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海外イノベーション・スタートアップ最新情報:注目6社・最新トレンドまとめ|2025年9月11日版

海外イノベーション・スタートアップ最新情報:注目6社・最新トレンドまとめ|2025年9月11日版

『欧州ディープテックスケールアップ、EIC支援のもと12億ユーロ以上を調達』、『フィンランド発IQM、3億ドル超を調達で量子ユニコーンに』、『農業用ビジョンAIの開発加速に向けOrchard Robotics が2,200万ドルを調達』、『中小企業向けエージェンティックAIスイート拡充に向けMotionが3,800万ドルを調達』、『グリーンイティオ、持続可能バイオポリマー拡大に向け150万ドル調達』、『RushOwl、アジアB2Bシャトル事業拡大に向け1000万ドルのシリーズA資金調達』、『富士フイルム、インドで半導体事業に大規模投資を計画』、『Offgrid Energy Lab、リチウム不要のバッテリー技術で資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第150回」をお届けします。

欧州ディープテックスケールアップ、EIC支援のもと12億ユーロ以上を調達

欧州イノベーション評議会EIC)は、欧州のディープテック・スケールアップ120社以上で構成されるコミュニティである「The EIC Scaling Club」が、プログラム開始以降、総額12億ユーロ以上の資金調達を達成したと発表した。これはEICが資金提供する一方、BpifranceIESEビジネススクールなどの外部組織と連携して運営されているイニシアチブであり、現在までに次世代コンピューティング(44,710万ユーロ)、再生可能エネルギー(22,070万ユーロ)、スマートモビリティ(13,380万ユーロ)などに多くの資金が集まっているという。最大の資金調達を成功させてきたスタートアップには、世界最高効率かつ高度なエッジAIソリューションを開発するオランダ発Axelera AI、金融、エネルギー、製造、物流、宇宙、ライフサイエンス、医療、防衛など複雑な課題解決に量子AI技術を活用するスペイン発Multiverse Computing オールインワンの宇宙サービスモデルを通じて衛星コンステレーション展開のアクセス性とコスト効率向上を目指すブルガリア発EnduroSat先進的な膜反応器技術を活用し、水素輸送問題の解決に取り組むスペイン発H2SITEらが名を連ねている。 

 

 

フィンランド発IQM、3億ドル超を調達で量子ユニコーンに

フィンランドの量子コンピューティング企業IQMが、サイバーセキュリティに特化した米国投資会社Ten Eleven Venturesが主導し、フィンランドの政府系ファンドTesiEIC、Bayern Kapital、World Fundなども参加した最新のシリーズBラウンドで3億ドル以上を調達した。これまでの調達総額も6億ドルに達し、今回、ユニコーン・ステータスを達成した。大学発ベンチャーであるIQMは、オンプレミス向けの量子コンピュータと、このハードウェアを活用するクラウド・プラットフォームを構築している。大学発ベンチャーであるIQMは、オンプレミス設置向けの量子コンピュータと、このハードウェアを活用するクラウドプラットフォームを構築している。同社の54量子ビットチップは、欧州、APAC、米国における計算センター、研究所、大学、企業などですでに使用されている。2024年末、同社は量子コンピュータ30台の生産というマイルストーンを達成し、最近では米エネルギー省が運営する科学研究所、Oak Ridge National Laboratoryにオンプレミス型量子コンピュータを提供したばかりだ。同社は、新たに調達した資金を商業展開と研究開発の両方に充てる計画で、今後予定されている150量子ビットシステムの導入に向けて順調に開発を進めている。 

 

 

農業用ビジョンAIの開発加速に向けOrchard Robotics が2,200万ドルを調達

樹農家出身のCharlie Wu氏が2022年に創業したOrchard Roboticsは、Quiet CapitalShine Capitalが主導するシリーズAラウンドで2,200万ドルを調達した。コーネル大学でのコンピュータサイエンスの学びと祖父母のリンゴ農園での体験をもとに、Wu氏はトラクターに取り付けたカメラとAIを活用して果実の状態を超高解像度で撮影解析するプラットフォームを開発。果実のサイズ、色、健康状態をクラウド上に蓄積し、施肥剪定間引き収穫計画といった意思決定をデータドリブンに支援する。現在も多くの米国の果樹農家は人手によるサンプリングに依存しており、収穫量や労働力の見積もりに誤差が生じやすい。Orchardの技術はすでに主要なリンゴやブドウ農園で導入が進んでおり、今後はブルーベリー、さくらんぼ、アーモンド、ピスタチオ、かんきつ類、イチゴなどへの展開も予定されている。昨年Kubotaが買収したBloomfield Roboticsなどの競合も台頭するなか、Orchardは単なるデータ収集を超え、農業ワークフローを包括的に支える「農業OS」築を視野に入れている。

 

 

 

中小企業向けエージェンティックAIスイート拡充に向けMotionが3,800万ドルを調達

中小企業向けのAIツール群を提供するMotionは、Scale Venture Partners導のシリーズCラウンドで3,800万ドルを調達し、累計調達額は7,500万ドル、評価額は55,000万ドルに達した。2019年の創業当初はAI搭載のカレンダータスク管理アプリとしてスタートしたが、20245月に方向転換。現在は秘書業務、営業、プロジェクト管理、マーケティングなど複数機能のエージェントを統合したAIスイートを提供している。各エージェントはSalesforce、Slack、Microsoft Teamsなどの外部ツールとも連携可能で、シームレスな業務支援が可能だ。この戦略転換により急成長を遂げ、4ヶ月で年間経常収益(ARR)1,000万ドルを突破、1万社超のビジネス顧客を獲得している。料金体系は月額29ドルから、エンタープライズ向けには最大600ドルのプランも提供。投資家の間では「初期のHubSpotを彷彿とさせる」と期待が高まっており、SMB市場でのAI自動化需要の高まりがうかがえる。今回の資金は、R&Dやマーケティング、戦略的パートナーシップの強化に充てられ、統合型AIスイートのさらなる拡張を図る。 

 

グリーンイティオ、持続可能バイオポリマー拡大に向け150万ドル調達

シンガポール発スタートアップGreentioは、化粧品・特殊化学品向け機能性バイオポリマーの開発を手がけ、SGInnovate主導のシードラウンドで150万ドルを調達した。Better Bite Ventures、Silverstrand Capital、業界エンジェル投資家も出資に参画した同社は2021年に設立され、石油化学原料やマイクロプラスチックに代替可能なバイオベースポリマーを生産する独自のグリーンケミストリープロセスを特許化。水ベース製造により化学廃棄物を排出せず、炭素排出量を最大87%削減。さらに既存技術に比べ3倍のコスト効率を実現している。主力製品「Chitosola™」「Chitobe™」「Chitobela™」はすでに国際的に化粧品用途として登録済み。シンガポールに研究開発・パイロット施設を有し、欧州市場対応のためベネルクス子会社の設立も計画している。パーソナルケア、包装、食品分野における持続可能素材の普及加速を目指す体制を整備中である。 

 

 

RushOwl、アジアB2Bシャトル事業拡大に向け1000万ドルのシリーズA資金調達 

シンガポール拠点のバスシェアリングプラットフォーム「RushOwl」は、シリーズAラウンドにおいて1,000万米ドルを調達した。調達資金はB2B事業の拡大とアジア市場への進出に充てられる。同社は2018年に設立され、当初は「RushTrail」アプリを通じた通勤シャトルサービスを提供していたが、その後アジア・パシフィック・ブルワリーズやCBRE、シンガポール教育省などとの提携を通じてB2Bモデルへと軸足を移した。現在、シンガポール・インド・香港において1日150万回超の乗車と4,000便の運行を実現。特定市場では収益が3倍に拡大しており、2024年には8桁の売上達成を見込む。今後はフィリピン・韓国・マレーシアへの進出に加え、マレーシアでの研究開発センター設立を計画している。今回の資金調達により、B2B営業チームの拡充や車両パートナーシップのさらなる獲得を進め、アジア全域でのプレゼンス強化を図る構えである。 

 

富士フイルム、インドで半導体事業に大規模投資を計画

先週、富士フィルムが急成長する半導体エコシステムと優れた人材を理由に、インドに新工場を設立する意向を明らかにした。同社は製造工程におけるウエハー加工に使用される半導体材料を提供しており、TSMCGlobalFoundriesなどの顧客を抱えている。同社は、タレントハブとしての潜在力に加え、自動車、電子機器、データセンターなど多様な産業における半導体需要の著しい成長市場としての可能性を兼ね備えていることから、インドがもたらす事業機会を認識しているという。現在、製造施設への直接設備投資、インド企業とのライセンス生産、半導体メーカーとの合弁事業など、様々な投資オプションを検討中だというが、今回の計画は投資先として検討中のグジャラート州において、最大規模の一つとなる見込みであり、詳細は今後最終決定される予定である。 

 

 

Offgrid Energy Lab、リチウム不要のバッテリー技術で資金調達

ディープテック企業のOffgrid Energy Labsが、英国で2026年初頭までに稼働開始を見込む10メガワット時規模の実証施設の建設、そして技術の商業化に向けて、1500万ドルのシリーズA資金を調達した。同社は、広く入手可能な材料を使用し、リチウム系システムに比べコスト効率に優れた代替案を提供することで供給制約を緩和するため、水系電解液を用いた亜鉛臭素電池「ZincGel」を独自開発している。ZincGelは、従来のバッテリーの8090%程度でエネルギー効率を実現しつつ、特許取得済みの技術を活用し、グラファイトの使用量を削減することで、製造コストを大幅に低減する。創業後6年間をバッテリー技術の開発に費やしたOffgrid Energyは、これまでに米国、英国、インドをはじめ、中国、オーストラリア、日本など各市場で25以上の特許ファミリーと50を超える知的財産権を取得している。同社は電力貯蔵を統合することで再生可能エネルギーの利用を最大化したい企業・業種をターゲットとしており、現在Enel Groupなどのグローバル企業と特定ユースケースに合わせたバッテリー開発について協議中であると同時に、新たな英国施設を活用した技術実証へ移行する準備を整えている。 

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業を統括する。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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