『デンマークのグリーン燃料プロジェクトが大型資金確保 』、『英国サイバーセキュリティエコシステム、記録的な年に 』、『スイス発Oxyle、水の動きで汚染物質を除去 』、『 富士フイルム、Inspirata買収でデジタル病理事業に本格参入』、『Helm.ai、人的操作不要の自律走行技術で3100万ドル調達』、『投資家がこぞって注目するフェムテック業界』、『暗号資産のAmber Group、3億ドルを調達』、『Validus、SME向け金融プラットフォームで資金調達 』を取り上げた「イノベーションインサイト:第12回」をお届けします。
デンマークのグリーン燃料プロジェクトが大型資金確保
デンマーク商業庁は先週、欧州のIPCEI(Important Projects of Common European Interest)プログラムにデンマークが参加する一環として、Power-to-Xに関するフラッグシッププロジェクトである『Green Fuels for Denmark(GFDK)』に約8000万ユーロを授与したと発表した。GFDKは、再生可能な水素、eメタノール、eケロシンを製造し、大型輸送機関の脱炭素化を目指している。GFDKコンソーシアムは、Ørstedが主導し、重車両輸送(DSV)、海運(Maersk、DFDS)、航空(コペンハーゲン空港、スカンジナビア航空)の主要オフテイカーと提携している。またTopsoe、Nel Hydrogen、Everfuel がテクノロジーパートナーとして、COWIがナレッジパートナーとして参加しており、GFDKはH2RES実証プロジェクトの成果を基に、技術のスケールアップを目指すという。今回のデンマーク商業庁からの資金提供により、プロジェクトの第一段階である10MW、100MW、300MW規模の各水電解装置の展開加速が期待される。 
英国サイバーセキュリティエコシステム、記録的な年に
Dealroomの最新レポートによると、英国のサイバーセキュリティ関連スタートアップが今年現時点までで6億ドル以上を調達し、過去最高額となった昨年の5.9億ドルを既に上回っているという。この記録的な数値は、暗号資産カストディアンCopperのシリーズC(1億8100万ドル)などによるレイターラウンドの増加、さらに合計額の70%近くを拠出している外国人投資家に後押しされている。同エコシステムは、280社以上のスタートアップ、60社以上のスケールアップ、4社のユニコーンで構成され、その企業価値総額は300億ドルにのぼる。また注目すべきは、大学からのスピンアウトが価値総額を占める割合が、英国テックエコシステム全体ではたった4%であるのに対し、サイバーセキュリティ業界では18%に達している点だ。その中でも特に大規模な成功を収めてきた企業には、ケンブリッジ大学発のDarktraceやFeaturespace、さらにオックスフォード大学発のPQ ShieldやQuantum Diceが挙げられる。 
スイス発Oxyle、水の動きで汚染物質を除去
世界の淡水資源は驚くべき速さで枯渇し、水中の有害な微量汚染物質が私たちの健康と環境に悪影響を及ぼしている。そんな中、スイスに拠点を置くOxyleは、新たな廃水処理技術でこの危機の解決に乗り出している。Oxyleのソリューションは、有機汚染物質を炭素やフッ化物などの無害なミネラルに分解するナノ多孔質触媒を使用することにより、PFAS、医薬品、ホルモン、農薬などの微量汚染物質を除去することができる。同社は現在、農薬、化学、繊維顔料、エレクトロニクス、製薬分野などの顧客と実施した有償試験におけるフィードバックを集めている最中だ。Oxyleは、排出規制を遵守する必要がある企業向けに、モジュール式のリアクターを通じて接続された微量汚染物質をリアルタイムで監視するための分析プラットフォームを提供している。同事業は既に商業化に向けて動き出しており、先週のプレシードラウンドで調達した300万ドルをはじめ、2020年の創業以来、その調達資金総額は740万ドルに達しているという。 
富士フイルム、Inspirata買収でデジタル病理事業に本格参入
富士フイルムは、デジタル病理診断用ソフトウェアを開発するフロリダ発Inspirataを買収すると発表した。同社のデジタル病理テクノロジーDynamyxは、複数のスキャンベンダーからのスライド画像を使用し、より迅速な診断結果、画像記録の一元化、臨床医向けの画像に企業アクセスを提供する。このソリューションは、複数のラボ拠点で大量の病理画像を扱う医療施設に設置されているため、今後富士フイルムは大規模なパートナーシップを構築し、デジタル病理事業への本格参入、さらにメディカルシステム事業の拡大に繋げる狙いだ。現状、米国の85%、欧州の86%、アジアの90%の医療機関における病理診断が、依然としてアナログで運営されていることから、同社は病理画像デジタル化の大きな役割を担うことになる。富士フイルムはつい先週、細胞の画像解析受託サービスを展開する米バイオテックPhenoVista Biosciencesへの出資も発表したばかりで、今後、新薬候補物質の新たな評価手法を構築し、創薬支援ビジネスも拡大させる予定だ。 
Helm.ai、人的操作不要の自律走行技術で3100万ドル調達
カリフォルニアを拠点に先進運転支援システム(ADAS)、自律走行、ロボット工学向けに設計されたソフトウェアを開発するHelm.aiは、Freeman Groupが主導するシリーズCラウンドで3100万ドルを調達した。このラウンドには戦略的投資家として本田技研工業、Goodyear Ventures、Sungwoo Hitechが参加し、Helm.aiの評価額は4億3100万ドルまで上昇した。Helm.aiは、人間と同等にセンサーデータを理解できるソフトウェアを、自動車業界のあらゆるOEMやTier 1サプライヤーに販売、ハイエンドのADASやレベル4 (車両操作に人的操作を必要としない)ソリューションでソフトウェアの差別化を実現している。今回調達した資金は、50人規模の従業員の増員、研究開発、そして商業的パートナーシップの構築に充てられる予定だ。 
投資家がこぞって注目するフェムテック業界
月経用品、婦人科系機器、不妊治療ソリューションをはじめとするフェムテック業界の資金調達総額が、この夏160億ドル(2021年12月以降15%増)に達し、その関心の高さがうかがえる。とはいえ、不妊治療以外の分野に投資が向かうようになったのは最近のことだ。例えば、2021年にシリーズBラウンドで1億ドルを調達したサンフランシスコ発Tiaは、シスジェンダーやトランス、ノンバイナリーの人々にも、オンラインと対面で幅広いサービスを提供している。また不妊治療のヘルスケアプロバイダーであるニューヨーク発Kindbodyは昨年、同分野のスタートアップとしては過去最大の6200万ドルを調達した。他にも、更年期障害治療薬の処方と配達サービスEvernowや、遠隔医療で中絶サポートを提供するHey Janeも資金を集めている。2022年の投資額の多くがシリーズAやシードステージに流れていることから、フェムテック業界においては今後も新たな革新的技術に投資が向かうことが予想される。なお、10月に日本で開催された展示会Femtech Tokyoに関する弊社ブログ(英語)はこちら。 
暗号資産のAmber Group、3億ドルを調達
SequoiaやTemasekが支援する暗号資産企業のAmber Groupが、最新のシリーズCラウンドで3億ドルの資金調達を行った。今回の投資は、特にアジアで活発なブロックチェーン特化型ベンチャーキャピタルとして知られ、同社の既存投資家でもあるFenbushi Capitalを中心に行われた。Amber Groupは、デジタルアセット取引、商品、インフラの業界リーダーとして、トークン発行会社、銀行、フィンテック企業から、スポーツチーム、ゲーム開発者、ブランドまで、あらゆる企業と連携しており、今年2月時点でその取引額は累計1兆ドル相当、運用資産は50億ドルを超えると言われている。暗号資産業界では不安定要素が多々見受けられる昨今だが、先週のBloombergの報道によると、Amber Groupの評価額はまだ30億ドル近くとなっている。 
Validus、SME向け金融プラットフォームで資金調達
シンガポール発Validus が、NongHyup Financial Group、農林中金、あいざわアセットマネジメント、Lotte F&L SingaporeなどからシリーズC-1 ラウンドにて資金調達に成功した(金額は非公開)。2015年に設立された同社は、インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナムにおいて、SME向けに融資を提供してきた。AIとデータを活用したValidus のSME向けall-in-one ファイナンスプラットフォームは、融資、ビジネスアカウント、コーポレートカード、決済、経費管理などをワンストップの金融ソリューションとして提供し、顧客の生産性向上に貢献する。Validusは最近、シンガポール国内において中小企業やスタートアップ向けに手数料無料のビジネス口座を開設したほか、シティバンクとの提携も発表している。なお、今回の資金調達により、より迅速で便利なSME向けデジタル融資ソリューションに焦点を当てた商品及びサービスの開発をさらに進めていく予定だ。
植木 このみ Open Innovation Group, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、日本大手企業に対する海外オープンイノベーション支援、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。