『ディープテック企業、資金調達額が昨年を上回る予測 』『診断精度向上で仏スタートアップ2700万ユーロ調達』『ソフトバンク、独新規ファンドのLPに』『Grace Breeding、穀物収量向上かつCO2削減の新肥料開発』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第128回」をお届けします。
ディープテック企業、資金調達額が昨年を上回る予測
欧州ディープテックは活況を呈している。Dealroomによると、この分野のスタートアップは2022年現在までに123億ユーロを調達し、昨年同時期の調達金額(122億ユーロ)を上回った。資金の大部分は、スウェーデンのバッテリースタートアップ
Northvoltが7月に行った現時点で今年最大のディール(11億ユーロ)によるものだが、他にも4月に約6億ユーロを調達した炭素回収スタートアップ
Climeworksや、8月に2億ユーロ近くを調達したグリーン水素・鉄鋼メーカー
H2 Green Steelなどの大型ディールが挙げられる。英国VCの
Amadeus Capitalでパートナーを務めるManjari Chandran-Ramesh氏は、欧州ディープテックが成功した要因として、B2Cやアプリのスタートアップと比較して直近のマクロ経済動向に左右されないこと、またイノベーションのタイムラインが通常スタートアップの1〜2年と比べて5〜7年と比較的長く、現在の不況の影響をさほど受けていないことにあると述べている。
診断精度向上で仏スタートアップ2700万ユーロ調達
医療機関は、診察までの待ち時間の短縮、専門医不足の解消、また増加する分析データに対する医師への業務支援など、様々な問題に直面している。そんな中、先日2,700万ユーロの資金を調達したフランスのスタートアップ
Inceptoは、医療用画像診断のAIに特化し、マンモグラフィー、胸部CT、頭部MRIなどに対応したAIソリューションを提供している。これにより、医師は既に使用している医療機器を変更することなく、診断の質の向上と、診断時間を短縮できるという。同ソリューションは、現在までにフランスで数百のクリニックに導入され、毎月10万名の患者の健康状態をモニタリングしている。今回調達した資金は、ドイツ、スペイン、イタリア、またポルトガルへの市場進出に加え、2024年までに毎月100万名の患者を診察できるように技術の規模拡大へ充てられる。
ソフトバンク、独新規ファンドのLPに
ハンブルクに拠点を置くVC、
Digital Transformation Capital Partners (DTCP)は先日、3億ドルでGrowth Equity III Fundのファーストクロージングを発表した。DTCPは元々、独電気通信大手
Deutsche Telekomのベンチャー部門であったものの、現在は独立している。今回のファンドでは、ソフトバンクがDeutsche Telekomと並んで最大の出資者となっているが、これは自社への直接的なリスクを減らし、資本展開の多様化を進める同社の狙いを表している。DTCPは、クラウドベースのエンタープライズソフトウェア、SaaS、サイバーセキュリティ、Web3、AI、フィンテックなど、DTCPの主要カバー地域である欧州とイスラエルで顕著なカテゴリーに焦点を当てている。DTCPにとって3つ目となる同ファンドは、グロースラウンドにおける欧州エコシステムの成長を反映するとともに、規模拡大を目指す欧州スタートアップが、米国の投資家に頼らずも、自国に近い投資家より出資を受けることができる可能性が広がっている。
Grace Breeding、穀物収量向上かつCO2削減の新肥料開発
尿素は世界の肥料市場の70%以上を占めているものの、二酸化炭素を筆頭とする温室効果ガスの主要な排出源でもある。この状況を改善すべく、イスラエルのagtechスタートアップ
Grace Breedingが立ち上がった。同社は、有害な合成肥料に代わる有機肥料として、トウモロコシ、小麦、米など幅広い作物に活用できる窒素固定化技術(NFT)を開発したのだ。先日行った実験の結果、穀物収量が18%、バイオマスが16%向上することが判明した。同製品は、収穫量を増やすだけでなく、農家が大気汚染や水質・土壌汚染といったエコロジカルフットプリントを削減し、高まる競争力上の優位性の獲得に貢献するだろう。

植木 このみ
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