『東芝、英ケンブリッジに量子技術センターを開設』、『Hyundai、自動車サブスクリプション・サービスでCasiと提携』、『Traceless Materials、代替プラスチックで約3,600万ユーロを調達』、『Mapboxが2.8億ドル調達、AI主導の位置情報機能拡張へ』、『Pryon、企業データによるAIアシスタント構築支援で1億ドル調達』、『冷却に必要なのは、‘エコな除湿’の新技術』、『ベトナムGene Solutions、2,100万ドル調達』、『EMRデジタル化ソリューションのZi.careが資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第51回」をお届けします。

東芝、英ケンブリッジに量子技術センターを開設
東芝は先週、英国Cambridge Science Parkに、量子技術に関する事業拠点(Quantum Technology Centre)を開設したと発表した。東芝デジタルソリューションズ下で完全商業化事業として運営されるこの新施設において、東芝は2,000万ポンドを投資し、量子セキュアネットワーク・ソリューションの技術開発・商業化や、QKDシステムの初期製品の製造を行う。また30人以上の新規雇用を創出するという。この量子技術センターは、物理学、工学、コンピューターサイエンスの研究に特化した東芝初の海外研究開発拠点であるToshiba Cambridge Research Laboratoryに設置されている。1991年の設立以来、東芝は英国での研究開発に2億4,000万ポンド以上を投資しており、そのうち約1億ポンドは量子ベースの技術の開発と商業化に充てられている。今回のニュースは、ディープテック・イノベーションの主要拠点としての英国の地位をさらに強固なものにするものであると言える。

Hyundai、自動車サブスクリプション・サービスでCasiと提携
Hyundai Motor Europeは、Hyundai のMaaSブランドであるMocean Subscriptionの欧州新市場への拡大に向けて、ノルウェーの自動車サブスクリプション・プラットフォーム・プロバイダーであるCasiとの提携を発表した。Moceanは、2021年から英国とスペインに導入されているが、Casiとの提携により、今後数ヶ月で大陸全域でより広範囲にサービスが展開されることになる。両社はまた、Moceanの既存顧客ベースをCasiプラットフォームに移行させている。2018年に設立されたCasiは、バックエンドと顧客対応エンドを含め、サブスクリプションで稼働する自動車のライフサイクル全体を管理するために必要なすべてのツールを備えたプラットフォームを提供しており、そのプラットフォームは50社以上の自動車関連企業に利用されている。今回の提携により、CasiはHyundai Motor Europeに、支払い、信用調査、加入管理、カスタマーサービスを含む高度に自動化された統合など、さまざまな付加的ツールを提供することになる。

Traceless Materials、代替プラスチック技術で約3,600万ユーロ を調達
ハンブルクを拠点とするTraceless Materialsは、環境に優しい代替プラスチックの生産を拡大するため、最新のシリーズAラウンドで3,660万ユーロの資金を調達した。2020年に設立された同社は、農業から出る植物残渣を利用して天然ポリマーを生成、家庭で堆肥化可能なバイオベース、さらにプラスチックフリーの顆粒に変換する。この顆粒は、プラスチックや包装業界の標準的な技術を使ってさらに加工することができ、硬質成形部品、軟質フィルム、紙用コーティング剤、接着剤など、さまざまな最終製品を生産することができる。同社によると、従来のプラスチックと比較した場合、Tracelessの素材はCO2排出量を最大91%削減できるという。また自然堆肥化条件下では、同社の素材はわずか数週間で水、腐植土、CO2に分解される。Tracelessは今回の資金調達により、ハンブルクに実証プラントを建設し、「年間数千トンの従来型プラスチック」の代替を目指す予定だ。


Mapboxが2.8億ドル調達、AI主導の位置情報機能拡張
サンフランシスコを拠点とするMapboxが、ソフトバンクグループと関連会社が主導するシリーズEラウンドで2億8,000万ドルを調達し、自動車業界でのプラットフォーム拡大と自動車へのAI統合を促進する。モバイルアプリや物流向けの位置情報プラットフォームとしての地位を確立したMapboxは、トヨタ自動車、ゼネラルモーターズ、BMWとの協業により自動車分野で躍進している。MapboxのAIマップは、車載バッテリーシステムと統合してエネルギー消費量と予測航続距離をモニターし、リアルタイムの空き状況に基づいて充電ステーションを提案、安全な支払い処理を促進することで、自動車の電動化に一役買っている。新たな資金調達で、自動運転と安全のための先進運転支援システム(ADAS)を開発し、より広範な道路や地理的な場所で機能させる計画だ。データとAI処理を組み合わせたロケーション・インテリジェンスの活用で、様々な業界のニーズに応えることが期待されている。

Pryon、企業データによるAIアシスタント構築支援で1億ドル調
Pryon Inc.は、U.S. Innovative Technology Fundが主導するシリーズBラウンドで、1億ドルを調達した。Pryonは、企業が非構造化データやその他知識の膨大な格納データを取り込んでAIアシスタントを構築できるよう、エンタープライズ向けプラットフォームを開発している。2017年にPryonを設立したIgor Jablokov氏はもともと、Amazonが2011年に買収した音声認識スタートアップYapの立ち上げ、さらに音声アシスタントAlexaの開発に従事した経験を持つ。 Pryonは、企業が自社「知識」をチャットボットやAI搭載検索インターフェイスが理解しやすい形式に素早く変換し、従業員や顧客が洞察を得るためのAI駆動型プラットフォームを提供する。そのためにPryonは、必要なコンテンツに合わせて選択され、ハルシネーション(AIモデルがエラーを起こし、事実とは異なる情報を生成する傾向)を避けるたに、根拠のある、特定の知識に基づいた独自のモデルの訓練に注力している。

冷却に必要なのは、‘エコな除湿’の新技術
カリフォルニア拠点のMojave Energy Systemsが、第3世代の液体乾燥剤による空調プラットフォームを立ち上げるため、One VenturesとFifth Wallが共同主導、Xerox Venturesなどが参加したシードラウンドで1,250万ドルを調達した。これは、高濃度の塩溶液を使って空気中の水分を受動的に引き抜き、冷たく乾燥した空気がビルに送られることで、システムからの廃熱のみを使用し、飽和水分の液体乾燥剤を「再生」(すなわち、水分を引き出して有用な高塩分状態に戻す)することによって再利用される。このプロセスは、従来の蒸気圧縮方式と比べて2倍の水分除去効率を達成し、コストを削減も可能だという。Mojaveの製品ラインは、フレッシュで涼しく、乾燥した外気を建物に供給するのに必要なエネルギーを半分に削減し、既存の市場システムより冷媒の使用量を20%軽減、1億トンのCO2排出量削減を実現する。より進化した除湿の技術が、サステナブルな空調に大きく貢献することを期待したい。


ベトナムGene Solutions、2,100万ドル調達
「ベトナム最大の遺伝子検査会社」を掲げるGene Solutionsは、Mekong CapitalからシリーズBラウンドで2,100万ドルを調達した。これは、同VCが2021年に行った1,500万米ドルの投資に続くものである。米国で教育を受けたベトナムの科学者によって2017年に設立されたGene Solutionsは、特に発展途上国の人々にとって遺伝子検査を手頃な価格で利用できるようにしたい意向だ。同社によると、その技術は新型出生前診断(NIPT)の待ち時間を数週間からわずか5~7日に短縮し、99%まで精度改善を実現している。またコスト削減の鍵は、自社でアルゴリズムを開発する能力にあるという。2022年以降、製品ラインを拡大し、東南アジア諸国向けの多発がん早期発見、パーソナライズされたがん検査、また精密がん治療にも対応している。同社は既にタイ、フィリピン、そしてインドネシアで事業を展開しているが、東南アジアのがん検査需要の高まりに対応するため、今年11月にはシンガポールにがん研究所を開設する予定だ。

EMRデジタル化ソリューションのZi.careが資金調達
インドネシアのZi.Careは、Greenwillow Capital Managementが主導し、Adaptive Capital PartnersとIterativeが参加するシリーズAラウンドで、300万ドルの資金を確保した。同社は、診断、検査結果、投薬、また治療などの電子診療情報(に重点を置いたデジタル化ソリューションを病院向けに提供している。今回得た資金は、インドネシアの様々な地域での事業拡大に使用され、インドネシア全土に広がる100以上の既存パートナーシップをもとに、新たに1,750の病院との取引を確立する計画だという。このプロジェクトは、2022年に提案されたMinister of Health Regulation no. 24を通じて、同国内における電子カルテ導入に重点を置き、保健領域におけるデジタル化の進展を奨励するインドネシア保健省の方針に沿ったものである。これにより、電子カルテの標準化を進め、米HIMSSの厳格な基準に従ったLevel 7達成を目指す。

植木 このみ
Corporate Innovation Services, Intralink Limited
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