『血圧管理プラットフォームのHilo、4,200万ドルを調達』、『独Hy2gen、再生可能水素技術で4,700万ユーロを調達』、『クライメートテックがリードするスウェーデン・エコシステム』、『Exterra、CO2から岩石への変換技術で2,000万ドル調達』、『レアアース精錬のPhoenix Tailings、追加資金を調達』、『NewLimit、老化逆転治療法開発のため1.3億ドル調達』、『Nuevocor、新型心不全治療薬の開発でシリーズA資金調達』、『CATL、インドネシアEV電池工場拡張に向け10億ドルの融資を調達へ』を取り上げた「イノベーションインサイト:第132回」をお届けします。

血圧管理プラットフォームを開発するスイス発Hilo(旧社名:Aktiia)が、最新のシリーズBラウンドで4,200万ドルの資金を調達し、現在までの調達総額も1億ドルを超えた。2018年に設立された同社は、スイス電子・マイクロテクノロジーセンター(Swiss Centre for Electronics and Microtechnology:CSEM)における15年間の研究を基盤に、腕帯などを使用した既存の血圧計よりも便利な常に数値を計測する血圧モニター・ブレスレットを開発している。このデバイスは、手首の血管内の脈拍を測定する光学センサーを採用し、AIがこの情報を基にユーザーの血圧を推定する。また1日を通した測定データを基にしたパーソナライズド・レポートを提供するアプリが付属しており、より優れた医療ケアを提供する。Hiloは現在までに12万台を超えるデバイスを販売し、76%の年平均成長率を達成しており、今後は今回の調達資金を活用し、新規市場への拡大を加速する。

2017年に設立され、再生可能水素および水素派生物(RFNBO:非バイオ由来の再生可能燃料)の生産施設の開発、資金調達、建設、運営を手がけるドイツの Hy2genが、4,700万ユーロの資金調達に成功した。海運、航空、化学、肥料、鉄鋼など、エネルギー消費量の多い産業を支援する同社は、現在ドイツ(グリーン水素生産施設である6. 3MW規模のAtlantisプラントと 2MW規模の Conseilプラント)、ノルウェー(年間200,000トンの生産を目指す Iversonアンモニアプロジェクト)、フランス(年間32,000トンのSAF生産を目指す Hynoveraプロジェクト)、カナダ(年間237,000トンのグリーンアンモニア生産を目指す Courantプロジェクト)を通じて、グリーン水素、e-燃料、グリーンアンモニアなどのポートフォリオを構築している。現在のプロジェクト・パイプラインには、計画中および建設中の電解容量3.4 GWが含まれており、さらに15 GWが開発段階にあるという。この新たな資金調達により、Hy2genはプロジェクトの最終投資決定(FID)を完了し、建設準備を進める予定だ。

Dealroomが発表した最新のレポートによると、2024年にスウェーデン発スタートアップは総額24億ユーロの資金調達に成功し、同国が欧州エコシステムにおけるリーダー的地位を維持したと強調した。スウェーデンは現在までに46社のユニコーン企業を輩出し、その数は世界ランキングでも10位に位置している。特にディープテック、メドテック、バイオテックなどのセクターで強みを持つ一方で、欧州内で最も強力なクライメートテックハブとして、500社を超える企業数と2019年比で4.5倍増となる280億ドルの企業評価総額を誇っている。2020年から2024年までのクライメートテックへのVC投資において、スウェーデンは欧州域内2位となる120億ユーロを記録した。これは英国(161億ユーロ)に次ぐ数値で、ドイツ(117億ユーロ)やフランス(116億ユーロ)などの経済大国を上回っている。またセクター内でもその活躍は多様な分野にわたり、昨年には鉄鋼のStegra、グリーンビルディングのAira、再生可能エネルギーのCorPower Ocean、モビリティのCandelaやVoiなどが大型資金調達に成功した。


カナダ・モントリオール発のクリーンテック企業 Exterraは、アスベスト鉱山の廃棄物から有用な鉱物を抽出しながら、同時にCO2を岩石に固定するという独自技術により、シリーズA資金となる2,000万ドルを調達した。同ラウンドには、Clean Energy VenturesやBDC Capital、ケベック州政府、MOL Switch、Karpowershipなどが参加し、同社の調達総額も3,200万ドルとなった。Exterraの技術は、アスベスト廃棄物からニッケルやシリカ、酸化マグネシウムを取り出し、これを化学反応で炭酸マグネシウムに変えることでCO2を恒久的に封じ込める仕組みだ。このプロセスにより、産業用途の鉱物だけでなくカーボンクレジットも生み出し、すでにFrontier Climateなどが購入した実績もある。Exterraは2027年までにケベック州にて、年間40万トンを処理可能な世界最大規模のアスベスト処理施設「Hub One」の開設を目指している。

レアアースの精錬を行うマサチューセッツ発Phoenix Tailingsは、新たに3,300万ドルを調達し、シリーズBラウンドの総額が7,600万ドルに達した。Escape Velocity主導の本ラウンドには、Yamaha Motor Venturesや住友商事のCVCであるPresidio Venturesなども参加した。Phoenix Tailingsは現在、既存の40トン規模の施設に加え、ニューハンプシャー州に2025年夏の稼働を予定している500トン規模の新工場を建設中だ。同社はネオジム・プラセオジムやジスプロシウム、テルビウムといった重要なレアアース金属を国内で精製できる技術を持ち、EVや医療現場におけるMRI、防衛産業など多くの分野に対応が可能だ。今後は鉱山廃棄物からのレアアース回収にも注力し、持続可能で循環型の供給体制の構築を目指している。

サンフランシスコ発バイオテック企業のNewLimitは、老化細胞を若返らせる治療法の開発を目指し、最新のシリーズBラウンドで1億3,000万ドルを調達した。最新ラウンドはKleiner Perkinsが主導し、共同創業者にはCoinbaseのCEOブライアン・アームストロング、GV出身のブレイク・バイヤーズ、幹細胞の専門家ジェイコブ・キンメルが名を連ねている。NewLimitはエピジェネティックな再プログラミング技術を活用し、肝臓の老化細胞を若返らせる3種類の試作薬を開発中で、初期の実験では脂肪やアルコールの処理能力が改善された結果も出ており、現在はAIを活用した高速な創薬プロセスを進めている。今後の臨床試験に向けて開発を加速する同社、Retro Biosciences (1億8,000万ドル調達)やAltos Labs (30億ドル調達)と並ぶ長寿ベンチャーの一つとして注目を集めている。


シンガポール発バイオテック企業のNuevocorは、Kurma PartnersおよびAngelini Venturesが共同主導し、EDBI、ClavystBio、Boehringer Ingelheim Venture Fund、Highlight Capital、SEEDS Capitalなども参加した最新のシリーズBラウンドにおいて、4,500万ドルの資金を確保した。同社は、LMNA遺伝子の変異に起因する拡張型心筋症(DCM)に対するファースト・イン・クラスの治療薬「NVC-001」を開発中だ。LMNA-DCMは欧米において10万人以上が罹患する重篤な遺伝性心疾患であり、現在有効な治療法が存在してしない。Nuevocorは従来の遺伝子治療とは異なり、独自のPrOSIATMプラットフォームを用い、特定の遺伝子変異ではなく、心筋症の根本的な原因とされるメカノバイオロジー経路を標的とするアプローチを採用している。今回の調達資金は、欧米における第1・2相臨床試験の実施に加え、グローバル展開の一環として新たにパリに拠点を開設するために活用される予定だ。なお、NVC-001は一度の投与で長期的な効果が期待される革新的治療法として、将来的に患者のQOLを大きく改善する可能性を秘めている。

中国の電池大手であるCATL(寧徳時代新能源科技)が、インドネシア・カラワンに所在する合弁電池工場の拡張に向けて、10億ドル規模の融資を調達中であると報じられている。融資期間は5年から7年とされ、2027年に商業運転開始を目指す年産15GWh規模となる電池製造施設の整備資金に充てられる見通しである。本プロジェクトはドイツ、ハンガリー、スペインなどにおける新工場建設を含む、CATLのグローバル展開戦略の加速を支えるもので、インドネシアの国営企業であるIndonesia Battery Corporation(IBC)との12億ドルに及ぶ投資イニシアティブの一環として、同国が世界のEVバリューチェーンにおいて果たす役割の強化を象徴している。
