『ネットゼロが化学業界へ与える影響とは』『英のバーチャル不妊治療クリニック、在宅サービス拡大』『蘭Lightyear、ソーラーカー発売を目指す』『中国企業、欧州進出へ意欲示す』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第126回」をお届けします。
ネットゼロが化学業界へ与える影響とは
温室効果ガス削減へのコミットメントにより、新しい考え方や技術的な変化の波が押し寄せつつある。中でも化学企業は、炭素のコストが上昇し、上流のサプライヤーや下流の顧客に変化が訪れるにつれて、事業環境にも変化が及ぶことを熟知している。おおまかにいえば、これは複数世代におよぶ石炭から石油、ガス、そして再生可能エネルギーへの変遷の一環だといえなくもないが、温室効果ガス削減の目的はコストカットではなく、サステナビリティの向上にあることが大きな違いだ。今週、欧州で、世界初となる大型電気加熱式スチームクラッカーの実証プラントが着工された。プロジェクトのオープニングでは、大手化学企業である
BASF、
SABIC、また
Linde各社のCEOが、低炭素社会で生き残るには新しい技術やオペレーションモデルの開発が必要であることを訴えた。
英のバーチャル不妊治療クリニック、在宅サービス拡大
2018年に設立された
Apricityは、テクノロジーとAIをパーソナライズされたケアや専門知識と組み合わせて提供する不妊治療クリニックだ。同社のデジタルソリューションは、妊娠の可能性を最大化しつつ、治療の経験をより快適なものにすることを狙う。不妊治療の専門家への相談、またカスタマイズされた治療ルートの作成など、いずれもアプリを通じてアクセス可能だ。英国では6組に1組のカップルが妊娠に問題を抱えており、周期ごとの臨床妊娠率の平均値は31%であるのに対し、Apricityでは46%を達成しているという。昨年、同社はIT企業や銀行などの大型の法人顧客を獲得し、売上高と顧客数の両方を2倍以上に増加させたという。今回、同社は1,700万ユーロの資金を調達し、これを欧州における在宅サービスの拡大に充てる方針だ。
蘭Lightyear、ソーラーカー発売を目指す
オランダのスタートアップ
Lightyear は、今回の資金調達で8,100万ユーロを調達した。同社は、この資金をもとに今年中に最初のモデルとなる「Lightyear 0」を発売し、世界初の商用ソーラーカーとして販売する予定だ。価格は25万ユーロで、EU圏内で販売されることとなる。なお、廉価版の2車種目となる「Lightyear 2」の開発にも資金を充てるという。今回の資金調達は、景気後退の可能性が警戒される中で行われたもので、欧州のクライメートテックエコシステムへの信頼と、これを支援したいという投資家の前向きな姿勢が示されたといえる。Dealroomによると、クライメートテック関連の取引数は2021年の月平均80件から2022年には61件へと減少しているものの、資本の額は昨年と同程度に留まっており、活況を示している。
中国企業、欧州進出へ意欲示す
先日閉幕を迎えた欧州最大の家電・家庭用品の見本市
IFA 2022 では、感染症対策による渡航制限にも関わらず、220社近くの中国企業が参加し、最新製品や最先端技術を披露した。TCL、Huawei、Haierなどの有名ブランドに加え、今年はハイテク企業のAlibabaが初出展し、話題となった。この背景として、米国による中国テック企業への制裁措置の影響があげられる。専門家によると、米国で逆風を受ける企業が増えたことにより、欧州での知名度向上への意欲が高まっているという。また、欧州市場での競争相手である日本企業についても、「中国企業が米国、日本企業に対し持っている強みは、(中国は)大規模な行動を素早く取れることだ」とも指摘している。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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