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イノベーションインサイト:第55回

イノベーションインサイト:第55回

『ネクスト・ディープテック・ユニコーン、Siftedが発表』、『Quantum Systems、約6,300万ユーロのシリーズB資金を調達』、『再エネ活用が進むEU、目標達成には更なる努力が必須』、『IoTフリート保険ソリューションNirvana、5,700万ドル調達』、『Prove Identity、モバイルベース認証技術拡大で4,000万ドル調達』、『企業向けブラウザプロバイダーIsland、1億ドル調達』、『Stilt Studios、持続可能なモジュール式住宅をグローバル展開』、『インドネシアのMOOSA GENETICS、新規調達に成功』を取り上げた「イノベーションインサイト:第55回」をお届けします。

ネクスト・ディープテック・ユニコーン、Siftedが発表

欧州のディープテック企業が、この第3四半期だけで80億ドルを調達し、2023年現在までの調達総額が144億ドルに達した。今年9月に15億ユーロを調達したグリーンスチールメーカーのH2 Green Steelと、8月に12億ドルを調達した持続可能なバッテリーメーカーのNorthvoltによる2つの巨額資金調達ラウンドがこの数字を押し上げたという。そんな中、Siftedが、ネクスト・ユニコーンになる可能性の高いディープテック企業をリストアップした。このリストには、自動運転車ソフトウェア・プロバイダーのWayveや女性向け健康プラットフォームのFloといった英国企業、衛星打ち上げサービス・プロバイダーのIsar Aerospaceや電気分解技術のSunfireなどのドイツ企業、マイクロLEDエレクトロニクス・ディスプレイ・ライトのAlediaや飛行船メーカーのFlying Whalesが代表するフランス企業が含まれている。一方、スウェーデン発エネルギー貯蔵のPolariumや、フィンランド発量子コンピューティング・ハードウェアのIQM Quantum Computersなどの北欧企業もランクインしており、本リスト内では、現在欧州で開発されている多種多様なディープテック技術が紹介されている。

 

Quantum Systems、約6,300万ユーロの シリーズB 資金を調達

ミュンヘンを拠点にAI搭載ドローン・ロボットを開発するQuantum Systemsは、6,360万ユーロのシリーズBラウンドを完了し、その資金調達総額が1億ユーロを超えたと発表した。Quantum Systemsは、農業から鉱業、測量、建設などさまざまな業種における商業顧客や、主に防衛分野の政府機関向けにソリューションを提供する、マルチセンサー・データ収集ドローン専門の航空データインテリジェンス企業である。今回の資金調達にはAirbus Ventures などの投資家も参加した上、既にドイツ国防省の支援を受けたAirbus Defence and Spaceとも提携している。なお、同社の製品は、考古学的調査、防災、生物相の復元を目的とした環境問題への取り組みのための広域マッピングなど、あらゆるユースケースで使用されている。

 

再エネ活用が進むEU、目標達成には更なる努力が必須

欧州委員会が発表した報告書「State of the Energy Union 2023」によると、2022年は太陽光発電にとって記録的な年となり、その新規発電能力は60%増加したという。また、陸上および洋上の新規風力発電容量も、前年比で45%増加した中で、全体では、EU域内エネルギーの39%が自然エネルギーによって発電された。ロシアからのガス輸入量も、2021年の1550億立方メートルに対し、今年は400億~450億立方メートルに減少した。EUの温室効果ガス排出量は2022年には約3%減少し、1990年と比較すると合計で32.5%の削減となった。しかし、EUは2030年までに温室効果ガスの純排出量を少なくとも55%削減、2030年までに域内における再生可能エネルギーの割合を42.5%以上にすることを目標としているため、2022年の数値は歓迎されるべき結果ではあるものの、将来の持続可能性目標を確実に達成するためにはさらなる努力が必要であると指摘されている。

IoTフリート保険ソリューションNirvana、5,700万ドル調達

150億マイルのトラック輸送データを使ってリスクモデルを算出し、商業用フリート向けの保険商品に現代的なアプローチを取るNirvana Insuranceが、Lightspeed Venture Partnersが主導、General Catalystなども参加したシリーズBラウンドで5,700万ドルを調達した。配送バンを含む商業用フリートは、テクノロジー主導の世界においてセンサーやテレマティクスが搭載され、運行に関する全情報が生成されるデータの宝庫である。しかし多くの保険会社は、商業用フリートの補償に対し画一的なアプローチを取り、安全性促進という点では、データが提供できる貴重な洞察を活用できないことが多い。Nirvanaのセーフティ・プラットフォームは、ダッシュボードにAI搭載ツールを組み込み、ルーティングの最適化、ドライバー指導の強化、罰金の回避などにより、リスクを積極的に低減、コストを削減する。今回調達した資金は、IoTだけでなく、AI機能における進歩を確実にするための財政的支援に使われる予定だ。

 

Prove Identity、モバイルベース認証技術拡大で4,000万ドル調達

スマートフォンベースのID認証スタートアップProve Identityは、MassMutualとCapital Oneの共同主導による最新ラウンドで4,000万ドルを調達した。2008年の設立以来Proveは、TD Ameritrade、DocuSign、Starbucksを含む、米銀行上位10社のうち9社、米小売業者上位5社のうち3社、米ヘルスケア企業上位3社のうち2社、米保険会社上位10社のうち6社など、大手企業を中心に顧客ベースを1,000社ほどに伸ばした。同社のテクノロジーは、デジタル・アイデンティティのプライバシーを重視したプロキシとして機能する携帯電話のSIMカードのデータを、顔認証などスマートフォンで提供される機能にリンクさせ、ユーザーを認証する。これにより、情報の事前入力、顧客確認フロー、パスワード不要の認証などのプロセスが提供される。Proveは今回の資金調達により、モバイル端末が提案の中心となるデジタル決済や商取引、不正検知のためのツールをさらに充実させる計画だ。

 

企業向けブラウザプロバイダーIsland、1億ドル調達

企業向けに安全なインターネットブラウザを構築するIslandは、Prysm CapitalCanapi Ventures Fundが主導し、Insight Partners、Stripes、Sequoiaなどの既存投資家も加わった最新ラウンドで1億ドルの追加資金を調達、その評価額を15億ドルに押し上げた。Islandは昨年5月、企業向けブラウザにセルフプロテクションを採用し、企業向け業務に向けた根本的に新しいアプローチとセキュリティレベルを導入した。同社は現在までに、すべての主要な業種とセグメントの顧客に200万件以上のブラウザ提供をしており、Fortune 100の上位20位以内に複数の顧客が名を連ねているという。Islandによると、同社のブラウザーは、BYOD(Bring Your Own Device)、どこからでも勤務可能なパターン、請負業者によるアクセスの安全確保など、顧客が直面する最大の課題に取り組み、解決しているという。セキュリティに加え、あらゆるデバイス、OS、アプリケーションをカバーする包括的ソリューションによって、従業員の生産性を高め、より良いユーザーエクスペリエンスの提供に注力する予定だ。

 

Stilt Studios、持続可能なモジュール式住宅をグローバル展開

インドネシア・バリ島を拠点とする持続可能なモジュール式住宅メーカーであるStilt Studiosは、モーターホームでドイツ市場をリードするHymerの元オーナーであるChristian Hymer氏を含む投資家から1,000万ドルを調達した。2019年に設立されたStilt Studiosは、まるで玩具のレゴブロックを積み重ねるように、標準化された部品からさまざまなキャビン、スタジオ、また多階建ての戸建て住宅を構成する。主な建材には高品質のチーク材とセランガンバツ材を使用している。このシステムにより、従来の建物では1年以上かかっていた施工期間が、1軒あたり1~2ヵ月に短縮されるという。材料と建築工程から排出される二酸化炭素の総量は、従来の建物よりも50%以上カットされる上、高床式のため、地面側のシーリングも少なくとも90%削減されるという。なお、今回得た資金は、プロダクトのグローバル展開、プラットフォームへの投資、AI、スマートホーム機能への投資、また初の本格的な住宅プロジェクトの開発に充てる予定だ。

 

インドネシアのMOOSA GENETICS、新規調達

インドネシアに拠点を構える、動物ゲノムとバイオテクノロジー専門スタートアップのMoosa Geneticsは、東南アジアを中心とするベンチャーキャピタルEast Venturesががリードする資金調達ラウンドの終了を発表した。獲得資金は、ラボの建設、チームやマーケティング活動の拡大、また和牛を対象としたパートナーシップの構築に充てられるという。近代的な動物繁殖技術や分子技術を駆使して、地元の牛や乳牛の遺伝子改良を専門とする同社は、West Sumateraに2ヶ所の事業所を構え、各地域のブリーダーと提携する予定だ。2016年の設立以来、急速に業界リーダーとしての地位を確立し、農家やブリーダーが牛の遺伝的品質を向上させるための新たなソリューションを提供する。インドネシアの牧畜産業は非常に細分化されており、およそ80%が零細農家によって占められている。ほとんどの畜産農家もまた、低インプット・低アウトプットの生産システムを持つ低スキルの農家であり、畜産事業を拡大する上で根本的な課題に直面している。同社は、胚移植技術と、DNAを選択的に改変する技術であるCRISPRのような革新的な遺伝子選択技術を活用し、インドネシアにおける牛の繁殖と肉牛生産に革命を起こしている。これにより、今後さらなる肉の収量と品質を向上、そしてコスト削減を目指す。

 

植木 このみ

Corporate Innovation Services, Intralink Limited

 

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