『次世代蓄電技術のSkeleton Technologies、 丸紅などから資金調達』、『英国SaaSエコシステムに関する最新レポート』、『今後需要の高まりが想定される、障がい者テック』、『積水化学、Latysと資本・業務提携契約を締結』、『三菱重工、光触媒による水素技術開発のSyzygyに出資』、『米農村部にフォーカス、Main Street Healthが約3.2億ドル調達』、『ベトナムのEVメーカー、VinFastが東南アジアに進出』を取り上げた「イノベーションインサイト:第54回」をお届けします。

次世代蓄電技術のSkeleton Technologies、 丸紅などから資金調達
エストニア発Skeleton Technologiesが、ドイツのSiemens Financial Servicesや丸紅などから1億800万ユーロの追加資金を確保し、調達資金総額も3億ユーロに達した。同社は、高い電力密度と信頼性、瞬時の充放電、優れた温度耐性、100万回以上の充放電サイクルの寿命を持つスーパーキャパシターを提供している。今回の資金調達により、高出力バッテリー技術の開発と製造、ならびにドイツに建設予定の工場における自動化・デジタル化を進める。なお、丸紅はアジアでSkeletonの製品を販売し、同地域における顧客獲得を支援する一方、Siemensは建設予定工場の自動化とデジタル化をサポートするなど、両社はSkeletonにとって単なる投資家ではなく、重要なパートナー、サプライヤー、顧客でもあるという。

英国SaaSエコシステムに関する最新レポート
Dealroomは、HSBC Innovation Bankingと共同で、英国のSaaS(Software-as-a-Service)スタートアップ・エコシステムの状況に関するレポートを発表した。同レポートによると、SaaSは英国で最も資金が潤沢なセクターのひとつで、英国のテック・エコシステム全体の3分の1を占めている。英国のSaaSスタートアップは今年だけで45億ドルのVC投資資金を調達しているが、そのうち約50%(23億ドル)をAI SaaS企業が確保したという。また2019年から2023年の間に英国全体で5億1,900万ドルを調達し、米国、イスラエル、カナダに次いで、ジェネレーティブAIの主要な投資先となっている。サブセクター別では、エンタープライズ・ソフトウェアとフィンテックが最も資金を集め、輸送とロボティクスがそれに続く。テック・ハブ別に見ると、SaaS企業の70%がロンドン周辺に密集しているものの、他にもマンチェスター、バーミンガム、グラスゴーなどの都市の名が挙がっている。そして2022年から2023年にかけて、AIを駆使したビジュアル・アートのStability.ai、決済プロバイダーのPaddle、データ分析会社のQuantexaなどを含む12社のSaaSユニコーンも輩出した。

今後需要の高まりが想定される、障がい者テック
世界保健機関によれば、世界で13億人、6人に1人が重大な障害を持っているという。その上、65歳以上で何らかの障害に直面しているか、将来直面する可能性のある人は7億7,000万人を超えている。これは、サポートを必要とする人々の市場規模の合計が20億人であることを意味するが、障がい者テックは、歴史的にVCの投資対象として見過ごされてきた分野であると言える。しかし、世界中で高齢化がますます問題になるにつれて、今後障がい者テックの必要性も高まると想定される。欧州における障がい者テックのソリューションの一例としては、スイスのBipedが、自動運転技術を使って目の不自由な人を誘導するスマートハーネスを開発している。また、聴覚障害者のために音を視覚的な警告に変換するスペインのVisualfyや、リアルタイム手話翻訳ソフトを開発する英Signapse AI、熱の動きを車椅子の動力に変換するスマートグラスの独Munevo DRIVEなども注目を集めている。


積水化学、Latysと資本・業務提携契約を締結
積水化学は、WiFi、5G、6G向けワイヤレスネットワークソリューションを開発するLatys Intelligence(本社:カナダ・モントリオール)と資本業務提携契約を締結した。今後、積水化学は、次世代通信部品とLatysの最適展開ツールを組み合わせた通信環境設計サービス事業の展開を目指す。積水化学の次世代通信ストラテジーには、高周波電波を制御する部品やデバイスの開発、次世代通信の課題解決に向けた事業化も含まれている。また、Latysは独自の無線中継システムを製品化しており、これを有効活用するための機器展開の最適化(シミュレーション)ツールの開発も進めている。これにより、従来は経験則に基づいて行われていた無線中継システムの配備・設置を自動化し、良好な通信環境の実現を目指す。積水化学工業は現在、スタートアップやアカデミアとの連携を加速させており、今後も同様の提携を進める方針だ。

三菱重工、光触媒による水素技術開発のSyzygyに出資
三菱重工は、水素製造とCO2利用ソリューションのための光触媒技術を開発する、テキサス発Syzygy Plasmonicsに出資した。ヒューストンのライス大学で開発された抜本的な新技術の商業化を目指し、2018年に設立されたSyzygyは、化学製造を電気化し、よりクリーンで安全な世界実現のため、燃焼の際の熱に代わり、光を利用したリアクターを構築する。再生可能な電気で駆動するこの技術は、様々な化学反応に関連するコストと排出の両方を削減するように設計されている。Syzygyのソリューションにより、メーカーはアンモニアからゼロエミッションの水素を製造したり、燃焼を伴わない水蒸気メタン改質から低エミッションの水素を製造したりすることができる。また、メタンや回収したCO2を持続可能な燃料やメタノールに変換する効率的な手段も提供する。三菱重工は、脱炭素社会実現に貢献する水素・CO2エコシステムの多様化につながるSyzygyの代替技術開発支援を通じて、エネルギートランジション事業を強化する意向だ。

米農村部にフォーカス、Main Street Healthが約3.2億ドル調達
テネシー発、主に65歳以上の連邦政府健康保険加入者を対象とし、非都市部や農村部でバリューベース・ケアの規模を拡大するMain Street Healthが、3億1,500万ドルを調達した。Oak HC/FTがリードした資金ラウンドにはUnited Healthcare、Humana、CVSなどヘルスケア大手も投資家として参加した。バリューベース・ケアを専門とする企業への投資額が急増する中、Main Streetの差別化要因には、地方コミュニティに集中している点が挙げられる。地方の小さな診療所には、UnitedやHumanaなどの医療保険サービスが抱える患者数が少ないため、自らクリニックを設立したり、そのクリニックに医師を配置したりできない。従って、Main Streetのようなスタートアップのサービスが、地方の小さな診療所にとってはスケールメリットがあるという。同社は、「ヘルス・ナビゲーター 」を配置することで、今後26の州における診療所のバリューベース・ケアへの移行を支援し、スタッフへのサポートを提供する予定だ。


ベトナムのEVメーカー、VinFastが東南アジアに進出
ベトナムの電気自動車メーカーであるVinFast Auto Ltdは、インドネシアを手始めに東南アジア市場に積極的に進出する計画で、その実現に向けて「多くの資本」を調達する見込みだと発表した。同社によると、45,000台から50,000台という今年の販売目標も達成間際。来年から東南アジア7ヶ国での納入を開始し、2026年にはインドネシアでの工場設立を目標としている。VinFastはベトナムを拠点とする多国籍自動車メーカーで、ベトナム最大の民間コングロマリットのひとつであるVingroupによって設立された。今年8月には、特別買収目的会社のBlack Spade Acquisition Co.と合併し、米国で株式公開も果たしている。

植木 このみ
Corporate Innovation Services, Intralink Limited
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