『史上最高額を記録、アムステルダムエコシステムの企業価値』、『実現が近づくエアタクシー業界の現状と行方』、『Klarna:欧州で最も価値の高いフィンテック企業』、『3Dデザイン技術による製造メーカー向け効率性向上ツール』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第25回」をお届けします。
このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
史上最高額を記録したアムステルダムエコシステムの企業価値
Dealroomが今月発表したレポートによると、アムステルダムエコシステムのテック企業価値総額が730億ユーロに達した。2000年以降に設立されたスタートアップの企業価値の合計額に基づいたこの数値は、欧州のテック企業価値トップ5にランクインするフィンテックユニコーンの
Adyen と、デリバリーサービスの
Takeaway.comの近年の急成長が大きく貢献した結果で、その額は2015年の100億ユーロから7倍以上跳ね上がり、ロンドンとベルリンに次ぐ欧州内第3位の金額となった。また約2700社のスタートアップ の拠点を置くアムステルダムは、一都市におけるテック企業・人材の密度においても欧州一である。しかし、ロンドンやテルアビブと比べても圧倒的に少ない欧州域外からの投資や、ユニコーンを生み出す要因となるレイターステージ企業へ大規模投資が少ない点など複数の課題も残っている。とはいえ、以前のブログでも紹介したようにヘルステックにも強いアムステルダムは、エドテックとともにパンデミック中にも数多くの投資を集めており、海外企業にとっての穴場として、将来の大きな成長ポテンシャルを持つ都市と言えるだろう。
実現が近づくエアタクシー業界の現状と行方
ここ最近、電動垂直離着陸機(eVTOL)のパイオニアであるドイツ発スタートアップ2社が、商業化に向けて重要な動きを見せている。2011年に初めて電動マルチコプターで有人飛行を、また2017年にドバイで世界初の自律eVTOL飛行を成功させた
Volocopterは、ヘルシンキの国際空港やシンガポールのマリーナ・ベイ上空でのデモ飛行成功を受け、エアタクシーサービスの先行予約受付を開始した。飛行都市はまだ確定していないものの、今後2〜3年での商用ローンチを予定しており、希望者は1回15分の短距離移動サービスを300ユーロで予約することができる。一方、2025年までに商業化を目指す
Liliumも今月、独デュッセルドルフ空港及びケルン・ボン空港を同社の飛行ハブ拠点とすることを発表した。同社は多くのeVTOL関連スタートアップと異なり、300kmほどの長距離フライトで都市間移動の代替手段となることを目指している。各社ともアプローチ方法は異なるものの、世界初のエアタクシー の商業ローンチに向け動きを加速しており、一早い実現化に期待が高まる。
Klarna:欧州で最も価値の高いフィンテック企業
ストックホルム発支払い決済サービスの
Klarnaが、最新ラウンドで約5.5億ユーロを調達した結果、その企業価値が89億ユーロとなり、世界4位、欧州一のフィンテック企業となった。2005年に設立されたKlarnaは、2017年に銀行ライセンスも取得し、現在はオンラインと店頭で活用されるそのユニークな後払い決済システムで9000万人の利用者数を誇る。特にクレジットカードやクレジットヒストリー(信用履歴)を持たない若者層に人気の同社アプリは、今年に入ってからも毎日5万以上の新規ダウンロードを記録しているという。欧州だけでなく米国でも広く展開する同社は、利用者が規定通りに支払いを行うことで集めたポイントをAmazon、H&M、Uberなどで使用可能なギフトカードと交換する、世界初の後払いポイントサービス(Vibe)も提供しており、便利な支払い方法の提供だけでなく、『責任あるショッピング』の推奨も行っている。これにより、Klarnaはフィンテック企業以上に、幅広い分野でのコンシューマーエクスペリエンスの向上に貢献している。
3Dデザイン技術による製造メーカー向け効率性向上ツール
ロンドン発の3D 製品設計ソフトウェアの
Gravity Sketchが、最新ラウンドにて約300万ポンドを調達した。同社が開発する3D 設計向け遠隔作業ツールは、製品設計者からエンジニア、さらに製造業社間で繰り返し求められる継続的なコラボレーションの手間を省き、全員がそのデザインをリアルタイムで同時に作成・レビューすることを可能にする。Gravity Sketchによると、実際に自動車メーカーがこのプラットフォームを使用して新車を設計すると、全体的な効率性の向上により4000万ポンドも節約することができるという。その結果、既にFord、日産、Reebokを筆頭とする大企業や、約60の大学組織が既にこの技術を採用している。さらにパンデミックによるテレワークへの移行により、同技術への需要が40%以上増加したという。この設計技術は、自動車だけでなくビルなどの建築設計にも活用可能である。
植木このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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