『欧州スペーステック投資ガイド 』『欧州投資家が注目する長寿テックの動向』『数字で見るスイスエコシステム』『イスラエルフードテック企業の台頭』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第90回」をお届けします。
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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
欧州スペーステック投資ガイド
近年、新しい企業が次々とスペーステックに参入している。2021年も最初の9ヶ月だけで、世界的に約77億ドルの民間投資が同分野に投入された。そんな中、欧州では過去数年間だけでSeraphimやPrimo Spaceなどのスペーステック専門VCが約5社と異例の勢いで増加する一方、同域に本社を置くスペーステックスタートアップも450社以上存在しているという。また彼らのビジネスは政府からの委託だけでなく、米国や日本の民間企業とのB2Bビジネスで成り立っている部分があり、今年欧州スペーステック投資の平均取引額が初めて北米を上回った。今後、欧州内で業界リーダーになりうる国としては、欧州宇宙機関(ESA)の本部やAirbusの本拠地であるフランス、ESAへの貢献度が高いドイツ、3.6億ポンドを調達してきた衛生企業のOneWebを輩出するイギリス、イタリアなどが挙げられている。また活躍が期待される分野は衛星データの活用やサイバーセキュリティだが、スペースデブリの除去に取り組む伊D-orbit(丸紅と提携)のような企業も注目されている。
欧州投資家が注目する長寿テックの動向
過去5年間の科学的発見により、老化の進行を止めることができるかもしれない。このような期待から、欧州ではKorify capital、Apollo Health Ventures、Maximonなど長寿テックに投資する企業が次々と現れている。近年老化研究の発展に貢献してきたのは、機械学習とAIを用いた膨大なデータ分析技術だ。老化の原因は、DNAが損傷し細胞の複製が停止することや、細胞分裂の回数が最大に達し再生されなくなることだが、近年の技術の進歩によりこれらを自然なスピードで阻止するためのデータ解析ができるようになった。一方、米国で近年爆発的に売れているメトホルミンやメラトニンをはじめとするサプリメントビジネスが、生物学的年齢を引き下げる効果があるとして欧州でも注目を集めており、次週には、Maximonがスイスで長寿関連成分に焦点を当てたサプリメントを販売するスタートアップAveaを設置する予定だ。また「長寿のための輸血」や「3D印刷臓器」の活用というアイデアも存在しているという。これらはまだ安全性の検証・確立を必要としているが、今後のポテンシャルに期待したい。
数字で見るスイスエコシステム
欧州各国と同様、2021年はスイスエコシステムにとっても記録的な年となった。同国スタートアップには過去最高となる31億ドルの資金が投入され、エコシステム全体の価値は2016年の約3.7倍にのぼる1490億ドルに達した。この成長を牽引しているのは、ヘルス・バイオテック関連のスタートアップや大学のスピンアウトだ。スイスは起業家精神が旺盛な国で、人口100万人当たりのスタートアップ数は630社と、その数は国家規模の大きい近隣諸国と比べても多くなっている(ドイツの3倍)。また、人口100万人当たりのユニコーン企業の数も3社と、同数を輩出するスウェーデンを除く欧州のどの国よりも多い(フランスの6倍)。そんな中、今月、アサヒグループホールディングスがローザンヌ連邦工科大学のスピンオフ企業Embion Technologiesにリードインベスターとして投資した。Embionは、独自プラットフォームによりバイオマスから高機能栄養素を抽出・生成するバイオテック企業で、アサヒグループ同様、食品生産に伴う環境負荷を最小限に抑えるためのサーキュラーエコノミーの実現を目指している。
イスラエルフードテック企業の台頭
イノベーションハブとして注目を浴びるイスラエルでは、フードテック企業の躍進も著しい。アルコール飲料メーカー
Verstillは、スピリッツの蒸留及び熟成プロセスを正確に制御できる生産技術で、従来の数分の一というたった数週間でアルコール飲料を製造することに成功した。この技術は、変化する消費者トレンドに効率的かつ迅速に対応するとともに、製造コストも最大90%カットできるため、ローカルの蒸留所への導入と管理技術を通してサプライチェーン全体を大幅に合理化することができる。同社は既に米国でも戦略的提携を行なっている。また、
ミツバチを使わずにラボ内で植物ベースの蜂蜜を培養する
Bee-ioは、ミツバチの胃の中で起こる生物学的プロセスや酵素を模倣する技術を持ち、世界で初めて100%単一花粉の、また通常の蜂蜜と同様にビタミン、抗酸化物質、カルシウムなどの成分を含む蜂蜜の生産に成功した。同社は2022年3月までに工業規模での培養蜂蜜生産を開始する予定だ。なお、先日弊社が発表した駐日イスラエル大使館経済部経済公使およびイスラエル・イノベーション庁への
インタビューブログでも、同国フードテックエコシステムの成長が取り上げられている。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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