『2021年における欧州VC投資』『今年注目すべきディープテックの分野』『災害救助用「アイアンマン」風ロボットiCub』『仏、青果のプラスチック包装を禁止』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第91回」をお届けします。
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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
2021年における欧州VC投資
2021年、欧州とイスラエルのVC投資額が初めて1000億ユーロを超えた。ニューノーマル下での需要拡大や欧州エコシステムに対する投資家の関心の高まりの結果、スタートアップ企業評価額は過去最高最水準となり、かつてない数のユニコーンが誕生した。英国ではRevolutが評価額330億ドルに達したほか、デジタルペット保険のBought By Manyが新たにユニコーンの地位を獲得したことがあげられる。欧州第2のVCハブであるドイツではプロセスマイニングソフトウェアのCelonisが同国最高の評価額(110億ドル以上)を記録。北欧では、スウェーデンのリチウムイオン電池スタートアップNorthvoltやペイメントソリューションのユニコーンKlarnaが大規模な資金調達をした他、デンマークの経費ソリューション企業Pleoが新たにユニコーンの仲間入りを果たした。その他、中東欧でも資金調達が激増しリトアニアでは投資額が990%も増加した。また、イスラエルのVC投資は100億ユーロの大台を突破、サイバーセキュリティのWizをはじめとする複数のユニコーンが誕生した。
今年注目すべきディープテックの分野
ディープテックは、参入障壁が低く競争が激しい消費者向けテック領域と異なり、IPによって事業が守られるため、多くの投資家の関心を集めている。中でも注目を浴びるのは量子コンピュータの分野だ。これまでは量子ビットのスピン状態を長時間維持できるハードウェアや材料がなかったため、エラーを起こしやすく計算の安定性を維持できなかったものの、2022年は堅牢な量子ビットを実現する材料と技術の開発が期待されており、電池材料モデリングなどの領域での活用が望まれている。また、核融合エネルギーの分野でもブレークスルーが期待される。欧州ではグルノーブルの
Renaissance Fusionやミュンヘンの
Marvel Fusionなどのスタートアップ企業が新しいアプローチで長年の研究を加速させている。さらに、ヘルステックの分野でも投資の集中が見込まれる。特に機械学習によるラボのスループット向上や、複数のゲノミクスソースから取得した情報を解釈し医療知識と関連付けることにより、多様な疾患への理解が進むことが期待されている。
災害救助用「アイアンマン」風ロボットiCub
イタリア技術研究所の科学者チームはiCubと呼ばれる小型人型ロボットへの推進用バックパックの装着を試みている。マーベル社のスーパーヒーロー「アイアンマン」のように、パワーと方向をコントロールできるシステムも手のひらに搭載する予定だ。15年前に設立されたこのチームは、iCubの飛行能力と小型化により人間やドローンが到達できない災害地域での貢献を目指している。従来の人型ロボットは屋内でしか利用できず、世界中で年間1億6千万人が影響を受ける自然災害に対しては無力であった。そんな中、今回誕生した飛行可能な身長104cmの iCubは、地震発生時などの屋内救助、屋外救助の両立が期待される。既に物体を操るフリーアームと大きな障害物を乗り越えるための推進エンジンを搭載し、四つん這いなど様々な姿勢をとることができ、手のパーツは高度な操作ができるよう設計されている。これまでに40台以上のロボットが製作され、欧州、米国、韓国、シンガポール、中国、日本の研究所で利用可能となっている。
仏、青果のプラスチック包装を禁止
元日、フランスで青果のプラスチック包装を禁止する法律が施行された。まずは30種類の青果がプラスチック包装の禁止対象となり、これにより年間10億個以上の包装が削減できると推定されている。一部の品種には移行期間が認められるものの、2026年には青果全種、そして2040年には使い捨てプラスチック包装そのものが廃止される予定だ。同国が2019年に行った調査では、回答者の85%が使い捨てプラスチック製品の禁止に賛同していた。気候問題や環境・海洋汚染が喫緊の課題とされる中、近隣諸国でもフランスに追随する動きが見られる。スペインでは2023年から青果のプラスチック包装を禁止する予定で、英国でも買い物客の75%が包装に使われるプラスチックの量に不安・不満を感じていると回答しており、フランス同様の施策を取るべきとの声があがっている。これらの事情を受け、サステイナブル・パッケージングのスタートアップ企業がますます注目を浴びている。代表的な企業には、植物由来の生分解性パッケージを提供する
Sulapacや、廃棄物をアップサイクルし堆肥化可能なパッケージを提供する
Shellworks等がある。

植木 このみ
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