『エストニア政府が新たなイノベーション政策を発表』、『究極の持続可能な材料となりつつある菌類』、『BPが車内デジタル決済ソリューションに出資』、『金属加工・製造サプライチェーンを改造するFractory』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第75回」をお届けします。
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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
エストニア政府が新たなイノベーション政策を発表
パンデミックによりデジタル化が加速する以前から世界をリードする電子国家として知られてきたエストニアが、新たな取り組みとして『
Digital Testbed Framework』を発表した。雑誌Wiredにも『世界で最も先進的なデジタル社会』に選出されているエストニアは、政府サービスの99%がオンライン上で管理される安全で透過的なシステムを構築してきた。デジタル政府のイノベーションにはオープンイノベーションとパートナーシップが重要な役割を果たすと考える同国は、このグローバルイニシアチブにおいても、誰もが国内で新しいアイデア、プロトタイプ、製品、さらにまったく新しいデジタルサービスを構築または試用することを可能にする。加えて、参加者は政府のデジタルエコシステムの背後にあるオープンソースソフトウェアを自由に試すことができる上、所有するアイデアの概念実証も実施可能となる。これにより、販売や承認のプロセスに時間をかけることなく、全国的なテスト環境でのライブマーケットテストと承認を通じて、政府レベルのITソリューションの開発を実現する。
究極の持続可能な材料となりつつある菌類
近年、スタートアップイノベーションにおいて菌類が主要トピックとなっている。菌類をベースにした製品は生分解性であり、持続可能な経済実現に対する役割が高まっていることもあり、食料源としてだけでなく、テキスタイル、パッケージ、インテリアデザイン、さらにはバイオマスエネルギーなど、あらゆるアプリケーションに活用されている。菌類工学の台頭と関連工場の普及を通じて、同分野に携わる企業はSDGsの17の目標のうち、少なくとも10項の解決に貢献する機会を持つと言われており、特に食品・飲料、ファッション、素材の分野で大きな影響を与えている。名の知れた有望欧州企業としては、建設資材や革素材に取り組む工場を持つ伊
Mogu、すべての必須アミノ酸を含み、食物繊維が豊富で、肉、シーフード、乳製品の代替品となりうるマイコプロテインを生成する英
Enough、食品用途の大型発酵槽で菌類バイオマスを生成する独
Mushlabsなどがあり、今後も高い持続可能性を求める投資家や企業からの注目が集まるとみられる。
BPが車内デジタル決済ソリューションに出資
車内デジタル決済プロバイダーの
rydが、欧州域内の市場拡大を目指し、
bp venturesから860万ドルを調達した。同社の決済ソリューションは、アプリまたはスマートカーへの統合により、燃料の購入、電気自動車の充電、洗車などの支払いに使用できる。rydは、既に自国のドイツ、オーストリア、スイスなどを含む7ヶ国、3000以上のパートナーサービスステーションに展開しており、欧州内で同分野最大のB2Cネットワークを持つと主張している。さらに140万人の直接顧客に加え、Mastercard及び複数の自動車メーカーとの提携により、最大1億人の顧客にアクセスできるという。一方、エネルギー大手のBPは、英国とオランダでアプリを通したデジタル決済プランを提供しているが、今回の出資により、アプリ上での安全で、スケーラブル、さらに柔軟なデジタル決済について理解を深め、最終的にはrydが展開する幅広い地域でのサービス展開を目指す。今後もこのシームレスで便利なエクスペリエンスを提供する車内デジタル決済に期待が集まる。
金属加工・製造サプライチェーンを改造するFractory
インテリジェンスツールを使用し、金属部品の需要と製造・加工企業をマッチングする
Fractoryが、最新のシリーズAラウンドにて900万ドルの調達を行なった。元々エストニア発でありながら、現在は英マンチェスターに拠点を置く同社は、製造業社ではなく、カスタマイズした金属加工を必要とする人が注文しやすい環境を提供し、メーカーがそれらの要求に基づいて新しいビジネスを発掘するためのプラットフォームを構築している。現在カバーしているCNC機械加工などの作業を含むレーザー切断に加え、今後は3D印刷、石細工やチップ製造などの材料も検討していく。また既に24,000以上の顧客、さらに数百のメーカーや金属会社と提携し、合計で250万個以上の金属部品の製造に貢献してきた。Fractoryは、その強みの一つとして、作業のロジスティクスコンポーネントを削減し、炭素排出量を削減するため、ローカルでの受注・製造を目指しているという。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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