『EU諸国、100億ユーロのファンド・オブ・ファンズを設立』、『Equiwattの家庭エネルギーコスト削減アプリを英国政府が支援』、『韓国LegoChem Biosciences、Elthera の抗体薬物複合体を買収』、『ソーラーパネルを農地に設置、Pristine Sunが2.5億ドル調達』、『EVサブスクリプションのMotor、三菱商事などから資金調達』、『ジェネレーティブAI のRegie.ai、約2000万ドルを調達』、『Sequoia Capital Southeast Asia、越境決済のTazapayに出資』、『シンガポール発、SwipeRxが1,000万ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第19回」をお届けします。

EU諸国、 100億ユーロのファンド・オブ・ファンズを設立
欧州投資銀行(EIB)とEU5ヶ国政府は今週、欧州スケールアップを支援するベンチャーキャピタルに投資するため、100億ユーロを目標としたファンド・オブ・ファンズを発足させた。「European Tech Champions Initiative」(ETCI)と名付けられたこの新ファンドは、欧州投資基金(EIF)が運営し、既にスペイン、ドイツ、フランス各国から10億ユーロずつ、イタリアから1億5000万ユーロ、ベルギーから1億ユーロを初期出資資金として確保している。EIBもさらに5億ユーロを拠出し、その拠金総額は現在までに37億5000万ユーロに達しているが、今後、その他EU諸国政府の出資により、その規模は拡大すると予想されている。ETCIは、5,000万ユーロ以上の資金調達ラウンドに参加するVCファンド10~15社に投資する予定で、レイターステージにあるテック企業への投資促進を主な目的としているものの、このファンド・オブ・ファンズにより、欧州の戦略的自律性を強化することも期待されている。 
Equiwattの家庭エネルギーコスト削減アプリを英国政府が支援
エネルギーコストの高騰と気候変動への意識向上により、一般消費者や企業のエネルギー使用に対する意識が高まる中、英国発Equiwattは、消費者がエネルギーに関してよりスマートな選択ができるよう、報酬型のプラットフォームを備えたアプリを開発している。ユーザーは、家電製品やEVをEquiwattのエネルギー管理システムに接続することで、グリッドへの需要が高く、エネルギーが最も高価な時間帯に通知を受け取り、電力使用量の多い家電製品やEVの充電を自動的に停止させることで、同アプリからアマゾンなどの電子ギフト券に交換可能なポイントが付与される仕組みだ。また同社は、バーチャル発電所を通じたコネクテッドホームのネットワーク拡大に向けて英国National Gridが実証実験を行う、需要柔軟性サービス(DFS)の認定サプライヤーでもある。さらに英国政府のEnergy Entrepreneurs Fund(EEF9)からも資金を確保しており、公共部門がスマートで分散型のエネルギーシステムの開発に積極的に取り組んでいることを反映していると言える。 
韓国LegoChem Biosciences、Eltheraの抗体薬物複合体を買収
韓国のLegoChem Biosciencesが、スイスのバイオ医薬品スタートアップEltheraと、抗体を用いた新しい抗体薬物複合体(ADC)療法の開発と商業化についてライセンス契約を締結したと発表した。これにより、LegoChemBioは、本抗体を組み込んだ今後の製品開発及び商業化を請け負うことになる一方、Eltheraは非公開の契約一時金、マイルストーン、さらに製品の純売上高に応じたロイヤルティを受け取る。2016年に設立されたEltheraは、個別化医療アプローチによるがん患者の診断と治療に向けた抗体開発に特化し、そのライセンス抗体は、膵臓がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、大腸がんなど複数の固形がんを対象としている。なお、LegoChemにとってこれは独自のADC技術を適用した、5番目のADC臨床候補となるという。

ソーラーパネルを農地に設置、Pristine Sunが2.5億ドル調達
農作物栽培、家畜放牧、果物栽培などの農作業と太陽光発電モジュールを同時に設置するアグリボルタイクス開発会社Pristine Sun Corporationが、2億5000万ドルの調達に成功した。アグリボルタイクスは、土地の使用量を削減し、発電モジュールの性能と栽培の両方にメリットをもたらすため、土地所有者にとっては収益源の多様化も見込まれている。近年、米国や欧州で大きな関心と支持を得ており、米エネルギー省が出資する再生可能エネルギー研究所なども、太陽光発電と農業の組み合わせの利点について複数年にわたる研究を実施している。1996年以来、25GWを超える太陽光発電と風力発電のプロジェクトを開発してきたPristine Sunだが、今後もカリフォルニア、テキサス、ルイジアナ州で5GW規模の太陽光発電プロジェクトを推進する計画だ。 
EVサブスクリプションのMotor、三菱商事などから資金調達
EV普及促進に向け、バージニア発Motor が、AESと三菱商事からシリーズAラウンドにて700万ドルを調達した。同社は、何百万の米国民が日常生活を妨げられることなくEVへ乗り換えができるよう、EVのサブスクリプションサービスを展開している。このビジネスモデルでは、自宅でEVを充電する傍ら、長距離移動にはEVではないセカンドカーを所有することができる。これは、バッテリーの航続距離がはるかに長くなり、公共充電施設が広く設置されるまではEVは普及しないという従来の懸念に代わる、新鮮な考え方として注目されている。Motorは、EVの確保、配送、登録、保険加入、充電器設置などを包括的に、毎月定額で提供することで、こうした潜在的なEVドライバーの獲得を目指すと同時に、開拓した新規顧客をスマート充電プログラムに加入させることで、電力会社からも報酬を得ているという。 
ジェネレーティブAI のRegie.ai、約2,000万ドル を調達
サンフランシスコに拠点をおき、市場開拓チームのコンテンツ作成ワークフローの合理化に取り組むRegie.aiが、Khosla VenturesやFoundation Capital などから約2,000万ドルを調達した。現在開発中のソリューションは、GPT-3を介したパブリックデータセットと組織内クラウドにあるプライベートデータセットを活用し、コンテンツ制作をより効率的かつインパクトあるものにすることで、営業チームによる顧客の営業シーケンスやパーソナライズされたメールの作成、さらにその営業コンテンツの保存や分析をサポートする。2020年に設立されたRegieは、2021年から2022年にかけて、前年比365%の収益成長を記録し、Runway、Seek AI、Omnekyといった競合他社と並び、ジェネレーティブAI成長の勢いに乗っている。今回の資金調達により、今後はさらなるスケールアップを目指す。

Sequoia Capital Southeast Asia、越境決済のTazapayに出資
越境決済を可能にするシンガポールのTazapayは、Sequoia Capital Southeast Asiaが主導するシリーズA資金調達で1,690万ドルを調達したと発表した。インドのUPIやシンガポールのPayNowのようなオープンバンキングや決済サービスの台頭は、企業にとってコストの削減を意味するだけでなく、クレジットカードを所有しない新興国の何億もの顧客に対して新しい決済の選択肢を提供することを意味する。Tazapayは、国境を越えて販売する加盟店向けに、カードとリアルタイムの両方の決済手段をフルスタックのサービスとして組み合わせ、一つの決済プラットフォームで完結するように設計されている。加盟店は、同社のグローバルネットワークを通じ、170 以上の市場でのクレジットカード対応、また単一のAPIを通じた85 の市場をカバーする現地での代金回収サービスを利用できるため、現地法人を設立せずに、顧客からの低コストで安全な支払いの受け入れが可能になるという。同社は、今回の資金調達により、現地におけるリアルタイムの代金回収チャネルを今年末までに100市場以上に拡大する予定だ。 
シンガポール発、SwipeRxが1,000万ドル調達
SwipeRx(旧mClinica Pharmacy Solutions)は、薬剤師が互いにつながり、正確な医薬品や健康情報を検索し、無料の職務能力開発モジュールにアクセスできるオールインワンアプリで、1000万ドルの追加シリーズB資金を確保した。これは、昨年5月に行われた2700万ドルのシリーズBラウンドに続くものとなる。東南アジアでは、薬剤師の3人に1人がSwipeRxを利用しており、同社は25万人以上の薬剤師と5万軒の薬局の充実したネットワークを築いてきた。また、シンガポールに加え、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシア、タイ、カンボジアでも事業を展開している。同社は今回の調達資金を、医療に特化した物流や融資への投資、主要市場におけるプラットフォーム及び薬局ネットワークの拡大、また高度なデータチームの増強に充てる予定だ。
植木 このみ Open Innovation Group, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、日本大手企業に対する海外オープンイノベーション支援、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。