『Corporate innovation in the entrepreneurial age』、『フランスエコシステムが大幅成長傾向に』、『今年に入り、波に乗る欧州EV充電市場』、『次世代マイクロLED素材の英Porotech、資金調達』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第65回」をお届けします。
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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
Corporate innovation in the entrepreneurial age
セクターに関係なく世界中でテックブームが拡大し続ける中、コーポレートイノベーションもその重要性も増すばかりだ。特にパンデミックによりSaaS、クラウド、AIなどを活用した企業のIT・デジタル化が加速する中、欧州大手企業のR&Dは製薬、自動車、テレコム、さらに暗号化、IoT、AIなどを中心に、外部組織とのコラボレーションによりイノベーションを追求している。既にCVCは幅広いセクターに展開しており、実際、2021年のCVC投資総額も過去最高額(340億ユーロ:前年比1.6倍)を達成すると予測されているが、近年CVCのレイターステージへの参加が減少傾向にあり、大規模な投資への躊躇も見受けられる。一方、グローバル企業からの欧州スタートアップへの投資も大幅増加傾向にあり、今年は前年比2倍となる570億ユーロが投下されると見込まれている。日本企業のCVCもこの流れに乗り、欧州企業への投資・コラボレーションを検討していくべきではないか。
フランスエコシステムが大幅成長傾向に
今週、がん免疫細胞治療の
Mnemoが、仏シリーズA過去最高額となる7500万ユーロの調達に成功した。フランスのシリーズA平均サイズは、2011年の240万ユーロから2021年の1460万ユーロと、過去10年で500%以上増加している。2016年まで、その数字は欧州平均(当時)となる1140万ユーロを下回っていたが、過去5年間で著しい成長を見せたようだ。もともと欧州でトップ3に入るエコシステムを構築するフランスにおいては、シードラウンドでも30万ユーロ(2011年)から200万ユーロ(2021年)の伸びを見せ、この成長傾向はシリーズAだけにとどまらない。この要因として、特に米中を中心とする海外資本の流入が挙げられており、Mnemoの場合も、仏ヘルステック専門VCの
Sofinnovaとともに、米NY在VCの
Casdin Capitalがラウンドを率いた形となる。これにより、フランスも世界の舞台で競うことができるエコシステムに成長しつつあると言えるだろう。
今年に入り、波に乗る欧州EV充電市場
欧州のEV充電市場は、充電ステーションの増加を待つ消費者と、そのインフラ強化への投資前にEVへの需要増加を待つ投資家との間で、様子見状態がしばらく続いてきた。しかし、今年西欧ではEV販売台数が100万台を超え、充電業界における収益も2030年までに360億ユーロにのぼると予測され、今年に入ってその状況に変化が生まれている。最近、仏
Electraが国内シードラウンド過去最高額となる1500万ユーロ、また電力会社の家庭での電力供給をサポートする充電ソフトウェアの英
ev.energyが、シリーズAで880万ドルを調達したばかりだ。Electraは、国内全土に設置する充電ステーションのコストを全てまかなうというシステムで、既存ビジネスを活用したいショッピングセンター、スーパーマーケット、ホテルなどと提携している。この2件の案件はIPOを発表したばかりの
Wallbox、EV用道路システム開発の
Elonroadなど、今年に入ってからのEV充電業界への一連の投資に続くもので、投資家からの関心の高さを示している。なお、EUは現在25万ヶ所の充電ステーションを、2025年までに100万ヶ所に拡大することを目指している。
次世代マイクロLED素材の英Porotech、資金調達
英ケンブリッジ大学のスピンオフ企業で、より鮮明なデジタルディスプレイへの道を切り開く半導体素材、多孔質GaN を開発する
Porotechが、300万ポンドの資金調達に成功した。透明なガラスのような材料であるGaNは、シリコンよりもバンドギャップが広いため、同様のシリコンサンプルよりも優れている上、Porotechは直径数十ナノメートルの小さな穴が開いた新たな素材、多孔質GaNを開発している。同社によると、これは半導体デバイスを構築するために新しく設計されたGaN材料プラットフォームで、スケーラブルなウェーハサイズと大量生産に適した性能で、次世代のマイクロディスプレイデバイスに不可欠なパフォーマンスの向上を提供することができるという。特にAR/VRデバイスのゲームチェンジャーとして期待されており、ディスプレイ関連大手企業からも関心を集めている。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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