『スイスの炭素回収企業Neustark、6,900万ドル調達』、『CVCの89%、スタートアップ投資を増加または維持する予定』、『AIでサプライチェーンのESGリスク回避に取り組むPrewave、6,300万ユーロ調達』、『EvolutionaryScale、タンパク質研究に特化した生成AIで1億4,200万ドルを調達』、『MUFG、持続可能な航空燃料技術スタートアップLanzaJetに投資』、『Hebbia、AI活用の文書検索で約1億ドルのシリーズB資金調達』、『Paywatch、アジアでの賃金アクセスサービス拡大のため3,000万ドルを調達』、『Ascend Money、三菱UFJなどから1億9,500万ドルを獲得し、デジタル金融包摂加速へ』を取り上げた「イノベーションインサイト:第90回」をお届けします。

スイスの炭素除去プロバイダーNeustarkは、CO2回収・除去ソリューションのために6,900万ドルの新たな資金を調達した。2019年設立の同社は、提携するバイオガスプラントから炭素を回収し、液化した後、建設廃棄物のリサイクル施設に輸送するシステムを開発した。そこで炭素は、解体された建物から出るコンクリート粒に注入され、鉱物化プロセスによって粒の細孔に永久に結合される。Neustarkは現在、このような炭素回収・除去プラントをヨーロッパ全土に19カ所保有している。同社はまた、炭素除去クレジットの販売にも携わっており、これまでにマイクロソフトなどの顧客向けに約12万トンの炭素除去クレジットを販売している。同社は今回の資金調達により、2030年までに100万トンのCO2を除去するという目標を達成するため、成長路線を継続するという。

2010年当時、CVCによる投資は、欧州スタートアップが調達する資金の10%に過ぎなかったが、現在では25%以上を占めるようになっている。世界中の104のCVCを調査したMountside Venturesのレポートによると、企業投資家の89%が、今後3年間に行うスタートアップ投資の数を増やすか、少なくとも維持する予定だという。同レポートによると、ほとんどの企業はシード期からシリーズBに投資しており、回答者の91%がシリーズAに投資することを好むと答えている。一方、プレシードへの投資はわずか20%、シリーズD+への投資は11%だった。セクター別では、B2B向けサービス・製品(44%)、AIや機械学習(38%)、Fintech(37%)が上位を占めたが、Cleantech(31%)やDeeptech(27%)といった他のカテゴリーも僅差で続いた。最後に、CVCによるスタートアップへの価値提供について、「資本のみで十分である」と答えたのは CVCの13%にとどまった。大多数は、スタートアップに対する彼らの付加価値は、CVCを通じたビジネスチャンス(80%)、また顧客(66%)へのアクセスであると考えている。


EvolutionaryScaleは、元GitHub CEOのNat Friedman、AI起業家Daniel Gross、Lux Capitalが主導、Amazon、NVentures、エンジェル投資家も参加したシードラウンドで1億4,200万ドルを調達した。EvolutionaryScaleは、生物学研究にAIを応用することを目指していた元Metaスタッフによって2023年に設立された。同社はMetaのFundamental AI Research (FAIR)ユニットに在籍中、メタゲノミクスデータから数億個のタンパク質の構造を予測することができる、タンパク質研究用の最初の大規模言語モデルを開発した。最新モデルESM3は、タンパク質の配列、構造、機能を同時に解析できる生物学初のAIモデルであり、科学者が生物学をプログラムし、創薬、材料科学、炭素捕獲など幅広い用途で新しいタンパク質を作り出すことを可能にする。ESM3は、これまでの生物学のモデルの中で最大の計算能力(1兆テラフロップス)を持つ。このAIモデルは、地球上で発見された27億8,000万個のタンパク質データセットでトレーニングされた。

イリノイ発、持続可能な航空燃料(SAF)技術開発のLanzaJetは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)から投資を受けた。これはエタノールからSAFへの変換技術の拡大継続を目指しLanzaJetが行なっている1億ドルのエクイティ資金調達ラウンドの一環だ。炭素リサイクル技術企業LanzaTechによって2020年にスタートした同社、「Alcohol-to-Jet」技術を開発し、低炭素サトウキビ、森林残渣、農業廃棄物、有機廃棄物などの廃棄物系および持続可能なエタノール原料からSAFと再生可能ディーゼル製造を可能にする。LanzaJetは、ジョージア州に年間1,000万ガロンのSAFと再生可能ディーゼルを生産する、史上初の商業規模のエタノールからSAFへの変換プラントLanzaJet Freedom Pines Fuelsを開設したばかりだ。2030年までに10億ガロンのSAF生産を目標としており、SAF生産の規模を拡大する技術の青写真となることが期待されている。Microsoft、全日本空輸、British Airways、三井物産を含む企業がすでにLanzaJetへ出資している。

膨大な文書からの検索結果を返す生成AI技術を開発するHebbiaは、Andreessen Horowitz主導のシリーズBラウンドで約1億ドルを調達した。Hebbiaは、スタンフォード大学で電気工学の博士号取得を目指していたGeorge Sivulka氏によって2020年に設立された。金融業界で働く友人達から、長い労働時間の一部はSEC提出書類などから情報を検索することに費やされていると聞き、AIを使えばオフィスでの作業時間を短縮し、休息や睡眠の時間を増やすことができると考えた。HebbiaのAIは、PDF、パワーポイント、スプレッドシート、トランスクリプトなど、何十億もの文書に一度に目を通し、特定の答えを返すことができるという。主にヘッジファンドや投資銀行などの金融サービスが現在Hebbiaを利用しているが、法律事務所やその他の専門的な領域でも使用される可能性があるそうだ。HebbiaプロダクトMatrixに近い競合として、様々なビジネスアプリケーションからシンプルな英語で情報を取得できるソフトウェア、Gleanがある。


アジア市場向けの「給与即時アクセスサービス(EWA:earned-wage access)」のトップ・プロバイダーであるPayWatchは、株式とクレジットファシリティにより3,000万ドルの資金を確保した。今回の投資は、東南アジアのEWA企業としては過去最大であり、革新的な金融ソリューションを今後さらに強化していくという。「無借金のEWAオプションを提供すること」を使命として設立されたPayWatchは、従業員が従来の給与サイクルが終了する前に稼いだ給与にアクセスできるようにし、ローンへの依存を減らし、財務管理を強化する。このモデルは、家計の負債を軽減するだけでなく、様々な部門で従業員の定着率と生産性を高めている。マレーシア、フィリピン、インドネシアおよび韓国で事業を展開するPayWatchは、新たな金融包摂ツールやサービスを導入することで、地域的なフットプリントの拡大を計画している。この拡大は、多様な市場において金融アクセシビリティを推進するという同社のコミットメントを強調するものである。

タイを拠点とするフィンテック企業Ascend Moneyは、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)およびタイを拠点とするFinnoventure Private Equity Trust I Fundから1億9,500万ドルの投資を獲得した。Ascend Money社は東南アジア7カ国(タイ、カンボジア、ミャンマー、ベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシア)で決済・金融サービスを提供しており、2021年にタイ初のフィンテック・ユニコーンとなった。同社のTrueMoneyプラットフォームは、電子決済、融資、BNPL(Buy Now Pay Later)、投資、保険など幅広い金融ソリューションを提供している。タイで3,000万人のアクティブ・ユーザーを抱える同社は、広範なネットワークと、オンライン・オフラインの両分野における大手企業、事業者、加盟店との戦略的パートナーシップを通じて、幅広い顧客層にサービスを提供している。今回の資金調達により、デジタル金融包摂の加速を目指すAscend Moneyは、さらなる市場拡大とサービスの向上を図る計画である。

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