イギリスは、その地理的優位性、欧州本土との近接性、言語、世界のタイムゾーンの中心であること、貿易やイノベーションの中心地との歴史的なつながりを、あらゆる業種の企業から長く評価されてきました。ロンドンがスタートアップにとって特別な都市であることは、疑いようがありません。世界で3番目に大きなテックハブであり、欧州最大のスタートアップハブでもあるロンドンは、活気のあるスタートアップコミュニティ、投資集中度の高さ、国際的な人材の豊富さで知られています。ロンドンにはインキュベーター、アクセラレーター、テックイベント、そして政府の支援が十分にあるため、世界で最も急速に成長しているスタートアップエコシステムの一つになっています。 スタートアップの資金調達に関しては、イギリスが他の欧州諸国を上回っており、2018年だけで78億ユーロが調達されています。その大半はロンドンで実施されたもので、Revolut、Selina、BenevolentAIなどのスタートアップが、メガ・ラウンド(巨額投資)の調達を実現しています。また、企業とスタートアップとのパートナーシップの数も増え始めており、スタートアップ企業に投下した資本の平均回収額も2012年から4倍になっています。
テクノロジー分野
強力なロンドンの銀行業界に牽引されたこともあってフィンテックの世界的中心地として知られるロンドンですが、AI、InsurTech(インシュアテック)、HealthTech(ヘルステック)、EdTech(エドテック)、AdTech(アドテック)、PropTech(プロップテック)の他、メディアやエンターテイメント業界のトップスタートアップも擁しています。10億ドル以上の価値があるとされるスタートアップ「ユニコーン」の排出数はどのヨーロッパの都市よりも多く、昨年だけで5つのスタートアップがリストに名を連ねました。 ここ数年、ロンドンでは、スタートアップ企業に対して多額の政府資金が投下されています。先週、ロンドン・テック・ウィークで講演したテリーザ・メイ首相は、野心的な目標を複数掲げ、イギリスが欧州最大のテックハブであり続けることを約束しました。その中には、量子技術の可能性を現実にするための政府資金1億5,300万ポンドや、AIとデータコンバージョンのコースに向けた、政府資金による1,000の奨学金が含まれます。 インターネットの巨大企業もまた、ロンドンに投資しています。検索エンジン大手のGoogleは巨額の費用を投じて、4,000人以上の従業員を収容できる建物をキングスクロスに建設する予定です。Facebookはロンドンに最大のオフィスを構えており、抱える職種は2,300を超えていますが、先週新たに500の職種を増やすと発表しました。そのうちの20%がAIを主要業務とします。Facebookの北欧担当マネージングディレクター、スティーブ・ハッチ氏は昨年、イギリスへの投資に対する同社の取り組みについて語りました。「イギリスは、テクノロジー企業にとって世界で最適な場所の1つです。そして、わたしたちが長期的に投資している場所でもあります」
ブレグジット
ブレグジットがスタートアップに与える影響を正確に測ることは困難ですが、海外からの直接投資(FDI)が減少する可能性があることは明白です。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)は、ブレグジットによって、イギリスのFDIは22%減少すると推計しています。FDIが減少するとの予測にもかかわらず、イギリスでは2017年に10,394社の新しいテクノロジー企業が設立されました。これは2016年の数字から60%近い増加となり、2018年にはさらに11,864社が設立されるなど、新興企業の数が急増しています。また、デジタル技術分野への投資は引き続き堅調で、イギリスの投資規模は2017年から2018年の間に61%増加し、AIへの投資も2014年から2018年の間に6倍に増加しています。このことからイギリスのEU離脱は、こうした投資を手控える要因になっていないと考えられます。 ロンドンのスタートアップ企業の従業員のうち、53%がイギリス以外の出身であることを考えると、スタートアップに人材が魅力を感じるのか、スタートアップで働き続けるのかについて、ブレグジットが与える影響を心配する向きも多いことでしょう。しかし、こうした懸念に応えるため、イギリス政府はTier1Exceptional Talent(特別才能ビザ)を用意しています。イギリスの技術エコシステムの発展に貢献してもらうため、海外から様々な分野における現在と将来のリーダーを呼び込むものです。2016年6月の国民投票後、イギリスで不安を訴えるヨーロッパ人もいるものの、Tech Nationの最近の調査によると、イギリスはテクノロジー専門職にとって魅力的な選択肢であり、日本、フランス、インドネシアに先んじて、世界の技術スケールアップ人材の5%を雇用していると報告されています。 また、イギリス政府は、ヨーロッパ出身者がイギリスで働く権利と居住する権利を獲得できるように、特別なEU居住登録スキーム(EU Settlement Scheme)を導入しました。現状では、長期にわたる(年間6カ月を超える)イギリスからの出国、もしくは重大な犯罪歴がない限り、イギリスに居住する全てのヨーロッパ出身者は、2019年10月31日まで、EU居住登録スキームを通じて適切な申請を行うことで、イギリスに長期的に滞在することができます。
アクセラレーターとインキュベーター
ロンドンには世界有数のインキュベーターやアクセラレーターが数多く存在し、その多くはベンチャーキャピタリストやプライベート・エクイティ・ファーム、そして大企業から支援を受けています。ロンドンにおけるスタートアップの代表的な拠点として、次のものがあります。
- Seedcamp:世界的なベンチャーキャピタリスト、エンジェル投資家、企業からの支援を受けたSeedcampは、28業種、150社以上のスタートアップから選ばれた650人以上の起業家に対して、アーリーステージおよびマイクロシードファンディングを実施しました。2017年8月以来、Seedcampが支援する企業は、10億ドルの評価額によって9億ドルを超える追加資金を調達しています。成功事例として、Transferwise、Revolut、Zemantaなどがあります。
- Startupbootcamp:Startupbootcampはグローバルなアクセラレーターで、主要都市で21のプログラムを実施しています。ロンドンのStartupbootcampでは、アーリーステージにある保険や金融のスタートアップに対して、3ヶ月間のアクセラレータープログラムを提供しています。2010年以来、Startupbootcampは450以上のスタートアップに2億4000万ユーロの資金を提供してきました。成功事例としてRelayr、MedEye、Sendcloudなどがあります。
- RocketSpace:業界初のテクノロジーアクセラレーターであるRocketSpaceは、業界に特化した専門知識、洞察力、行動力を備えたスケールアップをサポートしています。このプログラムは、高い能力を持つ企業の協力者とパートナーシップの機会を通して、継続的な戦略開発を提供することを目的としています。成功事例としてUber、Spotify、Hootsuiteなどがあります。
- Techstars:オートノミー、健康、小売、モビリティなどのアクセラレータープログラムを持つ、テック業界のグローバル勢力であるTechstarsは、これまでに合計1,024社をサポートし、時価総額99億ドルによって合計38億ドル以上を調達しています。成功事例にはContently、Digital Ocean、Spheroなどがあります。
- Founders Factory:Founders Factoryは、起業家向けのアーリーステージおよびレイトステージプログラムを提供しています。起業家と一流のデジタル人材のグローバルネットワークへアクセスできるFounders Factoryは、メディア、教育、美容、旅行、人工知能、金融など6種類の主要なテクノロジー分野にわたり、200以上の革新的なビジネスに投資してきました。成功事例としてFanbytes、Corechs、Cosmoseなどがあります。
- Level39:Level39は、サイバーセキュリティとフィンテックの分野で急成長しているテクノロジー企業を、世界トップクラスの顧客、人材、およびインフラへのアクセスという3つの側面からサポートします。
まとめ
全体的には、ブレグジットを取り巻く不確実性にもかかわらず、ロンドンのスタートアップエコシステムでは、スタートアップの数と投資の両方が年々増加し続けており、ますます盛んになっています。ロンドンは、創業者の事業立ち上げにおいて刺激的な場所であると同時に、産業に革命を起こす革新的スタートアップとのパートナーシップを形成しようとしている企業にとっても魅力的な場所なのです。
About the Author
マーク・ ニーロン
学生向け個別学習プランを瞬時に提供し試験準備に革命を起こしているmyStudyPal(受賞歴のあるEdTechのスタートアップ)の創設者