『今後の可能性が期待されるデジタル治療』、『さらに活躍の枠が拡大した昆虫養殖企業』、『パンデミックの波に乗る欧州マイクロモビリティ業界』、『富士通、武田、ソフトバンクが戦略的投資』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第83回」をお届けします。
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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
今後の可能性が期待されるデジタル治療
デジタル治療(DTx)がヘルスケアの中でますます中心的な役割を果たしている。DTxは、デジタルヘルスとは異なり、安全性、プライバシー、品質、有効性を実証するための臨床試験を行なった上で規制当局による承認が必要であることから、エビデンスベースでソフトウェアや医療機器を介して疾患治療を代替・補完するとともに、保険による医療費払い戻しや処方箋として使用される可能性もある。コスト面や便利さを求める患者、デジタルソリューションにより治療結果の改善を望む製薬会社、低コストでより効果的なサービス提供を目指す医療従事者などDTxはあらゆるステークホルダーから注目され、国家として初めて治療用アプリの処方と保険償還を認めたドイツをはじめ、英仏などでDTx採用の動きが加速している。そんな中、欧州ではエクササイズ方法や進行状況の追跡など、慢性関節痛治療をオンラインで提供する
Joint Academyや、メッセージを介して認知行動療法を提供するAI技術の
Ieso Digital Health、治療抵抗性うつ病のケタミン投与を受ける患者へのデジタルアプローチを検証する
ATAI Life Sciencesなどが今後活躍する企業として挙げられている。
さらに活躍の枠が拡大した昆虫養殖企業
先月、EUが豚や家畜の餌として昆虫を使用することを正式に承認したことにより、サステイナブルなソリューションとして注目される昆虫養殖スタートアップがその勢いを増している。そんな中、同分野で英国最大企業と言われる
Entocycleは、昆虫食分野で既に4億ドルを調達してきた仏
Ÿnsectなどとは異なり、幼虫の飼育期間が9~12日間と比較的短期間で、さらに食品廃棄物を飼料とするアメリカミズアブを採用し、より低コストで迅速な生産プロセスを追求している。またEntocycleは2つの収入源を持つ。第一にペットおよび動物飼料業界向けに、ロンドンの研究兼商業施設で生産される0.5トン/月の幼虫を2500ポンド/トンで販売する一方、昆虫養殖業界への参入を検討する伝統的な農家や企業へのハードウェアの販売、独自ソフトウェアのライセンス、サービス管理の提供などを主要ビジネスとしていく予定だという。スコットランドに設立予定の大規模養殖場にて2000トン/年以上の生産を目指す同社は、現在2200万ポンドの資金調達を行なっている。
パンデミックの波に乗る欧州マイクロモビリティ業界
2021年、欧州のマイクロモビリティ投資がグローバル投資総額の1/3以上を占め、北米に大きな差をつけて急増していることがわかった。あと2ヶ月を残し、その額は昨年総額を50%近く上回る約7.8億ドルを記録し、ディール数も過去最高に達すると予測されている。同業界は、パンデミックにより一時期は利用者が減少したものの、公共交通機関の利用を避けるよう政府の奨励もあり、その後それが逆に追い風となり、マイクロモビリティの活用が促進される形となった。それにより、関連企業の大型ラウンドも目立つようになり、今年はEスクーターのVoiが8月に2億ドルを、9月にはEバイクのVanMoofが1.3億ドルの調達を行なった他、先週にはベルリン発TierもシリーズDにて2億ドルの調達に成功したばかりである。しかし、米国における同業界への投資は、3.3億ドルと2014年以降過去最低レベルとなっており、成長に伸び悩んでいる様子が伺える。専門家によると、これには欧州内、特に北欧などにおけるバイクやスクーター向けの整備されたインフラや、長期的な成長を見越した戦略が大きな影響を及ぼしているという。
富士通、武田、ソフトバンクが戦略的投資
先週から、日本大手企業による欧州・イスラエル企業への出資が相次いだ。ソフトバンクは、出版社と広告主に、プライバシーを保護する方法でエンドユーザーに到達するオンデバイスソリューションを提供する
ロンドン発Permutiveの7500万ドルに及ぶシリーズCラウンドに参加した一方、エルサレムを拠点に、Uberに買収されたモビリティ企業Jumpや代替肉技術のBeyond Meatなどに出資してきたベンチャーキャピタルプラットフォームの
OurCrowdに2500万ドルを投資した。富士通も、同じくイスラエル企業で、需要予測と車両発送技術にAIを活用し、車両の最適化プラットフォームを開発する
Autofleetへの戦略的投資を発表した。富士通のシステム開発に関するノウハウおよびロジスティクス業界への専門知識と組み合わせることにより、両社は持続可能なグローバルロジスティクスソリューションの開発と市場投入を目指すという。武田製薬は、昨年から460万ユーロを出資した
パリ発Egle Therapeuticsに追加出資を行い、腫瘍特異的制御性T細胞の新規標的の特定に焦点をあて、将来的なソリューションの製造・販売を目指して提携していくとしている。

植木 このみ
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