『リトアニアがGovTechを牽引する背景 』『太陽光発電導入を促進する屋根一体型PVパネル 』『世界初のゼロエミッションフェリー、初航海果たす』『次世代補聴器、マスク越しの「読唇術」』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第127回」をお届けします。
リトアニアがGovTechを牽引する背景
ここ数年、リトアニアは、政府や公共サービスの強化にテクノロジーを活用し、GovTech 分野でリーダー的な役割を担ってきた。これは30年前に創設された「Lithuania 2000」という取り組みにおいて、デジタル国家の発展に向けてリトアニア政府が世界最大規模のテック企業を招いたことに始まり、公共サービスやITインフラの基礎を作り上げてきた。また2019年にはイノベーターや公共セクターの共創を加速させる
GovTech Lab プログラムも開始した。これによりスタートアップやイノベーティブな企業は賞金だけでなく、政府のパイロットプロジェクトのため最大で53,000ユーロの支援を受ける契約まで締結された。そして昨年、スタートアップのソリューションを活用したパイロットプロジェクトは、公共部門だけで50を超えた。リトアニアの取り組みは、国内公共サービスのデジタル化を強化するだけでなく、最終的には世界中の政府組織がスタートアップのソリューションを活用し、利益を得る機会をもたらすだろう。
太陽光発電導入を促進する屋根一体型PVパネル
今年5月、EUは欧州全域において
太陽光発電導入に関する新たな目標を設定した。これにより2026年までに全ての新築公共建築物に、また2029年までに全ての新築住宅に屋上太陽光発電パネルの設置が義務付けられる。この野心的な目標の実現に貢献するソリューションとして、スウェーデンの
SunRoof は、タイルのような黒いPVパネルで全体を覆った屋根一体型のパネルを開発している。さらに蓄電を含めたエネルギー管理システム、またアプリを通じたエネルギーの生産と消費に関するモニタリング及び管理機能を提供している。同社の成長は著しく、2年前にはたった10名だった同社の従業員数は今年までに130名にまで達し、つい先日には1,500万ユーロを調達したばかりだ。なお、この資金は現在のターゲット市場であるスウェーデン、ポーランド、ドイツにおける地位や販売生産能力の強化、さらなるグローバル展開に充てられる予定だ。
世界初のゼロエミッションフェリー、初航海果たす
フランスの船主
La Méridionale は、マルセイユと300キロ以上離れたコルシカ島を結ぶ航路に、業界初の試みとなるゼロエミッションフェリーを導入した。フェリーに搭載された微粒子ろ過システムは、船舶から排出される主な大気汚染物質である硫黄酸化物を99%、微粒子と超微粒子を99.9%回収するという。これまで、燃料に含まれる硫黄酸化物を減らすには、汚染の少ない燃料を使うか、海水で排ガスを浄化する「スクラバー」を使用する必要があったが、環境汚染を避けることは難しかった。一方、同フェリーのフィルターシステムは、排気ガス中に含まれる汚染粒子を炭酸水素ナトリウムで中和し、フィルターバッグに回収する仕組みになっている。今後は、大気汚染の原因となる窒素酸化物の排出量を削減し、真の「ゼロエミッション」フェリーを目指すという。また、クルーズ船への技術の応用も検討している。
次世代補聴器、マスク越しの「読唇術」
全世界の人口の約5%である約4億3,000万人が何らかの聴覚障害を抱えている。補聴器は多くの聴覚障害者に恩恵をもたらしてきたが、技術上の欠点もある。そんな中、
University of Glasgowの研究チームは、マスクを着用した話者の唇を読み取ることができる新しいシステムを開発し、新世代の補聴器への道を切り開いた。この技術は、高周波センシングとAIを組み合わせて唇の動きを識別するもので、映像を必要としないため、プライバシー侵害の恐れがない。実験では、マスクなしで91%、マスクありで83%の精度でボランティアの唇を正しく読み取ることができた。さらなる開発が必要ではあるものの、この技術は今後次世代補聴器だけでなく、生体認証や音声制御システムなどに対しても大きな可能性を秘めている。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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