『2022年、インパクトスタートアップ・VCの現状とは? 』、『オムロンヘルスケア、CardioSignalと提携』、『BeZero、カーボンクレジット分析で5,000万ドル』、『消費財サブスクモデル導入支援のOrdergroove、1億ドル調達』、『GoFreight、「貨物輸送のShopify」なるか?』、『グリーン水素のコストダウンに挑むスタートアップ』、『住友商事と花王、タイで食品廃棄物発電を検討』、『三井住友銀行、ベトナムのSmartNetに920万ドルを出資』を取り上げた「イノベーションインサイト:第7回」をお届けします。
2022年、インパクトスタートアップ・VCの現状とは?
インパクトスタートアップとは、ビジネスの中核に国連の持続可能な開発目標(SDGs)を据えるスタートアップのことを指す。2021年、インパクトスタートアップ企業は、全世界で過去最高となる680億ドルを調達した。2022年、スピードはやや鈍化したものの、資金調達額は350億ドルという高水準に到達している。地域別では、欧州がVC投資全体に占めるインパクト投資の割合が最も高い。2017年から2022年にかけて、地域ごとのインパクトVC投資の成長率は、欧州が5.5倍となり、全地域の中で2番目に高い成長率を示した。ユニコーンの創出では、欧州は2022年新たにユニコーン入りした11社を含む51社のインパクトユニコーンを創出し、ユニコーン候補の企業は34社に達している。インパクトユニコーンの具体例としては、家電のサブスクリプションプロバイダー
Grover、睡眠トラッキングウェアラブルの
Oura、都市型エアモビリティ開発の
Volocopter、また自律走行・電動貨物モビリティの
Einrideなどがある。
オムロンヘルスケア、CardioSignalと提携
オムロンヘルスケアは、フィンランドのスタートアップである
CardioSignal社と提携した。心臓血管疾患の早期発見にまつわるイノベーションを目的としている。両社は、モーションセンサーと心電計(ECG)技術を活用し、生活習慣病にまつわるデジタルヘルスソリューションの構築に向けて協業する。CardioSignal社は、不整脈のうち最もよく見られる心房細動の兆候をスマートフォンで簡単に検出できる医療用アプリケーションを開発済みで、今回のコラボレーションの結果、そのテクノロジーは
OMRON connect appを通じ、欧州10カ国で利用可能となる。今回の協業の結果、OMRON connectのユーザーは、心房細動の兆候を96%の検出精度で定期的にモニタリングできるようになるという。
BeZero、カーボンクレジット分析で5,000万ドル
カーボンクレジットのスコアリング、リスク評価、またデータ分析を提供する英国の
BeZero Carbon社は、シリーズBラウンドで5000万ドルを調達した。このラウンドには、仏EDF Pulse Venturesと、日立の2番目のCVCであるHitachi Ventures 2が参加した。BeZero Carbon社のプラットフォームでは、投資家やカーボンクレジットのエンドバイヤーが、最終的な取引に至る前に、カーボンクレジット市場における特定のオフセットプロジェクトの効率性を調査できるようになる。同社は2年前の設立以来、ノルウェーのエネルギー企業であるEquinorや鉱業・商品取引グループのGlencoreなど、複数の大手企業と契約している。このたびEDF、日立、またエネルギー市場データ提供者であるIntercontinental Exchange(ICE)との新たな協業により、そのカバレッジは欧州大陸を中心にアジアにも拡大することが期待される。
消費財サブスクモデル導入支援のOrdergroove、1億ドル調達
SaaS企業やストリーミングサービスで広く受け入れられたサブスクリプションベースモデルが、消費財にも広がっている。ニューヨークを拠点に消費財メーカーのサブスクリプションサービスを支援するeコマースプラットフォーム
Ordergrooveは、
Primus Capital Partners主導で1億ドルの新規資金を調達した。同社は、
The Honest Company,
La Colombe,
PetSmartといった消費財大手と協力して定期購入戦略を策定し、消費者が地元のドラッグストアなどに縛られない時代に、獲得しにくい顧客を容易に維持できることを狙う。将来のある時点で利用できるアイテムなどを事前に購入する「プリペイ」サービスや、顧客購買パターンに関する洞察、分析強化なども予定されている。昨今のソーシャルメディアプラットフォーム方針変更により、顧客獲得コストが上昇し、特定の消費者を追跡してマーケティングすることが難しくなったため、投資家は安定した収益が得られるSaaSモデルに傾倒しているようだ。
GoFreight、「貨物輸送のShopify」なるか?
約2800億ドルの価値があるといわれている世界の貨物輸送市場だが、何千とある中小の貨物輸送会社で使われているソフトウェアはほとんどが時代遅れで、未だに表計算ソフトや紙ベースのシステムで作業しているところもあるそうだ。この市場で最も有望な物流テック企業の一つとして、「貨物輸送のShopify」を目指すスタートアップ
GoFreightがこの度、シリーズA資金として2300万ドルを調達した。ロサンゼルスと台北を拠点とし、海上、航空、陸上ルートでの商品輸送を管理する約1000社の顧客を持つ同社は、貨物輸送業務をよりスムーズにするバックエンドと、ワンクリックでオンラインストアを開設でき、見積もりを提供できるフロントエンドを備えたオールインワンのソフトウェアで、貨物の動きに大きな透明性をもたらし、エンドツーエンドでのビジネス管理を実現する。複雑な貨物輸送の注文プロセスと、見積もり作成に数日かかってしまうという大きな課題に取り組む同社が今回調達した資金は、スマート見積もり、運賃管理、発注管理など、さらなる機能の開発に充てられる予定だ。
グリーン水素のコストダウンに挑むスタートアップ
次世代エネルギーとして期待されている水素だが、S&P Globalによると、CO2排出なしでつくられた「グリーン水素」は現在、1キロあたり約3ドルから26ドルの間だそうだ。米インフレ抑制法(
IRA)によって、新しい水素製造方法に1キロあたり最高3ドルまでの税制優遇措置が導入され、2030年までにグリーン水素が化石燃料ベースの「グレー水素」より安くなることが期待されている。水素製造メーカーが低コスト化を競う中、ヒューストン発
Cemvita Factory Inc.は、電解槽を使わず水素を製造する意向だ。古い油井を譲り受け、石油を分解する微生物を地中の岩盤に注入、まだ地中にある石油を利用しようというのだ。微生物が石油を炭素に変え、地中に留まり、水素ガスが発生する仕組みだ。同社は、9月にテキサス州の古い井戸で様々な微生物と栄養分の組み合わせ実験で成功したと発表し、VC支援のもと、水素部門を新会社
Gold H2 LLCに分離した。電解槽に比べれば高価な設備や電気はほぼ必要なく、低炭素水素を1キロあたり1ドル以下で製造できるという。
住友商事と花王、タイで食品廃棄物発電を検討
住友商事は、タイの
Global Green Chemicals社と、食料を減らすことなくバイオ燃料を大量生産するアジア初のプラントを建設する覚書に調印した。サトウキビをつぶしてジュースにした後に残るバガスを原料にしたバイオエタノールの商業生産について、両社間で協議している。バイオエタノールは、温室効果ガス削減への道筋として、自動車燃料や持続可能な航空燃料への応用が進んでいる。また、プラスチックメーカーでは、石油化学製品のナフサに代わり、バイオエタノールを原料として採用する動きが広がっている。住友商事のタイ工場は、早ければ2025年頃に建設される予定だ。なお、花王は、タピオカの原料であるキャッサバからバイオエタノールを作る方法を開発している。
三井住友銀行、ベトナムのSmartNetに920万ドルを出資
三井住友銀行は、ベトナムのfintechスタートアップ
SmartNet社の株式13億円(920万米ドル)相当を取得する契約を締結した。2015年設立のSmartNet社は、零細・中小企業に特化した決済ソリューションを提供しており、State Bank of Vietnamから認可を受けたスマートウォレットのSmartPayを運営している。さらに、個人向けローンやBuy Now, Pay Later(後払い決済)商品の仲介サービスも提供中だ。なお、三井住友銀行は、2021年にベトナムの大手消費者金融会社であるFE Creditの株式49%を取得している。

植木 このみ
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