『欧米初、イタリアがChatGPTの使用を一時的にブロック』、『エアコンの代替案となるか、植物由来の冷却フィルム』、『独シルクバイオポリマーメーカーのAMSilkが資金調達』、『ビッグデータをサプライチェーンに応用、Everstreamが資金調達』、『ML活用でボット攻撃に立ち向かうDataDome、4,200万ドル調達』、『早期がん検出のMercy BioAnalytics、4,100万ドル調達』、『シンガポールのVenti Technologies、2,880万ドル調達』、『Horizon Quantum Computing、量子ソフトウェア開発で資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第26回」をお届けします。 
欧米初、イタリアがChatGPTの使用を一時的にブロック
イタリアが、データ利用の透明性の欠如を理由に、チャットボットChatGPTを一時的にブロックした。欧米諸国の中で、当局がこのような措置に踏み込んだのは初めて。伊個人データ保護当局であるGaranteは、OpenAIに、ChatGPT上でイタリア人のデータ処理を停止するよう命じたほか、EUの一般データ保護規則(GDPR)違反の疑いで、ChatGPTに対する調査を開始したことを発表している。さらに、ChatGPTには年齢確認システムがなく、未成年者が不適切な情報にアクセスできてしまう点を指摘し、提供される情報の正確さとともに、その安全性についても懸念を示している。OpenAIは、20日以内に事態の改善策を打ち出さなければ、2,000万ユーロ、あるいは全世界の年間売上高の4%の罰金に直面する可能性がある。なお、今回のイタリアの規制を受け、フランス、アイルランド、英国をはじめとするその他欧州各国当局も、この問題の調査に踏み切る姿勢を見せている。 
エアコンの代替案となるか、植物由来の冷却フィルム
環境への影響が懸念されるエアコンを使用せず、グリーンに涼しい環境を作り出す方法はないものだろうか。そんな疑問に応えるべく、ケンブリッジ大学の科学者たちが、電力を消費せず、さらに環境を汚染することなく、太陽光に当たると冷たくなる植物由来のフィルムの開発に取り組んでいる。「受動的放射冷却素材」として知られるこのフィルムは、その特性から、将来的に外部からの電力を必要とせずに、建物や自動車を冷やす方法として活用できる可能性を秘めている。通常、フィルムに顔料を加えると性能が低下するため、これらの材料の多くは銀色か白色であるものの、外見の美しさが重要視される建築、自動車、衣服などで活用できるよう、ケンブリッジ大学のチームは、鮮やかな青、緑、赤で構成される冷却フィルムを開発した。加えて、キラキラのフィルムや木工仕上げのような質感も探求している。この冷却フィルムは効率もよく、1平方メートルあたり120ワット以上の冷却力を生み出し、1平方メートルあたり約80ワットを必要とする典型的な寝室のサイズには十分な性能だという。 
独シルクバイオポリマーメーカーのAMSilkが資金調達
ミュンヘンを拠点に植物由来の原料を開発するAMSilkは今週、シリーズCラウンドで5,400万ユーロを調達した。AMSilkは、微生物がシルクタンパク質を粉末、ハイドロゲル、繊維、コーティングなどの使用可能な形態に生産できるように再プログラムする技術で、繊維、医療用、消費財などさまざまな市場セグメント向けに、複雑なタンパク質を大量に生産することができる。このバイオファブリケーションシルク素材は、完全な生分解性であるため、マイクロプラスチックの供給源を一切含んでおらず、化粧品やテキスタイル、さらにはシルクコーティングされたシリコン乳房インプラントにまで使用されている。すでにアパレル、自動車、バイオテック業界の世界的なブランドとパートナーシップ契約を結んでいるAMSilkだが、今後はこの資金を活用し、この素材の工業製品化と流通を強化していく。

ビッグデータをサプライチェーンに応用、Everstreamが資金調達
サプライチェーンの予測的洞察を提供するEverstream Analyticsは、DHLを含む投資家から2,400万ドルを調達してから、わずか1年足らずとなる最新のシリーズBラウンドで、5,000万ドルを調達した。他に資金調達に成功したばかりのIntegrityNextや、Overhaulをはじめとする競合他社との差分化要因としては、サプライチェーンの相互作用に基づくビッグデータを、AIと分析で組み合わせるアプローチが挙げられる。これは材料、サプライヤー、施設の場所レベルで評価した戦略的リスクスコアを生成するだけでなく、ニュースやメディア記事などの情報源から取引データを収集し、港でのバックアップや労働不安から天候の混乱まで、企業のサプライチェーンに影響を与えるすべての変数について、最大15日先まで完全に把握できる可視性を提供する。Google、Abbott、Boston Scientific、Bayerなど幅広い業界の大手企業をすでに顧客として抱える同社は、この新たな資金を製品開発、スタッフ拡充などに投入する予定だ。 
ML活用でボット攻撃に立ち向かうDataDome、4,200万ドル調達
ニューヨーク発、ボット管理に特化したサイバーセキュリティのDataDomeが、4,200万ドルを調達した。ボットを活用した攻撃は詐欺への共通経路となっており、AIによって、脅威行為者が高度な攻撃を数分で作成できるのが現状だ。インターネットトラフィックの42.3%は、現にボットに属しており、その多くはウェブサイトやAPIをクロールして脆弱性を特定するように設計されている。これを受け、DataDomeのような企業は、ボットによって組織されたアカウントの乗っ取り、偽アカウント作成、支払い詐欺などの脅威を特定するためにAIを活用する。同社のプラットフォームは、エッジでの機械学習とAIによる検出エンジンで、1日3兆個以上の信号を処理し、ウェブサイト、モバイルアプリ、APIを標的としたボット攻撃を特定する。2026年には9億8,300万ドルに増加すると推定されるボットセキュリティ市場、今後さらに比類ないスピード、精度、専門性をもって攻撃を検知できるソリューションが求められる。 
早期がん検出のMercy BioAnalytics、4,100万ドル調達
細胞外小胞を活用した早期がん検出に取り組むMercy BioAnalyticsが、肺がんスクリーニングテスト開発のため、Novalis LifeSciencesが主導し、女性だけのベンチャーキャピタルBroadway Angelsなどが参加したシリーズAラウンドで、4,100万ドルを調達した。米国がん協会は、2023年の肺がんによる死亡者数は12万人を超え、がんによる死亡原因の第1位となると予想している。Mercy BioAnalyticsのスクリーニングは、患者から血液などの体液サンプルを採取し、その中に含まれるがん細胞由来の物質を解析するリキッドバイオプシーを用いて、がんの早期発見における格差障壁を解決する機会をもたらす。同社のシンプルで安価な血液ベースのスクリーニング検査は、腫瘍由来の細胞外小胞の表面に見られる複数のがん関連バイオマーカーを同時に検出し、早期検知によって命を救う新しいツールになると期待されている。同社では今後、卵巣がんを含む様々ながんに対応した検査開発も予定している。

シンガポールのVenti Technologies、2,880万ドル調達
グローバルサプライチェーンや港、空港、倉庫、工場などの産業ハブ向けの自律型ロジスティクス・ソリューションを手がけるVenti Technologiesが、LG Technology Venturesが主導したシリーズAラウンドで2,880万ドルを調達した。2018年にシンガポールで設立されたVenti Technologiesのフルスコープ自律走行ソリューションは、既存のインフラに変更することなく、あらゆる物流・産業ハブの全車両に対応可能だ。世界最大級の港湾における3年間の開発期間を経て、同社の車両は複雑な環境や交通量の多い場所でも正確に移動でき、15メートルのトラクタートレーラを1インチ(約2.5センチ)単位で正確に駐車することができるという。今回の調達資金は、世界中の顧客からの高まる需要に対応するための事業成長加速に充てられる。 
Horizon Quantum Computing、量子ソフトウェア開発で資金調達
シンガポールを拠点に、量子コンピュータ向けソフトウェアの開発プロセスを簡素化・迅速化する新世代のプログラミングツールを開発するHorizon Quantum Computingが、Sequoia Capital India、Tencent、SGInnovate、Pappas Capital、Expeditions Fundなどから1,810万ドルの資金を確保した。同社ツールの利用には量子コンピュータの経験を必要としないため、あらゆるソフトウェア開発者がその恩恵を受けられるようになる。Horizonは今回の調達資金により、製品開発を加速させるための科学・技術チームの強化、欧州での新しいエンジニアリングセンターの設立、またHorizonの独自技術の市場投入を目指す。
植木 このみ Open Innovation Group, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。