『英国、廃棄物から水素を製造する2億ポンド規模のプラント建設へ』、『米Lyftと中Baidu、欧州でロボットタクシー事業に参画へ』、『英Unmind、職場のメンタルヘルス改革推進で3,500万ドル調達』、『AI活用の緊急通信テックCarbyne、1億ドルを調達』、『Augmodo、空間AIの現代化と拡大推進のため3,750万ドル調達』、『キノコ収穫ロボット開発の4AG Robotics、2,900万ドル調達』、『シンガポールのSixSense、850万ドル調達』、『Thorcon International、インドネ政府より原発への規制承認を取得』を取り上げた「イノベーションインサイト:第145回」をお届けします。

廃棄物を利用した新たな水素製造施設が、匿名の中東投資家から2億ポンドの資金提供を受けて、英国イングランド東部のティルベリーに建設される。同プロジェクトは、同地に設置されている経済特区であるThames Freeportと、高温ガス化と熱分解技術を用いて廃棄物を水素含有量の高い合成ガスに変換する英国発スタートアップのChinook Hydrogenが共同開発している。同施設は、1日あたり12トンの低炭素水素を生産する能力を有し、全国的な水素充填ネットワークの支援や、産業用途への活用を目的としており、2028年の稼働を目指すという。このテThames Freeportは、全国に指定された複数の経済特区の一つで、関税優遇措置や簡素化された通関手続きを提供することで投資誘致や地域経済の成長を促進している。なお、この投資は、英国全土にわたりグリーン水素の生産施設を整備する 10億ポンド規模の包括的計画の第一段階を特徴づける機会となっている。

米国を拠点とするライドシェアリングのLyftが、中国の大手テック企業Baiduと戦略的提携を結び、Baiduの自律走行車「Apollo Go」を欧州の複数市場に展開すると発表した。競合のUberがグローバル展開を進め、フードデリバリーなど他の分野にも進出してきた一方で、Lyftは今までライドシェアを中心に、主に米国で事業を展開してきた。しかし、今年初頭、LyftはBMWとMercedes-Benz Mobilityから独マルチモビリティアプリ「FREENOW」を約2億ドルで買収し、欧州市場へ参入、9ヶ国、180を超える都市での事業展開を開始した。これは、2012年のサービス開始以来、北米以外での初めての事業拡大となる。このBaiduとの新たな提携のもと、Lyftはプラットフォームの運営を担当し、顧客サービスと車両の物流管理を行う一方、Baiduは自律走行車両と技術的な専門知識を提供する。両社はまだ規制当局の承認を待っているものの、2026年にドイツと英国にてロボット・タクシーサービスを開始する予定だ。

ロンドンを拠点に企業向けメンタルヘルス・ソリューションを開発するUnmindは、通信技術企業TELUSの投資部門であるTELUS Global Ventures,を含む投資家から、3,500万ドルのシリーズC資金を調達した。2016年に設立されたUnmindは、従業員がセラピー、ウェルネスツール、科学的に裏付けられたコンテンツ、AIコーチング、リーダーシップ・トレーニング、戦略的洞察などにアクセス可能なグローバルな職場メンタルヘルスプラットフォームを提供している。同社は、欠勤と出勤率の低下により、従業員1人あたり年間10~15%の生産性向上と6,500ドル超えの年間ROIを実現すると主張している。そのソリューションは、Uber、Samsung、Disney、Diageo、Standard Chartered、British Airwaysなどに採用されており、すでに世界中で250万人を超える従業員を支援している。なお、TELUS からの新たな調達資金と支援は、Unmindの事業拡大と、米国を含む新市場への進出推進に活用されるという。


クラウドネイティブの緊急対応技術を開発するCarbyneは、日本の110番通報にあたる911ソリューションの加速とグローバル展開を推進するため、新資金1億ドルを調達した。最新ラウンドには、AT&T Ventures、Axon、Cox Enterprisesなどから出資があり、Goldman Sachsがアドバイザリーを務めた。CarbyneのAPEXプラットフォームは、AIを緊急通報の処理と出動指示に直接統合し、前年比477%の年間経常収益成長と105%の関連機関採用率増加を記録した。現在、米国23州と6カ国にまたがる約300の拠点で利用されており、世界中で7,000人以上の通報受付者を支援し、対応時間を短縮しています。CarbyneのAIスイートはプラットフォームに組み込まれており、独自の緊急対応データを活用したリアルタイムの意思決定とリソース調整を提供する。今回の資金調達を期に同社は、北米、ラテンアメリカ、EMEA地域での事業拡大を推進し、公共安全と重要インフラのAI変革をリードし、命を救う緊急対応の新たな基準を確立することを目指す。

シアトル拠点 Augmodoは、ウェアラブル「Smartbadges」を活用した小売業者の在庫管理と店舗運営支援目的の空間AIプラットフォーム事業拡大のため、3,750万ドルを調達した。店舗従業員が着用するバッジを介し、コンピュータビジョンと3Dマッピング技術で棚の状態、過剰在庫、商品配置のリアルタイムデータを収集する。このデータは自動的に処理され、追加の労力なしで雇用主やブランドに洞察を提供する。Augmodoのテクノロジーは、オーストラリアのChemist Warehouseという最初の主要顧客に注目され、パイロット段階から全面展開に移行、TQ Ventures主導による資金調達ラウンドも参加した経緯がある。CEOのロス・フィンマンは、小売業界でディープテックのハードウェアを開発するのは「逆張り戦略」であると認めながらも、YouTubeの8倍に及ぶデイリーデータの収集と、自動運転車両規模に匹敵する小売業スタッフの労働力を考慮すると、巨大な機会があると見ている。今後Augmodoは、店舗内ナビゲーション用のスマートグラスなど消費者向けアプリケーションの開発も進める予定だ。

カナダ発アグリテックの4AG Roboticsは、Astanor VenturesとCibus Capitalが主導するシリーズBラウンドで2,900万ドルを調達した。4AGのロボットによるキノコ収穫プラットフォームは既にカナダ、アイルランド、オーストラリアで稼働しており、米国とオランダへの進出を計画中だ。世界のキノコ産業は2030年までに700億ドルを超えると予測されているが、労働力不足と利益率の圧迫が続いている産業の一つだ。4AGによると、欧米では収穫作業が生産コストの最大50%を占めるという。4AGのAI駆動型ロボットは、吸引式グリップとコンピュータビジョンを活用し、キノコの収穫、トリミング、梱包を自律的に行う。既存のインフラとの統合が容易な設計となっているのも特徴だ。40台を超える新規ロボットの注文にも応えるべく、同社は今回の資金調達を、ブリティッシュコロンビア州を拠点とする製造拠点の拡大、顧客サポートの強化、病気の検出やAIベースの収量最適化機能の追加などに充てる予定だ。


半導体製造向けAIソリューションを手がけるシンガポール拠点のSixSenseは、Peak XVのSurge(旧Sequoia India & SEA)が主導し、Alpha Intelligence CapitalおよびFebeなども参加した最新ラウンドにおいて、総額850万ドルの資金調達を実施した。 SixSenseは半導体産業が抱える最大の課題の一つである欠陥画像や機器信号といった生産データの品質向上やスループット向上、さらに良品率の最大化に資するリアルタイム・インテリジェンスへの変換に取り組んでいる。このAIにより、エンジニアが問題解決に向けた早期警告を受け取ることで、製造現場の効率と精度を飛躍的に高めることができる。今回の資金調達を通じて、同社はマレーシア、台湾、米国など主要チップ製造拠点への展開を加速させるとともに、AIを最優先に据える検査機器メーカーとの連携を強化し、現場レベルでのAI統合をさらに深化させる方針だ。また次世代R&Dにも注力し、従来の孤立した検査ツールから、AIを介して複数の機器が相互に通信し、工場全体の意思決定をリアルタイムに最適化する「ラインレベル・インテリジェンス」への進化を目指す。

シンガポールを拠点とする革新的原子力技術企業Thorcon Internationalは、インドネシアの原子力規制機関BAPETENより、ケラサに建設される施設評価計画および施設評価管理システム計画に関する正式な承認を取得した。これは、インドネシア政府による初の原子力発電関連ライセンス承認であるという。この承認は、同政府が2025年5月に「2040年までに10GWの原子力発電導入」を目標として掲げたことを背景としている。現在、同国の発電能力の大半は石炭火力に依存しており、脱炭素化とエネルギー安全保障の観点から、実現可能かつ持続可能な代替エネルギー源の確保が急務となっている。Thorconは、溶融塩炉(MSR)技術と、造船所での一括建造というアプローチにより、石炭と同等のコスト競争力を持つ原子力発電を提供する独自の優位性を有する。同社は、インドネシアにおける巨大な原子力発電市場の可能性を見据え、現地法人PT Thorcon Power Indonesiaを設立し、国内でのエンジニアリングおよびライセンス業務を担う体制を整えている。
