『医療関係者向けスマートマスクの試作品が完成』、『量子コンピューターの英Riverlane、商業展開に向けて好発進』、『2020年、欧州フィンテック業界の投資状況とは?』、『プライバシーを重視した分散型マーケティングインフラの登場』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第23回」をお届けします。
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医療関係者向けスマートマスクの試作品が完成
医療施設で使用が欠かせないマスクは、特にフェイスシールドを重ねて付ける必要がある場合、医療関係者間のコミュニケーションを困難にする点で問題視されてきた。そんな中、ベルギーのイノベーション関連組織
Forcitと
Holst Centerが
スマートマスクの開発に乗り出し、第一世代のプロトタイプを3D印刷技術で作成した。今までも空気が汚染された状況下で使用されるスマートマスクは開発されていたものの、欧州の医療基準と承認を得た、医療分野に特化したスマートマスクの開発は初の試みであるという。二段階に分けて開発されるこのスマートマスクだが、第一世代は、呼吸に基づくデータ分析から学習して呼吸をサポートする上、内蔵マイクとスピーカーを介した音声の増幅やフィルター交換時期の通知機能も備えている。さらに携帯アプリと接続することも可能である。2020年冬に発表予定の第二世代では、体温、酸素飽和度、呼吸リズムなどのデータをアプリ上で測定・報告し、ユーザーの健康状態をモニター、及び予測できるようになると期待されている。
量子コンピューターの英Riverlane、商業展開に向けて好発進
Riverlaneは、英国内のオペレーティングシステムにおける試験を成功させ、量子コンピューターの商業的開発における重要なステップを踏んだ。同社が開発するDeltaflow.OSにおいて、アプリケーションの量子ハードウェア上への実装は、ハードウェアとソフトウェアの間に存在するハードウェア抽象化レイヤーを介して行うため、運用を迅速に制御することが可能になる。これにより、量子コンピューターのパフォーマンスを最大に引き出しながら、ハードウェアとソフトウェアがどのように相互作用するかという重要な問題が解決されることになり、IBMが採用するようなインターフェイスと比べても、短期的に性能を桁違いに改善することができる。ケンブリッジ大学からスピンアウトした同社は、
Hitachi Europeや
ARM、また
Oxford Ionicsをはじめとするハードウェアスタートアップとともに、英国政府から同技術の商業化を目的とした約1000万ドル の支援を受けながら、オックスフォード大学にて研究を進めてきた。今後、Deltaflow.OSは英国に存在する4つの全てのハードウェアに設置され、さらなる研究開発が進む予定だ。
2020年、欧州フィンテック業界の投資状況とは?
欧州のフィンテックスタートアップが、長期間の大規模なロックダウンにもかかわらず、3〜8月半ばにかけて34億ドルに上る投資を受けたことがわかった。一要因として、特にレイトステージ企業の大規模な資金調達が目立ち、シードなどのアーリーステージ企業には厳しい状況も見受けられるものの、デジタル化の加速などの長期的なマクロトレンドにより、投資家が同セクターの安定した成長を見込んでいることが挙げられるという。サブカテゴリー別に見ていくと、デジタルバンキングを含むコンシューマーフィンテックが、複数のメガラウンドに加え、カーディフ発
Anna Moneyやフランスの
Shineのエグジット により、最大の資金調達額を記録した。また決済セクターは昨年の記録的な投資を上回る見通しで、最近のMastercardによる
Previseへの出資を筆頭に、投資家や企業からの注目を集めていることが明確になった。また隠れたキーセクターとしては、第一四半期において全ラウンドの約20%を占めたインシュアテックが挙げられる。今後も欧州フィンテック業界の快走はしばらく続きそうだ。
プライバシーを重視した分散型マーケティングインフラの登場
英国発
InfoSumが、欧州・北米への事業拡大を目的に、ストラテジックパートナーである ITVやAT&TのXandrから約1500万ドルの資金を調達した。2016年に設立された同社は、世界で初めて分散型マーケティングインフラストラクチャの構築に成功した企業の一つで、この技術によりあらゆる規模と業界に属する企業がファーストパーティとセカンドパーティのデータセット全体でコラボレーションすることを可能にし、優れたコンシューマーエクスペリエンスを提供する。このプライバシーを重視したソリューションは、当事者間でデータを移行することなく顧客の身元を管理する単一システムを構築する。そのため、主要な企業やブランドがあらゆる段階で消費者データのプライバシーを保護しながら顧客の詳細を学習し、関連性のある効率的なマーケティング及びエンゲージメントプログラムを開発する企業能力の向上を図ることができる。
植木このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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