『独量子コンピューティングplanqc、シリーズAで5,000万ユーロ調達』、『三菱重工とアルセロール・ミタル、CO2再利用の新技術試験を開始』、『中国EVのBYD、トルコに10億ドルの工場建設』、『クリーン航空のZeroAvia、アメリカン航空へ水素電気エンジン100基提供』、『カナダ、EUのイノベーション・研究プログラムHorizon Europeに参加』、『ロボティクス、2024年上半期に42億ドル超の資金調達』、『インドネシアのXURYA、屋上太陽光発電レンタルで5,500万ドル調達』、『FinTechスタートアップへの資金調達、上半期で25%減少』を取り上げた「イノベーションインサイト:第91回」をお届けします。

ドイツの量子コンピューティングスタートアップPlanqcがシリーズA資金調達ラウンドで5,000万ユーロを調達したと発表した。同社は2022年にMax Planck Institute in Munichからスピンオフして設立され、個々の原子に情報を保存する量子コンピューターを構築している。このソリューションはレーザービームを用いて光の人工結晶を作り、その中に原子を捕捉するもので、他の技術よりも高速かつスケーラブルであると期待されている。先日、ドイツ政府からLeibniz Supercomputing Centreに量子コンピューターを配備するための委託を受け、またGerman Aerospace Center(DLR)向けの量子コンピューター開発のために2,900万ユーロを確保した。現在、Planqcは量子機械学習を気候シミュレーションや電気自動車のバッテリー効率改善などのプロジェクトに応用している。今回の調達資金は、量子コンピューティングのクラウドサービスの設立や、化学、ヘルスケア、気候変動対策技術、自動車、金融などの産業向けの量子ソフトウェア開発にあてる予定だという。

三菱重工業株式会社と欧州鉄鋼メーカーのアルセロール・ミタルは、ベルギーのスタートアップD-CRBNと協力し、アルセロール・ミタルの製鉄所で回収した二酸化炭素を一酸化炭素に変換し、鉄鋼や化学製品の生産に利用する新技術を試行すると発表した。D-CRBNは、2021年に設立され、CO2をCOに変換するプラズマベースの技術を開発している。このプロセスには高純度のCO2が必要であり、これは現在アルセロール・ミタルの製鉄所で高炉ガスを捕獲するために使用されているMHIの炭素捕獲ユニットから提供される。アルセロール・ミタルは、2030年までに欧州でのCO2排出量を35%削減することを目指す。この目標達成に向け、CCUSは重要な役割を果たすと期待されており、今回のケースは大企業とスタートアップが協力して重工業の脱炭素化ソリューションを開発する方法の貴重な事例となる。

中国の電気自動車メーカーBYDは、トルコ政府と合意し、EV需要の拡大に対応するため、10億ドル規模の生産工場をトルコに建設すると発表した。この施設は年間15万台のEV車とハイブリッド車の生産能力を持ち、持続可能なモビリティ技術の研究開発センターも併設される予定である。2026年末に生産を開始し、最大5,000人を直接雇用する計画である。この発表は、欧州連合が自国産業を保護するために中国製EVに対する関税を暫定的に引き上げたのちに発表された。トルコはEUとの間で特別な関税規則を設けているため、BYDの欧州市場へのアクセスを容易にする可能性がある。また、BYDはすでに2023年12月にハンガリーにEV工場を建設すると発表しており、欧州で乗用車を生産する初の中国大手自動車メーカーとなる見通しだ。


カリフォルニアに本社を置くZeroAviaはアメリカン航空と、自社開発の水素電気エンジンを100基供給する契約を締結した。ZeroAviaの推進システムは、水素燃料電池を利用して発電し、電動モーターを駆動させて航空機のプロペラを回転させるもので、排出されるのは水蒸気のみであることが利点だ。この契約には金額非公開の投資も含まれる。ZeroAviaは2017年の設立以来、United Airlines、AirbusおよびBritish Airwaysなどの航空会社から2億6,000万ドルの資金を調達している。今年初めには、ワシントン州に13万6,000平方フィートの製造施設を新設し、民間企業向けにエンジン部品の販売を開始する旨を発表した。また、90席の航空機に適した新しいエンジンも開発中である。

カナダは、欧州委員会が運営するHorizon Europeプログラムに参加する最新の非EU加盟国となった。同プログラムは、公共と民間セクターの両方を巻き込んだEUの主要な研究イニシアチブであり、イノベーションプロジェクトを支援するために935億ユーロの予算が計上されている。昨年11月、カナダの首相とEU委員長による交渉成立を受け、カナダはエネルギー転換、ヘルスケア、エンジニアリングおよびデジタル技術など幅広い分野の共同研究プロジェクトに資金を提供する「Pillar II」に参加することとなった。これにより、カナダ政府は総予算の捻出に貢献すると同時に、カナダの研究機関も研究コンソーシアムに参加し、プログラムからの直接資金提供を受けられるようになる。なお、先日韓国も本プログラムへの参加を発表しており、さらには日本やシンガポールも現在交渉中である。

2024年上半期、ロボット関連のスタートアップは、シードからグロースステージまでのラウンドで42億ドル超の資金を獲得し、年間総額は2023年を上回ると予測されている。2024年の資金調達額は、2021年の記録的な資金調達額を大幅に下回る可能性が高いが、エコシステム全体の資金調達額が減少する中、本セクターは好調に推移している。顧客のコスト削減や労働力不足の補填に対する需要増加を受けて、倉庫作業や食事の配達などの作業を支援するロボットが資金調達ラウンドの最大シェアを占めた。また、ロボット工学とAIを組み合わせて包括的な自動化ソリューションを提供するスタートアップにも多くの投資が集中している。最大の資金調達ラウンドの一つは、サンフランシスコ拠点の工場用ロボット・ハードウェアおよびソフトウェアを提供するBright Machinesであり、1億600万ドルのシリーズC資金を調達した。


インドネシアのスタートアップXuryaは、Norwegian Climate Investment Fundが主導し、Swedfundなどが参加する資金調達ラウンドで5,500万ドルを調達した。Xuryaは初期費用なしの屋上太陽光発電レンタルを専門とし、インドネシア全土でIoT対応の太陽光システムを導入している。2018年の設立以来、Xuryaは170以上のプロジェクトを完了し、大幅な二酸化炭素排出削減に貢献、1,600以上にグリーンジョブも創出してきた。現在までに総額9,000万ドルを超える資金を調達した同社、今後は様々な産業部門への事業拡大によって、年間37万トンのCO2排出削減ならびにインドネシアの2060年ネット・ゼロ目標に貢献することを目指す。

Tracxnが発表したGeo Semi-Annual Report: SEA FinTech H1 2024 によると、東南アジアのFinTechスタートアップによる2024年上半期の資金調達額は、前年の12億ドルから25%減の8億9,900万ドルとなった。この減少は、2023年下半期の13億ドルから31%の減少を示し、経済的・地政学的な課題によるものとされる。レーターステージへの投資は47%減の3億3,800万ドルと急減し、シード段階の投資も53%減の4,250万ドルとなった。一方で、アーリーステージの資金調達額は17%増の5億1,900万ドルに達した。投資テックなどの主要セグメントは666%増の2億1,600万ドルと劇的に急増したが、オルタナティブ・レンディング(代替貸付)やバンキング・テックなどのセグメントは減少した。資金調達額はシンガポールが5億1,800万ドルでトップとなり、バンコク、ジャカルタがこれに続いた。以上のような課題はあるものの、若い人口、大規模な消費者基盤および政府のイニシアティブを原動力として、東南アジアにおけるフィンテックの成長への楽観的な見方が依然として優勢といえる。
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