『EIB、欧州スタートアップに700億ユーロを投入』、『英Space Forge、宇宙内製造技術開発で2,680万ユーロを調達』、『世界初の大型合成メタン製造施設、デンマークで稼働開始』、『Somite、ヒト細胞を用いた治療法開発で4,700万ドルを調達』、『Zeno Power、次世代型原子力電池の開発に向けて5,000万ドルを調達』、『Gravitee、API管理支援プラットフォームとして6,000万ドルを調達』、『中国Trensor、マレーシアにて初の海外工場を着工』、『シンガポールAlternō、砂熱電池で産業脱炭素化へ』を取り上げた「イノベーションインサイト:第134回」をお届けします。

欧州投資銀行(EIB)は、2027年までにスタートアップ向けに700億ユーロの資金提供を行う新たなイニシアチブを開始すると発表した。正式な稼働予定が今年後半とされるEIBの「TechEUプラットフォーム」は、研究者や企業に対し、資金調達に関するあらゆるニーズに対応するワンストップサービスを提供しながら、民間投資の促進と、欧州テック業界への最大250億ユーロの投資誘発を目指している。同プラットフォームは、EUの様々な資金支援プログラムを連携させることで、各プロジェクトが単一の審査プロセスを経ることができる仕組みを構築するとともに、スタートアップ融資の申請手続きの簡素化を約束する。これにより、ベンチャーキャピタル融資の申請に対する決定に必要な期間が、現在の18ヶ月から6ヶ月以内と大幅に改善されることになる。来月の最終承認を待つこの新たなイニシアチブは、研究プロジェクトとテック企業を「アイデアからIPOまで」を実現するための金銭的サポートを提供し、年間1,000人以上のイノベーターを支援する計画だ。

ウェールズ・カーディフを拠点とするスペーステックのSpace Forgeが、NATO Innovation Fundが主導し、英国の国家安全保障戦略投資基金(NSSIF)も支援した最新のシリーズAラウンドで、2,680万ユーロを調達した。2018年に設立されたSpace Forgeは、微小重力、真空、極端な温度差といった独自の環境条件を活かしながら、宇宙空間を次世代材料の製造プラットフォームとして活用することで、地球上で製造が困難な材料を生産している。対象となる材料には、「完璧な」ダイヤモンド結晶、SiC(シリコンカーバイド)およびGaN(窒化ガリウム)が含まれる。これらは、パワーエレクトロニクス、通信、量子技術などの分野で超高性能な半導体基板として活用可能な上、半導体生産のサプライチェーン強化にも大きく貢献する可能性がある。さらに、同社は宇宙で製造された材料がCO₂の排出量を75%、エネルギー使用量も60%削減できると主張する。今回の投資は、Space Forgeの再利用可能な次世代衛星「ForgeStar-2」の開発を加速させる一方で、2025年に打ち上げ予定の同社初となる軌道上実証ミッション「ForgeStar-1」を支援する。

デンマーク発European Energy が、同国内に建設された合成メタン施設を正式に稼働開始、その供給を開始した。2004年に設立された European Energy は、風力発電所と太陽光発電所の開発、資金調達、建設、運営に加え、Power-to-X 施設の運営も手掛ける。世界初の大型合成メタン製造施設とされるカッソ工場は、現地で生成されるバイオ由来の二酸化炭素とグリーン水素を原料に、年間4万2,000トンの合成メタンを生産する。同プロジェクトの49%の株式を保有する三井物産と共同で運営される同工場は、European Energyが手掛ける欧州最大級の太陽光発電所である304MW規模のカッソ・ソーラー・パークから供給される再生可能エネルギーを100%使用する。この合成メタンはグローバル大手企業に供給され、Maerskがコンテナ船「Laura Mærsk」の燃料として世界で初めて合成メタンを使用する一方、LEGO GroupとNovo Nordiskも、一部の製品製造において化石由来のメタンを合成メタンと置き換えて活用する予定だという。


Somiteは、Khosla Ventures主導、味の素グループのAjinomoto Group VenturesやSciFi VC、Chan Zuckerberg Initiativeも参加した最新のシリーズAラウンドで4,700万ドルを調達した。同社は、AIを活用した基盤モデル「DeltaStem」の開発により、あらゆる人に最適な細胞を生成し、病気や損傷した組織を置き換えることを目指している。この技術は、幹細胞生物学とAIを融合させた革新的なアプローチで、ハーバード大学やMITなどの一流研究者によって実現されたもので、その独自のカプセル技術により、従来の1,000倍の効率で細胞データを生成、DeltaStemの迅速な学習と最適な細胞分化の発見を実現する。Somiteは治療可能な細胞を現在の10種類から将来的には数千種類に拡大し、1型糖尿病や筋疾患、血液疾患などの治療に応用していく予定だ。

深海インフラ、人工衛星、月面探査といった極限環境向けに次世代型原子力電池を開発するZeno Powerが、シリーズBラウンドで5,000万ドルを調達した。Hanaco Venturesが主導し、Balerion Space Venturesを含む投資家が参加した本ラウンドにより、同社の累計調達額も7,000万ドルに達した。 2018年にヴァンダービルト大学で設立されたZenoは、原子炉の副産物であるストロンチウム90を従来のプルトニウムベースのRTG(原子力電池)の代わりに用いた軽量型電力システムの開発を手掛ける。そしてパシフィック・ノースウェスト国立研究所と共同でストロンチウムを動力源とする熱源を実証し、代替燃料としてアメリシウム241の活用可能性を模索している。すでにNASAや米国国防総省から6,000万ドル超の契約を獲得している同社は、原子力電池が海底から宇宙空間まで、従来のエネルギー源が到達できない領域においても安全で信頼性が高く、長寿命の電力を供給できると期待を寄せている。なお、同技術の商業化は2027年を予定している。

デジタルインフラAPI管理プラットフォームのGraviteeは、Sixth Street Growth主導のシリーズCラウンドで6,000万ドルを調達し、累計資金も1億2,500万ドルに達した。今回の調達資金は、さらなる製品開発とグローバル展開に活用されるという。 2015年にオープンソースとして誕生したGraviteeは、現在、有償サービスも展開。同プラットフォームにより、企業はAPIを設計、展開、管理し、同期・非同期両方のAPIに対応することができる。これは競争の激しい同市場における重要な差別化要因であると言われている。さらにGraviteeのサービスは、オンプレミス、セルフホスト、またはSaaSモデルを通じて利用可能で、強力な可視化ツールとモックテストツールを特徴とする。企業によるAIエージェント、ストリーミングデータ、ハイブリッドシステムの急速な採用が進み、API全体におけるセキュリティ、可観測性、および制御の重要性が高まる中、同社は現在、Michelin、Roche、Blue Yonderを含む数百社の顧客にサービスを提供している。


中国の自動車用圧力センサーメーカー大手であるTrensor Co., Ltd.のマレーシア法人、Trensor Electronics Sdn. Bhd.は、ペナン州のテクノロジー・パーク@Bertamにおいて新工場の起工式を実施し、同社初となる海外製造拠点の建設を開始した。本施設は、総額1億リンギット(約30億円)の投資により建設され、延床面積10,000平方メートル、地上4階建ての規模を誇る。2026年第2四半期までの量産開始を目指しており、フル稼働時には200名超の雇用創出を見込む。年間売上高は2億リンギット以上を計画しており、将来的な拡張に備えた用地も確保済みである。起工式には、ペナン州首相のYAB Chow Kon Yeow氏をはじめ、マレーシア投資開発庁(MIDA)、北部回廊実施庁(NCIA)、InvestPenangなどの関係機関が出席した。同州が選定された理由として、世界水準のインフラ、投資に適した制度環境および高度人材へのアクセスが挙げられている。Trensorの圧力センサーは、Ford、吉利汽車、Cummins、 Hanon Systems などグローバルOEM各社に採用されており、同社売上の約60%を輸出が占める。ペナン工場は、東南アジア市場における同社の戦略的成長拠点として位置付けられている。

シンガポール拠点の気候テックスタートアップのAlternōは、UntroD Capital Asiaをリードインベスターとし、ADB Venturesが参加するシリーズA資金調達を実施した。今回の調達により、産業および農業分野における脱炭素化を目的とした砂ベースの熱電池技術のスケールアップを図る。2023年設立の同社は、現地調達可能な砂を活用した高温・ゼロエミッション型の熱供給システムを開発しており、すでにベトナムでのパイロット導入を完了しており、次はモンゴルへの展開を予定している。同システムは、オフグリッドのコミュニティや農村部の加工業者に対し、信頼性の高い熱供給を提供しており、ペプシコやモンデリーズなどの大手企業も顧客に名を連ねる。特許取得済みの「砂電池」は、最大600℃の熱エネルギーを蓄積可能であり、新興国市場におけるコスト効率の高い脱炭素熱供給手段として注目を集めている。製品群には、家庭・地域社会向けの「Alternō One」、およびバイオマスと電力を組み合わせたモジュール型システム「Alternō Hybrid」が含まれ、後者は農村部における24時間365日の熱供給を可能にする。また、熱供給をサービスとして提供する「Heat-as-a-Service(HaaS)」モデルの展開や、ホンダおよび丸紅との共同開発の検討も進められており、難脱炭素分野である産業用熱市場において、柔軟性と拡張性を備えたエネルギーインフラ提供企業としての地位を確立しつつある。
