『EU、EV充電ステーションネットワーク拡大に合意』、『コグニティブ・ロボットのNeura Robotics、5,500万ドルを調達』、『英Levidian、下水廃棄物からグラフェンと水素を生成』、『K Health、AI搭載医療チャットボットで5,900万ドル調達』、『VSaaSの加Solink、世界展開に向け6,000万ドル調達』、『コンテンツクリエイター向け金融ツールKarat、7,000万ドル調達』、『ベトナム発EWAのGimo、約1,700万ドルを調達』、『Maka Motors、インドネシアにおけるEVパイロット走行開始』を取り上げた「イノベーションインサイト:第42回」をお届けします。 
EU、EV充電ステーションネットワーク拡大に合意
今週、欧州委は2030年の温室効果ガス削減目標、1990年比で少なくとも55%削減を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の一環として、EU内のEV充電インフラを拡大するための「代替燃料インフラ規制案(AFIR)」を採択した。現在、EUにおける自動車総台数に占めるEVの割合は 2.3% で、多くの消費者がEVへの移行をためらう理由として、「充電インフラの不足」を挙げている。AFIR により、EU加盟国は2025年以降、主要交通回廊に沿って60 kmごとに、少なくとも150kWの急速充電ステーションを設置する義務を負う。またEVトラック用の充電ステーションを60kmごと、水素ステーションも200 kmごとに設置しなければならない。さらに、同規制は充電ステーションにおける複雑な支払いシステムにも対処すべく、その運営者は、消費者が定期購入なしで単発の支払いを行う手段、また在庫状況、価格、待ち時間などについて透明性を提供する必要性に迫られる。 
コグニティブ・ロボットのNeura Robotics、5,500万ドルを調達
ドイツ発Neura Roboticsが、人間と機械の協働を実現するコグニティブ・ロボット(略してコボット)開発のため、新たに5,500万ドルの資金を調達した。「MAiRA」と呼ばれる同社初のロボットは、環境と人間を包括的に認識し、自律的に行動することができる。Neuraはハードウェアとソフトウェアの両方を提供し、産業用モデルの価格は5,000ユーロから40,000ユーロの間で取引されている。同社は既にアジア企業から多くの関心を集めており、中国のコングロマリット、Han’s Groupから戦略的投資として約8,000万ドルの出資を受けている上、川崎重工もNeuraのプラットフォームをベースにした独自のコボット・シリーズを販売しているという。なお、Neuraは今回の資金調達により、研究開発を継続しながら、アジアと米国での事業拡大を図る。また、今後5年間で4億5,000万ドルの受注が見込まれることから、需要に対応できるよう製造能力の拡大も計画中だ。 
英Levidian、下水廃棄物からグラフェンと水素を生成
ケンブリッジを拠点とするクライメートテック企業のLevidianは、United Utilitiesと下水バイオガスをグラフェンと水素に変換するための共同研究を開始した。United Utilitiesは英国を拠点とする水道供給会社で、イングランド北西部で300万戸以上の家庭や企業にサービスを提供している。同社はLevidianと提携し、マンチェスターの廃水処理施設に、1時間当たり約15m3のバイオガスを処理できるLOOP100システムの実証機を設置した。なお、英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省が、同プロジェクトに300万ポンドを提供している。Liverpool John Moores Universityは、両社が生成した水素をリバプール市域で利用する可能性を評価する一方、生成されるグラフェンを、United Utilitiesが使用するコンクリートの二酸化炭素排出量削減に役立てるという。この実証プロジェクトは、より大規模な技術導入への足がかりとなることを意図しており、同ソリューションの今後の活用が期待される。

K Health、AI搭載医療チャットボットで5,900万ドル調達
ニューヨーク発K Healthは、AIを活用した医療サービスを構築するため、南カリフォルニア最大級の学術医療システムCedars-Sinaiとパートナーシップを提携、同時に投資家から5,900万ドルを調達した。同社はこれまでに3億3,000万ドルを調達しており、評価額は8億ドルに上ると言われている。AIを搭載したチャットボットを通じて患者の症状や病歴を取り込み、何百万人もの患者データをふるいにかけ、同様のプロファイルとの比較に基づいて病状を提案する。必要であれば、患者を医師や看護師につなぐことも可能だ。K Healthによると、1,000万人がK HealthのAIと対話し、米48州で310万人の患者がK Health経由で医師や看護師とのチャットを完了したという。同社は、プライマリケア、緊急ケア、一部の小児科サービスのほか、減量管理を含む慢性疾患治療も提供している。K HealthとCedars-Sinaiは現在アプリを共同開発中で、今後米国で幅広く利用されている Epicの電子カルテシステムと連動させる予定だ。 
VSaaSの加Solink、世界展開に向け6,000万ドル調達
オタワ発、Video Surveillance as a Service(VSaaS)のSolink Corp.が、Goldman Sachs主導、 OMERS Ventures と BDC IT Ventures LPが参加したシリーズCラウンドで6,000万ドルを調達した。2009年設立のSolinkは、顧客の既存防犯カメラを最適化し、クラウドベースの技術で検索・アクセスできるビデオ管理システムに加え、事故や訴訟が発生した際、原因究明や立証のために使用される電子機器内のデータ分析や証拠保全であるフォレンジック・セキュリティなどを含むソリューションプラットフォームを提供、様々な業界のニーズに対応している。顧客は一元化されたプラットフォームを通して、ウェブサイトやモバイルアプリから、ビデオ検証による時間外警報システムの管理、不正アクセス制御の監視、利用者へのサービス最適化を行うことができる。現在は、T-MobileやGap、Lululemon を含む15ヶ国、18,000ヶ所以上の顧客にサービスを提供中だ。 
コンテンツクリエイター向け金融ツールKarat、7,000万ドル調達
ロサンゼルス発フィンテックのKarat Financialは、 TriplePoint Capital と SignalFireが主導し、Union Square Venturesを含む投資家、ツイッター共同創業者Biz Stone、ユーチューブ共同創業者Steve Chenなどが参加したシリーズBラウンドで7,000万ドルを調達した。年収が数万から数十万ドルあるにもかかわらず、多くのコンテンツクリエイターが事業拡大に必要な資金を確保することができない。その理由として、クリエイター達が比較的若く、クレジットヒストリーやビジネス年数も浅いため、プラットフォーム間で収入が安定しない点などが挙げられる。Karatは、Y Combinatorの支援を受けた当初は、米国の代表的個人信用スコアであるFICOスコアの代わりに、社会的・経済的統計に基づいてクリエイターに高い限度額を提供するビジネスクレジットカードを初期プロダクトとして提供していたが、今回の新たな資金調達を受け、個人のクレジットヒストリーを構築できるカードを提供することで、クリエイター向けサービスをさらに拡大する予定だ。

ベトナム発EWAのGimo、約1,700万ドルを調達
ベトナムのEarned Wage Access(EWA)プレーヤーであるGimoは、510万ドルを確保した初期ラウンドからわずか5ヶ月後となる今月、TNB Auraが主導するシリーズAラウンドで、1,710万ドルの調達に成功した。2019年に設立されたGimoは、労働者が給料日前に給与を受け取ることを可能にする。給料日が来ると、雇用主は従業員の給与を同社に振り込み、残高を精算する。現在、Gimoはベトナム全土の中・大規模の製造業に従事する50万人の労働者にサービスを提供している。2025年までに国内の銀行口座を持たない労働者250万人に対応することを目指している。この新たな資金は、事業拡大と新製品の開発に充てられる一方、同社は顧客サポートサービスを改善し、新たな社会的影響のある取り組みを立ち上げるためにパートナーシップを形成する予定。 
Maka Motors、インドネシアにおけるEVパイロット走行開始
最新のレポートによると、インドネシアのEV市場は、2022年の5億3300万ドルから、2029年には200億ドルに達すると予測されている。さらに、McKinseyの昨年のG20サミットでの発言によると、東南アジアのバイク市場全体の半分が2030年までに電動二輪車に置き換わる可能性があるという。そんな中、インドネシアのEVメーカーMaka Motorsは、2024年後半を目標に二輪EVを量産するため、東南アジアで最大規模のシード・ラウンドとなる3,760万ドルを調達したと発表した。Makaは今月、最初の試験的なEV配備を開始する予定だという。この資金調達により、Makaは昨年開始したEVの自社開発に向けた研究開発を継続し、2023年後半には西ジャワにて工場の建設も開始する。
植木 このみ Corporate Innovation Services, Intralink Limited イントラリンクについて イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。