『欧州のAIホットスポットが明らかに』、『NoTraffic、モビリティのデジタル化に向け5,000万ドル調達』、『独BLUU Seafood、代替魚ソリューションで資金調達』、『Inflection AI、「パーソナル」AI構築で13億ドル調達』、『光インターコネクトのCelestial AI、1億ドル調達』、『AI革命がデータセキュリティを変えるか、Cyeraが1億ドル調達』、『シンガポール発Lion TCR、中国系投資家から資金調達』、『昆虫テックでフードロスに挑む、Ento Industriesが資金調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第39回」をお届けします。

欧州のAIホットスポットが明らかに
ベンチャーキャピタルのEarlybirdが実施した欧州のAIイノベーションホットスポットに関する最新の調査結果によると、334社のAIスタートアップを輩出してきた英国が域内トップ、次いで167社のドイツ、135社のフランスがランクインした。高額な資金調達とともに成功を収めてきたAI企業には、これまでに8億ドル以上を確保しているパリ発のエンタープライズ・プラットフォームDataiku、いずれも5億ドルを超える資金を調達してきた英国の半導体企業Graphcore、ベルギーの統合データ・インテリジェンス・プラットフォームCollibra、フランスのインシュアテック意思決定自動化・最適化プラットフォームShift Technologyなどがある。一方で、人口100万人当たりのAIスタートアップ数では、エストニアやスイスなどの国がリードしている。例えば、スイスはスマートデータキャプチャーのユニコーンScanditを含む、67社のAI企業を誇っている。学術界では、ミュンヘン工科大学が欧州トップとなる35人のAI創業者を輩出し、それに英国からオックスフォード大学、ケンブリッジ大学、インペリアル・カレッジ・ロンドンと続いている。 
NoTraffic、モビリティのデジタル化に向け5,000万ドル調達
交通渋滞緩和、CO2排出量削減、交通安全向上などに貢献するSaaSベースのリアルタイム交通管理プラットフォームを開発するNoTrafficが、最新のシリーズBラウンドで5,000万ドルを調達した。2017年にイスラエルで設立された同社のプラットフォームは、交差点に設置されたセンサーネットワークを活用し、そこを通過する交通のデータを収集することで、都市の交通の流れを分析、市当局や交通機関がより良い計画決定を行えるよう支援する。同社は年末までに100の交通機関や運輸省との提携を目指しているが、現在は米国市場に重点を置き、既にカリフォルニア州やテキサス州などで事業を展開している。一方で、今回の調達資金は、イタリア、ドイツ、英国、日本などの新市場での生産、研究開発、販売の加速に向け活用される予定だという。 
独BLUU Seafood、代替魚ソリューションで資金調達
現在の水産物生産システムは、乱獲、さらに重金属やマイクロプラスチックによる汚染といった問題に直面している。そんな中、ドイツを拠点に代替魚ソリューションを開発するBLUU Seafoodが、Southeast Asia Exponential Ventures(SeaX)などが参加したシリーズAラウンドで1,600万ユーロを調達した。同社はまず、成魚組織の一部から細胞を分離し、その細胞をバイオリアクターで増殖させる。そして、生成された細胞塊からフィッシュボールやフィッシュフィンガーなど様々な製品を製造している。BLUU Seafoodは現在、サーモンの刺身の試作、またサーモンとマスの切り身の製造研究にも取り組んでいる。なお、今回の資金調達は、製品規制当局からの認可取得の推進や、研究開発の継続に充てられる。また同社は来年までに、2020年に養殖鶏の販売が既に承認されているシンガポールへの市場参入を計画している。

Inflection AI、「パーソナル」AI構築で13億ドル調達
「すべての人のためのパーソナルAI」を目指すInflection AIが、Microsoft、LinkedIn共同創業者リード・ホフマン、ビル・ゲイツ、Google元会長エリック・シュミット、そして新たに加わったNvidiaが主導する13億ドルの資金調達ラウンドを終了した。カリフォルニア州パロアルト拠点のInflection AIは、今年5月に「Pi」をローンチしたばかり。Piは「パーソナル・インテリジェンス」を意味し、便利で安全、「自然で流れるような」スタイルで、フレンドリーなアドバイスや情報を提供する。Piを動かすAIモデルInflection-1は、OpenAIのGPT-3.5やGoogleのPaLM-540Bといったモデルに匹敵、あるいはそれよりも優れていると言われている。同社は、NvidiaならびにGPUクラウド・プロバイダーのCoreWeaveと協力し、22,000個のNvidia H100 GPUで構成される世界最大級のAIトレーニング・クラスターを構築するとされている。今回の資金調達により、Inflection AIはOpenAI(113億ドル)に次いで、2番目に高額な資金調達額を誇るジェネレーティブAIスタートアップとなった。 
光インターコネクトのCelestial AI、1億ドル調達
特にAIにおいて激化するデータ移動問題に対するソリューションとして、光ベースの相互接続に焦点を当てたスタートアップ、Celestial AIは、IAG Capital Partners、Koch Disruptive Technologies、シンガポールTemasekのXora Innovation Fundが主導するラウンドで1億ドルを調達した。このラウンドには、SamsungとポルシェのCVCからの出資も含まれる。Celestial AIのコア技術であるフォトニック・ファブリックは、光学的手法により毎秒数テラビットのCompute-to-Memory接続速度を実現し、情報移動のためのチップ表面積を増やすため、一種のベースレイヤーとしてチップの下に配置される。同社によると、このフォトニック・ファブリックはGPUや中央演算処理装置などに組み込むことができるという。Celestial AIは技術収益化の一環として、この技術をチップメーカーなどにライセンス供与する計画に加え、社内で開発したAIアクセラレーター・チップ「Orion」も販売する予定だ。 
AI革命がデータセキュリティを変えるか、Cyeraが1億ドル調達
データセキュリティ企業のCyeraは、Accelが主導し、Sequoia、Cyberstarts、Redpoint Venturesが参加したシリーズBラウンドで1億ドルを調達した。シリコンバレー発の同社、ハイブリッドなクラウド環境において、企業のセキュリティチームがデータセキュリティを優先していることから、過去1年間で売上を800%伸ばしている。CyeraのAIを搭載したデータセキュリティ・プラットフォームは、企業固有のデータとそのビジネス目的を即座に学習し、セキュリティチームが保有するデータとその使用方法を理解、適切なコントロールを適用しながらデータを保護する。このプラットフォームの統合ポリシー・エンジンは、誤った設定を特定できる上、特定のアクセス制御を推奨、データセキュリティのための新しいポリシーを生成し、機密データへのアクセスを管理する。今回の追加資金調達により、Cyeraはクラウドネイティブな運用プラットフォームの開発を加速し、セキュリティチームのデータ全体に関わるワークフローの一括管理実現を図る。

シンガポール発Lion TCR、中国系投資家から資金調達
シンガポールに本社を置くバイオテック企業Lion TCRは、中国の国営投資家Guangzhou Industrial Investment and Capital Operation Holding Groupが主導するシリーズB2ラウンドで4,000万ドルを調達した。今回の資金調達は、主に同社の臨床試験資金に充てられるほか、シンガポールや、中国が掲げるグレーター・ベイ・エリアを含む主要市場のバイオテック・エコシステムにおける製品パイプラインやコラボレーション促進に活用される。2015年に設立されたLion TCRは、T細胞を使ってがんと闘う免疫療法の一種、TCR-T細胞療法を開発している。同社の主力製品は、HBV抗原特異的TCRをコードするmRNAを導入した自己T細胞製品のLioCyx-Mで、これはHBV関連肝発癌および肝移植後の再発HBV関連肝発癌の治療法として開発されている。 
昆虫テックでフードロスに挑む、Ento Industriesが資金調達
シンガポールを拠点とするEnto Industriesが、ESGを重視する2組の個人投資家から投資を受けた。同社は今回の調達資金により、より大規模な施設への移転と生産能力の増強を行う。Ento Industriesは、食品廃棄物を農業用の高価値飼料原料にアップサイクルすることで、食品廃棄物削減を目指している。同社はアメリカミズアブを使用し、食品廃棄物を栄養豊富な肥料である昆虫フラスに変換する。また、魚、エビ、家禽用にも栄養価の高い飼料を製造している。シンガポール環境庁の発表によると、生ごみはシンガポールで発生する廃棄物全体の12%を占め、2021年に発生した817,000トンの生ごみは前年から23%増加したという。同社はこの問題解決に向けたミッションを評価され、DBS Foundation Social Enterprise Grantや、Enterprise Singapore Enterprise Development Grant(EDG)などの助成金とともに、強い支持を受けている。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。