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インド:台頭するグローバル・ディープテック・ハブ〜6つの注目セクターとともにその魅力に迫る〜

インド:台頭するグローバル・ディープテック・ハブ〜6つの注目セクターとともにその魅力に迫る〜

多様性、野心、そしてその潜在力により驚くべき可能性に満ちた国 – それがインドです。

現代のインドで育った経験から、私はこの国が抱える発展の必要性、ビジネスへの情熱、そしてコラボレーションへの渇望を肌で感じてきました。数多くの基盤条件が国内で整備された今、こうした根源的な特性が、インドにおいて急速に進化するディープテックとイネーブリング・テクノロジー(実現技術)エコシステムを形成しつつあり、この進化がインド、そして世界の将来を形作っていくことでしょう。

その中で私が最も強調したいのは、インドが常に私を驚かせ続けてきたという事実です。スペーステックにおけるフルーガル・イノベーション(最小の資源で最大の価値を生み出すという発想)を良い例として、数多くの分野で、インドはすでにその独創性によって先進国をリードする立場に台頭しています。

GDPに占める研究開発費の割合は現在の約0.7%から、今後数十年で5倍に増加し、中国の現在の2%以上、米国の3%以上を上回る上、韓国の5%にまで近づくと予想されています。このように、インド政府は、未だ残された一部のエコシステム上の制約に迅速かつ確固たる姿勢で取り組んでいます。

このような状況下で、インドはいま、グローバル企業による参画、コラボレーション、そして事業拡大の目的地として最適な市場となっています。しかし、この急速に発展し続ける同市場の攻略は、新規参入を検討する企業にとって困難を伴うものとなるでしょう。

このような背景を踏まえ、本ブログでは、弊社インド拠点でManaging Directorを務めるJai Mallickが、なぜインドがディープテック・イノベーションにとってこれほど魅力的な市場となりつつあるのか、事業機会をもたらす6つのセクターにも追求しながら解説します。

ディープテックの機会を捉える

インドは、国際的な技術大国としての再建に向けて、今や費用対効果の高いアウトソース先という従来のイメージから大きく離れ、テクノロジー、イノベーション、開発、製造の拠点へと急速に成長しつつあります。

これは、1990年代のインド経済の自由化から製造業・サービス業への転換、インド資本市場の改革、そして政府主導による世界的に競争力を持つイノベーション・エコシステムの構築に至るまで、数十年にわたる取り組みの成果と言えるでしょう。

インドの台頭は、1) 前例のない市場規模、2) 改善された技術インフラ、3) 大胆かつ的を絞ったディープテック政策、4) 持続的なSTEM人材の供給網、そして5) 高度な資本環境、という5つの基盤的要素における強力な連携によってさらに推進され、イノベーション、持続可能な成長をもたらす主要なグローバル・ディープテック・ハブとなっています。

では、まず上記各要因に焦点を当て、その役割と、それらが総じてもたらすベネフィットを見ていきましょう。

1. グローバルな市場規模

世界最大の人口を抱えるインドは、すでに世界第4位の規模である4兆ドルのGDPを誇り、2047年までに8倍に拡大する見通しです。この成長の大部分は、今後も拡大が予想されるテクノロジーに精通した中産階級と、9億人を超えるデジタル消費者層によるものです。

この市場は、新たな技術や商品の市場性をはかる絶好の実証実験と場所となり得ます。さらに、平均年齢が29歳以下というこの膨大な顧客基盤は、数十年にわたる成長の潜在力を持ち合わせています。

2. 強化された技術インフラ  

インドの象徴的な起業家精神は、最先端技術を支えるべく再構築が進められています。国内のインフラ施設や、イノベーション、デジタルサービス、製造業、投資に対する優遇措置も同様です。この変革のスピードは目覚ましく、その背景には以下のような政府主導の横断的プログラムが大きく寄与しています。

  • Startup IndiaAIや量子技術から医療技術、気候技術に至るまであらゆる分野に取り組む3,500社以上のディープテック企業を含む、16万社に及ぶスタートアップ・エコシステムを支援
  • Digital India:インターネット・アクセスを9億人以上のユーザーに拡大し、リアルタイムのデジタル取引を促進、さらに政府と市民向けサービスを変革することで、爆発的なデジタル成長を推進
  • Make in India:インドを世界的な製造業の拠点として再度位置付け、電子機器、電気自動車、半導体、クリーンテック分野で大幅な生産能力を拡大。デジタル技術への製造投資は、インドをAI、IoT、ロボティクス、さらに先端材料、複合材料、クリーンテックの世界的リーダーへと成長
  • 生産連動型奨励制度(Production Linked Incentive: PLI:14の主要分野で260億ドル以上の投資を促進し、高付加価値の雇用を創出するとともに、インドをグローバル・サプライチェーンの要諦として位置づけ

3. 的を絞ったディープテック政策

歴史的にイノベーションの障壁と見なされてきたインドの政策は、今やディープテック発展を加速させる手段として活用されています。また協調的な枠組み、インセンティブ、重点ミッションを通じ、先見性のある政策が研究、パートナーシップ、資本の動きを促進し、戦略的分野におけるグローバル競争力の強化と次世代技術開発を実現しています。具体的な政策例には、以下が挙げられます。

  • 国家ディープテック・スタートアップ政策(National Deeptech Startup Policy:資金調達、知的財産、インフラ、人材といったスタートアップが直面しうる課題に対処し、協力的なエコシステムを構築
  • 研究開発イノベーション(RDI)計画:画期的な研究に対する110億ドル規模の助成金と優遇措置を提供し、学術界・産業界・政府機関の連携による技術移転を促進
  • Deeptech Fund of Funds:ディープテック・スタートアップに忍耐強い資本を導き、長期的なイノベーションと規模拡大を目的とした資金調達ギャップを解消
  • セクター特化型イニシアチブ(IndiaAI MissionNational Quantum MissionIndia Semiconductor MissionNational Green Hydrogen Mission :国境を越えた連携と次世代・高成長・戦略的技術分野の開発を資金面で支援

4. 世界をリードするSTEM人材

インドは、卓越したSTEM人材基盤として広く知られています。毎年150万人の工学系学生が学位を取得している上、実際に世界のSTEM卒業生の3分の1以上がインド出身であることもあり、グローバル企業が分野を問わず、長期的に持続的な質と広範な人材を確保できる場所となり得ます。

この優れた人材プールはインド国内で広く分布していますが、特に一線都市や第二線都市には多様なハイテク人材が揃い、即戦力としての活躍が期待されます。

またインドの人材は、AI、IoT、高度な製造業、医療技術などの分野で豊富な経験を有しており、サービス提供において効果的であるだけでなく、戦略的イノベーションにも対応可能です。最近は、大手企業がグローバルレベルの研究開発や製品開発機能などをインド内のチームやセンターに移管する中で、特にその能力が発揮されています。

5. 資金調達環境:シードからスケールアップまで

インドの資金調達環境は、そのイノベーションへの意欲に見合ったものとなっています。

ベンチャーキャピタルとプライベートエクイティからの投資は堅調で、国外、政府系、国内のファンドがディープテック分野の成長企業を標的とする動きが活発化しています。例えば、インドの政府系Deeptech Fund of Fundsは、リスク資本へのアクセスをさらに加速させ、初期研究から商業的成長まであらゆる段階を支援しています。

政府支援の融資、スタートアップに優しい規制、企業やLP参画の増加を含む金融エコシステムが、インドを世界で最も魅力的かつ流動性の高いイノベーション投資環境のひとつに押し上げています。

さらに重要なのは、インドが補完的な技術、応用、ベストプラクティス、そして志を持つグローバル企業とともに、同国の成長目標に向けたコラボレーションに積極的であるという点です。

機会が高い6つのセクター

では、インドにおいて、具体的にグローバル企業はどの領域でのビジネス機会に注目するべきなのでしょうか。特に有望な6つの分野は、以下のとおりです。 

  1. 航空宇宙・防衛:近年規制緩和が進み、現在は主要な成長分野として、国内外の大手・中小企業にインドの有力企業や政府機関との連携、さらに共同投資・開発・生産を行う機会を豊富にもたらしています。成熟しつつある同セクターは、同国が有するディープテックの実力を示す顕著な例でもあります。
  2. 電子機器、ITおよび量子技術: 世界有数のITサービス拠点であるインドは、電子機器のバリューチェーンにおいても急速に地位を高めており、携帯電話製造において世界第2位の規模を誇るスマートフォン市場、IoT技術、データセンター、AI、量子コンピューティングなどの分野で巨大な潜在力を秘めています。
  3. 先端製造: インド政府の「Make in India」構想は、サービス主導型経済から世界的な生産・産業技術拠点への転換を加速させ、最大9,000万人の雇用創出を実現しました。また生産連動型奨励制度(PLI)は、電子機器・通信機器から半導体・医薬品に至る先進製造を誘致するとともに、新時代のインダストリー4.0応用分野への投資促進にも貢献しています。
  4. 自動車・電動モビリティ: インドは世界第3位の自動車市場であるとともに、最も急成長しているEV市場の一つです。またコネクテッドカーおよび自動運転車向けのソリューション開発に重点を置いており、ソフトウェア、電子部品、モビリティ・プラットフォーム・プロバイダーがパイロット・プロジェクトの実施や規模拡大を図ったり、国外輸出を推進するために良好な環境が整っています。
  5. クリーンテック: インドは非化石燃料源による発電容量が総容量の50%に達し、パリ協定の公約を5年前倒しで達成、2030年までにその発電容量を500GWに引き上げるという目標へ急速に前進しています。一方で、ネットゼロ実現に向けてのインフラは未整備な領域もあるため、今でもエネルギー・農業・廃棄物資源化・技術主導型食料生産・水技術分野では大きな事業機会が期待されています。
  6. 医療技術・ライフサイエンス: インドの医療機器市場は多様な高品質医療機器を輩出しており、2030年までに300億~500億ドルの市場規模に達すると予測されています。一方で、ライフサイエンスも2033年までに2.7兆ドルを超える見込みであることもありグローバル企業はインドの先進的な研究開発クラスターとの連携による事業強化が可能です。

これら6つの成長分野に関しては、今後特集記事を公開していく予定です。どうぞお楽しみに。

まとめ:なぜ、今行動に移すべきなのか

これまでインドの魅力や強みをまとめてきましたが、日本企業が計画するグローバル展開のロードマップにおいて、インドが外せない市場であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

グローバル市場における競争が激しさを増す中、先行的に行動する企業は、パートナーシップ上の優位性、規制面での優遇措置、さらには持続的な成長力といった、後発企業が容易には得られない優位性を確保し得ます。

そんな中インドは今、政府政策やグローバル資本、現地人材が、国際貿易、技術移転、国境を超えた協業に向けた連携を強化することで、ディープテックとイノベーションの拠点として重大な転換期を迎えています。

だからこそ、インドへの市場展開計画を実行に移すのに、今ほど良いタイミングはありません。

しかしながら、インド市場への参入、そしてそこで成功を収めるのは決して容易なことではありません。効率性、献身的な姿勢、そしてビジネス文化に対する微妙な理解が不可欠です。これらのチャレンジ・課題、そしてそれらを解決する上でのヒントについては、来月発行予定のブログや11月に私も東京で登壇予定の弊社対面イベントにてお話しする予定です。

それまでの間、インドでの新規事業開拓・イノベーション連携にご関心をお持ちの方は、こちらからお声がけください。私含め、インド市場に専門知識を持つメンバーを直接ご紹介いたします。

ジェイ・ マリック
About the Author

ジェイ・ マリック

弊社インド事業のマネージングディレクターを務める。以前はBarclays InternationalおよびForesight Groupに勤務、資金調達、市場参入・成長戦略の策定、国際的なパートナーシップの構築に関する豊富な経験を有する。公認財務アナリストであり、Imperial College Londonで気候変動・マネジメント・ファイナンスの修士号も取得。

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