顧客向けの異なる戦略で事業を展開している。

WORQ、収益性を背景にプレシリーズB資金を調達
マレーシアのコワーキング・フレキシブルスペース・プロバイダーであるWORQは、最新の資金調達ラウンドを終了し、14の投資家から出資を受けた。このラウンドは世界的な資産運用会社Phillip Capitalが主導、WORQへの3回連続の投資となった。WORQの収益性と市場における優位性が、投資家の関心を集める主な要因として注目された。調達した資金は、2023年末までに倍増、2025年までに3倍の450,000平方フィートまで拡大することを目標に、ワークスペースの提供に充てられる。WORQは、マレーシアを代表するspace as a serviceプロバイダーになるべく、2030年までに3,000,000平方フィートのスペースを管理し、2025年までに10,000人以上の従業員を雇用する計画だ。同社の成功は、需要中心の戦略によるもので、2023年には80%という高い収益成長を達成、10%台半ばの純利益率を維持している。パンデミック前は20%であった法人顧客は現在では需要の70%を占めるようになり、フレキシブル・オフィス・スペースへの関心の高まりが伺える。

植木 このみ
Corporate Innovation Services, Intralink Limited
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