『仏当局、AIで未申告のプールを大量発見』『欧州VC、景気後退にも関わらずディールサイズ拡大』『フィンランドのクリーンテックスタートアップ、バッテリーを肥料に』『ウクライナ経済再建、IT産業に賭ける理由』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第125回」をお届けします。
仏当局、AIで未申告のプールを大量発見
AIを使った実験の結果、フランスで2万個以上の「隠れ」プールが発見された。これにより約1,000万ユーロの税収が得られ、税務当局にとり思わぬ収穫となった。2021年10月の試運転期間中、Googleとフランスのコンサルティング会社
Capgeminiが開発したこのソフトウェアは、フランスの9つの地域の航空写真からプールを発見した。7月のフランスの降雨量はわずか9.7mmで、1961年3月以来最も降雨量の少ない月となり、このような過去最悪の干ばつに見舞われ、100以上の自治体が飲料水不足に陥る中での発見となった。税務当局によると、このソフトウェアは最終的に、未申告の家の増築、パティオ、見晴らし台などを見つけるために使用される可能性があり、これらは固定資産税の一部にもなるとのことだ。
欧州VC、景気後退にも関わらずディールサイズ拡大
ディールメーキングへの圧力が高まっているにも関わらず、欧州スタートアップのディールサイズの大型化が続いている。PitchBookの
Q2 2022 European VC Valuations Reportによると、今年上半期は、昨年と比較して全ステージにおけるラウンドサイズが上昇しており、その差額も決して小さくはない。アーリーステージのディールサイズの中央値は32%増の250万ユーロ、レイトステージのディールサイズの中央値は、公開市場の変動やアセットクラスの過大評価への懸念にも関わらず、38%増となった。この傾向は、VCが昨今の経済情勢にも関わらず依然として相当量の資本を保有しているという事実により説明できる。世界的に見ると、VC投資家はスタートアップ投資向けに5,624億ドルの資金を保有している。
フィンランドのクリーンテックスタートアップ、バッテリーを肥料に
使用済みのアルカリ電池を有機認証肥料に変えるクリーンテックスタートアップ
Tracegrow Oyは、新たに250万ユーロの資金調達を受け、事業を拡大することになった。同社の手法は、リサイクルされたアルカリ電池や産業上の副産物と微量栄養素の分離に基づいており、特許取得済みだ。このプロセスにより生産された肥料は、従来の方法と比較して、二酸化炭素排出量を削減し、作物の生産性を高めることが証明されている。このように、使用済みの製品を再び価値のある製品に変換することは、ヨーロッパを循環型経済へと移行させるための基礎となっている。同社の取り組みは、サプライチェーンの問題や気候変動が作物に影響を与える中、欧州の食糧事情を安定させ、同時にエネルギー源から発生する廃棄物を削減するという、各方面に利益をもたらす革新的な取り組みだといえる。
ウクライナ経済再建、IT産業に賭ける理由
ウクライナは現在、自国の防衛を続ける一方で、将来的な経済成長のため、紛争からの復興に向けた計画を立て始めている。特にIT産業はウクライナ経済にとり最も重要な産業の一つであり、この分野への投資は国家再建に不可欠となっている。ITサービス輸出は2022年第1四半期に20億ドルの収益をもたらし、特に2月には8億3,900万ドルの輸出額という前例のない記録を打ち立てた。紛争が続き、エネルギーや農産物などの輸出が減少する中、ITサービスはその流れに逆行し、厳しい状況にも関わらず前年同期比23%増となった。ウクライナは現在、同国の復興に向けてヨーロッパ最大のITハブの地位を目指しており、 テクノロジーやITを中心としたVC、スタートアップエコシステムの活性化を計画している。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
イントラリンクについて
イントラリンクは、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、日本大手企業に対する海外オープンイノベーション支援、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。