『エコシステム全体の底上げを目指す新組織、ESNAが発足』、『最近最もよく聞くキーワード、メタバース』、『大阪ガスが需給調整事業で蘭企業と資本提携』、『プラスチックリサイクルのPlastic Energyが資金調達』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第85回」をお届けします。
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エコシステム全体の底上げを目指す新組織、ESNAが発足
11月初旬に開催されたWebSummit 2021において、欧州委、EU加盟国26ヵ国+アイスランドが欧州スタートアップの更なる成長を促進するために、新たな組織となる
European Startup Nations Alliance(ESNA)をローンチした。これは特にパンデミックの影響により多くの課題に直面するテック企業を支援するために、彼らの起業・成長に適した環境作りを通して持続可能な、強靭な、またオープンなデジタル経済を促進し、イノベーションを創出することを目的としている。現在までにも国ごとに様々な取り組みが行われてきたが、今回はEU全域内でベストプラクティスの実施と効果を確実にするため、
Startup Nations Standardという基準を設けた。大きく8項目に分けられたターゲットには、100ユーロで起業を行うプロセスやEU他国における登記書類の認定などを通したスムーズなマーケットエントリー、ビザ発行プロセスの加速による優秀人材確保、スタートアップに合わせた企業法の採用をはじめとする規制変更、デジタル化の促進などが掲げられている。欧州はこの統一化されたルールに基づき、域内における均一なエコシステム成長を目指すことになる。
最近最もよく聞くキーワード、メタバース
Facebook(Meta)などのテックジャイアント、Minecraftをはじめとするオンラインゲーム企業が強い関心を寄せるメタバースというワードが世界中で流行している。メタバースは決して古いコンセプトではないが、一般的に人々が社交、仕事、ゲームを楽しむ場としてコンピュータが作り出す没入型のデジタル仮想空間を指し、ブロックチェーンにより実現が期待される分散型インターネット(Web3.0)にも強い繋がりを持つ。現在は、多くの関連企業がメタバース上で、5万人もの聴衆を収容するコンサートやスポーツイベントの開催や、暗号通貨や非代替性トークン(NFT)の活用による商業機会の創出などを目指している。既にこの業界で活躍するスタートアップも登場しており、有名歌手と連携しながらメタバース向けの没入型音楽体験を構築する仏Stage 11や、遠隔で3Dデザインを行う仮想コラボレーションルームを発表した英Gravity Sketchをはじめ、その進出範囲は教育やヘルスケアにも広がっているという。また今週にはオーストリア発Blackshark.aiがそのデジタルツイン技術で2000万ユーロを調達したばかりだ。今後も大手企業とスタートアップの関連事業拡大により、さらにメタバースへの注目とその競争力は高まるものと期待される。
大阪ガスが需給調整事業で蘭企業と資本提携
先週、業界大手の大阪ガスが、欧州で需給調整事業を展開する
JEDLIX B.V.と資本提携契約を締結したと発表した。天候による出力変動が課題となる再エネの需給調整機能の重要性が増す中、JEDLIXは再エネ関連技術で世界をリードする欧州でアグリゲータとして、EVバッテリーの遠隔制御による需給調整を行っている。同社は2016年にオランダ総合エネルギー事業会社Enecoからスピンオフした形でロッテルダムに設立され、フランス、ノルウェー、英国など欧州7ヵ国で既に事業を展開しており、EVメーカーや充電ステーション、またエネルギー小売事業者との提携により、事業拡大を目指している。一方、2021年1月に発表した「カーボンニュートラルビジョン」のもと、家庭用燃料電池エネファームを活用したバーチャル・パワー・プラントの構築実証事業や、コージェネレーションシステムなどを活用したデマンドレスポンスサービスなどにも取り組むDaigasグループは、JEDLIXとの提携により、今後海外の需給調整事業などへの参画を進めていく予定だという。
プラスチックリサイクルのPlastic Energyが資金調達
リサイクル不可であったプラスチック廃棄物を貴重な資源に変換するロンドン発
Plastic Energyが、約1.5億ユーロの大型資金調達に成功した。2017年に設立された同社は、独自の
TAC(thermal anaerobic conversion)プロセスを採用し、埋め立てや焼却という形で処分されていた使用済みプラスチックをリサイクルし、高品質のポリマーを生成するための原材料に変換する。この特許取得済みの技術は、プラスチック廃棄物を無酸素条件下の熱分解することで飽和炭化水素蒸気を生成し、最終的にそれを蒸留してナフサとディーゼルを生成することができる。このリサイクルオイルはTACOILと呼ばれ、食品パッケージなどにも活用されている。Plastic Energyは既にスペインに2ヶ所のケミカルリサイクル施設を所有する上、現在フランスやオランダにも複数の工場を建設中だ。またその技術は、Unilever やTupperwareの製品・パッケージに使用されているだけでなく、SABIC、Total Energies、Exxon Mobilとも提携に向けた基本合意がなされているという。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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