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イノベーションインサイト:第140回

イノベーションインサイト:第140回

『蘭政府、フローニンゲンにAI施設設立へ2億ユーロ出資』、『最新レポート:スイス・ディープテック・エコシステム』、『英Metaview、採用プロセス効率化支援で3,500万ドルを調達』、『Tacta Systems、人間レベルのロボット実現へ7,500万ドル調達』、『AI音声入力アプリ拡充に向け、Wispr Flowが3,000万ドル確保』、『Campfire、次世代AI駆動ERP構築へ3,500万ドル調達』、『Shieldbase AI、断片化した企業AIに統合OSで対抗』、『HMSP・PMI、東南アジア初の無煙タバコ製造拠点をインドネシアに設立』を取り上げた「イノベーションインサイト:第140回」をお届けします。

蘭政府、フローニンゲンにAI施設設立へ2億ユーロ出資

オランダ政府は、同国北部に位置するフローニンゲンに国営AIファクトリーを設立するため、2億ユーロを投資すると発表した。蘭政府が7,000万ユーロ、地方当局がさらに6,000万ユーロを拠出する上、7,000万ユーロの欧州共同融資を申請中だというこの構想は、オランダのAI先進国としての地位強化に向けた戦略的取り組みの一環だという。イノベーション・ハブとして機能する同施設には、研究者、スタートアップ、政府組織がスマート農業、ヘルスケア、エネルギー、セキュリティ、製造業などの分野で新しいAI技術開発に必要とするスーパーコンピューターが設置される。学術機関と革新的企業の強力なネットワークと、スーパーコンピューターのエネルギー要件を満たす送電網容量を有するフローニンゲンで、同AI施設は2026年までの稼働開始、そしてスーパーコンピューターも2027年初頭までにフル稼働を目指す 

 

 

 

最新レポート:スイス・ディープテック・エコシステム

Dealroomの最新レポートによると、スイス国内におけるVC投資の60%がディープテック領域へ集中しており、同国がディープテック・イノベーションを牽引するホットスポットになりつつあることが報告された。この割合は、世界で最も高く、世界平均(34%)のほぼ2倍だという。スイス・エコシステムは、2024年に19億ドルのディープテック資金を調達したが、今年はその数値が23億ドルまで拡大すると予測されている。セクター別に見ると、バイオテックでよく知られるスイスだが、AI/ML、クライメート・テック、エネルギー、ロボティクスの分野でも急速に企業が増えているという。これらの分野で成功しているスタートアップには、Neural Concept(AIベースのエンジニアリング・シミュレーション)、Neustark(コンクリートへのCO2隔離)、Anybotics(自律型ロボット検査ソリューション)などが挙げられる。一方で、アカデミアにも強みを持つスイスには、ディープテック・スピンアウトによる企業価値創出で、英国オックスフォード大学とケンブリッジ大学に次ぎ、欧州第3位と第4位にランクされているEPFLとチューリッヒ工科大学がある。これらの最新のデータからも、スイスが引き続きディープテック・イノベーションの重要なハブであることを示していると言える。 

 

 

 

英Metaview、採用プロセス効率化支援で3,500万ドルを調達

英国を拠点とするHRテックのMetaviewGoogle Venturesが主導するシリーズBラウンドで3,500万ドルを調達した。ビジネスにおけるデジタル化が進む中膨大なデータを必要としつつも、依然として手作業が多い人事業務の効率化を目的に、Metaview2018年に設立された。同社が開発するアシスタントの役割を果たすAI搭載型プラットフォームは、面接メモの自動取得、分析、構造化、職務記述書の作成、さらに候補者に関する質問への回答を行うことで、採用チームが管理負担を軽減しながら、より多くの情報に基づいた意思決定を行えるように支援する。同社によると、採用担当者の稼働時間を週10時間、1人当たりの面接回数を30%削減できるこのAIエージェントは、現在までに300万人の面接に対応、Sony、Deliveroo、Octopus、Brexなど約3,000社の顧客に採用されている。今回の調達資金は今後、ロンドンならびにサンフランシスコのチーム拡大に充てられる予定だ。 

 

 

Tacta Systems、人間レベルのロボット実現へ7,500万ドル調達

ロボットに高度な触覚空間知能を持たせるTacta Systemsが、合7,500万ドルを調達した。同社は、人間のように複雑な作業をこなせるロボットの開発を加速する計画で、今回の資金調達にはMatter Venture Partnersが主導した1,100万ドルのシードラウンドと、America’s Frontier FundSBVAが共同リードした6,400万ドルのシリーズAが含まれ矢崎イノベーションズ、双日、Woven Capitalなども出資しているTacta独自の「Dextrous Intelligence」は、ロボットに人間レベルの精密さと反応性をもたらすスマート神経系として機能し、環境を感知応しながら相互作用を可能にする。同社によると、「物理世界の複雑な課題を解決できる機械の実現が次のフロンティア」であり、肉体労働の自動化における同技術の変革力は「ゲームチェンジャー」として期待されている。 

 

 

AI音声入力アプリ拡充に向け、Wispr Flowが3,000万ドル確保

音声AIスタートアップのWispr Flowが、Menlo Ventures導のシリーズAラウンド3,000万ドルを調達し、累計資金調達額5,600万ドルに達した。同業当初は音音声ハードウェアの構想としてスタートした同社だが、現在は音声入力に特化したソフトウェア「Wispr Flow」の開発に注力している。Mac、Windows、iOS向けに提供を開始して以来、月次成長率50%を維持ユーザーの40%は米国に広がる上104言語で利用されている。非技術系ユーザーが3割以上を占め、メールやメモ、ドキュメント作成でシリコンバレーのVCにも愛用されているという。Big Techとの競争に備えた迅速なスケールアップの必要性から実施された今回の資金調達をもとに、同社はチーム拡充、法人向け機能の強化、Android版アプリの展開を進め、将来的には文脈を理解するAIアシスタントとして日常業務の効率化を目指す。 

 

Campfire、次世代AI駆動ERP構築へ3,500万ドル調達

次世代AIネイティブERP開発を手がけるCampfireが、Accel導のシリーズAラウンド3,500万ドルを調達した。これは、旧来型の分断されたレガシーERPから、AIを基盤とする統合型プラットフォームへの移行を示す大きな潮流を反映している。従来のOracleSAPといった大手ERPは、未だ手作業や分散データに依存しており、近代化に苦戦しているのが現状だ。一方、Campfireは独自AI「Ember AI」により、ERP、PLM、CRM、外部データを単一のインターフェースで統合し、コスト見積もりや決算業務などを自動化することで、月次決算期間を70%短縮、製造業や中堅テック企業にリアルタイムのサプライチェーン可視化を提供している。SlackGustoを支援てきAccelからの投資は、AIERPの拡張性と競争優位性を裏付けるものとなっている100以上のAPI連携と2日間での迅速な導入も特徴で、6割の製造業者が依然としてExcelを使うと言われる市場で、6兆円規模へと拡大するERP市場においてAIネイティブERPが次の主役になると期待されている。 

 

 

 

 

 

 

Shieldbase AI、断片化した企業AIに統合OSで対抗

シンガポール発のスタートアップShieldbase AIは、GenAI FundおよびFirst Moveが主導し、Tenityならびに複数のエンジェル投資家が参加する形で、新たな資金調達を実施した。調達資金は、同社製品の市場投入およびアジア太平洋地域での事業拡大に充当される。Shieldbaseは、エンタープライズAIにおける構造的な課題、すなわち、ツール・システム・AIエージェント間の断片化に着目している。多くの企業がAI導入を進める一方で、データおよび業務フローが分断され、十分なROIを得られないという課題に対し、Shieldbaseは「Cursor for the Workplace」と呼ばれる統合型AIオペレーティングシステムを開発。ソフトウェア、AIエージェント、データを一元化し、エンドツーエンドの自動化、高度なデータ合成、即時展開可能なワークフローブループリントの実現を可能とする。モジュール式アーキテクチャを採用し、オンプレミスやホワイトラベル展開にも対応、導入までの時間を大幅に短縮できる。同社のミッションは、企業がAIファーストの組織へと進化することを支援することで、システム間のシームレスな連携、組み込み型ガバナンス、測定可能な成果の実現を通じて、AI導入の実験段階から本格運用へのスケーリングを可能にする。

 

 

 

HMSP・PMI、東南アジア初の無煙タバコ製造拠点をインドネシアに設立

インドネシアのたばこ大手PT HM Sampoerna Tbk(以下、HMSP)は、親会社であるPhilip Morris International(PMI)と共同で、西ジャワ州カラワンに煙のないタバコ製品の製造施設を建設する。総投資額は約3億3,000万ドルにのぼる。この新施設には、グローバル基準を満たす試験・分析ラボが併設される予定であり、PMIにとって世界で7番目、東南アジアでは初の無煙製品特化型製造拠点となる。IQOS、VEEV、ZYN、BOUNDSといった製品の研究開発を、約200人のインドネシア人専門家が担う計画で、すでにアジア太平洋地域15ヶ国への輸出実績がある。製造拠点としての機能にとどまらず、本イニシアチブはインドネシアの地域経済生態系にも大きな波及効果をもたらす。たばこ農家19,000戸、サプライヤー1,700社、小売パートナー150万社を巻き込み、サンポエルナ・リテール・コミュニティ・プログラムを通じて1,300の新規雇用も創出している。インドネシアが生産拠点として選ばれた背景には、質の高いたばこ葉の生産と、先端技術に対応可能な人材の豊富さがある。同社はまた、PMIとの国際的な専門家交流プログラムを通じ、インドネシアの研究開発をグローバルなイノベーションパイプラインへと組み込む戦略を強化している。今回の投資は、煙のない製品を中心としたタバコ害低減分野におけるリーダーシップ確立を目的とし、インドネシアを「主要な消費市場」から「革新と製造の拠点」へと変貌させる一手となる。 

 

 

 

 

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業を統括する。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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