『丸紅、リードインベスタートとして伊D-Orbitに出資』、『量子コンピュータのQuandela、5,000万ユーロを調達』、『EIC、1年間で10億ユーロをディープテック企業へ投資』、『Elucid、AIによる閉塞動脈マッピングで8,000万ドル調達』、『行動医療向けAI 、Eleos Healthが4,000万ドル調達』、『Princeton NuEnergy、リチウムイオン電池のダイレクト・リサイクルを推進』、『Augmentus、コード不要のロボット・ソリューションで資金調達』、『JCorp、シンガポールアグリテックArchisenに170万ドル出資 』を取り上げた「イノベーションインサイト:第58回」をお届けします。

丸紅が、人工衛星向けにロジスティクスサービスを提供するイタリアのD-Orbitに、リードインベスターとして出資すると発表した。この最新のシリーズCラウンドでは、総額1億ユーロを超える調達が見込まれている。丸紅は、2021年にD-Orbitとの小型衛星打上げサービスに関する日本における販売代理店契約の締結を発表しており、今後はこの独占販売権の範囲を東南アジアにも拡大する意向。この戦略的パートナーシップと投資を通じて、丸紅はD-Orbitの成長と拡大を支援する一方、D-Orbitも衛星の軌道投入、運用サポート、寿命延長、軌道離脱などのサービスを提供することで、「衛星向け総合ソリューションプロバイダー」となることを目指す丸紅の長期的な目標に貢献すると期待されている。さらに、人工衛星の打ち上げ数が急増する中、丸紅は人工衛星の延命やデブリ除去などのサービスを提供することで、宇宙環境の持続可能性向上へ尽力する。

フランス発フォトニック量子コンピューティング企業であるQuandelaは、仏政府のFrance 2030 Planなどから5,000万ユーロ以上の資金を確保した。Quandelaは、クラウドとオンプレミスの両方で利用可能な量子コンピュータを開発している。量子コンピュータをクラウド経由で利用できる技術を開発したのはEU初とされ、世界的にもこの技術を所有する数少ない企業のひとつである。今年6月に仏マシーに量子コンピューター製造施設を開設し、2024年納入予定の機械の生産を開始するなど、同社は過去数ヶ月の間にいくつかのマイルストーンを達成した。なお、この施設で製造された最初の量子コンピューターが、顧客であるOVHcloudデータセンターに先週納入されたばかりだ。今回の新たな資金調達により、Quandelaは北米およびアジア市場において国際的に事業を拡大し、産業界の顧客ニーズに応えるために量子コンピュータの生産量を増強する予定だ。

今週、欧州委員会によるディープテック・スタートアップへの投資が節目を迎えた。2022年9月、欧州イノベーション評議会(EIC)は、革新的な企業に投資する100億ユーロのベンチャー投資部門、EICファンドを立ち上げた。それ以来、EICファンドは159社のスタートアップやSMEsへの投資を実施し、そのうち、およそ1年間で約10億ユーロがディープテック企業に投資されたという。投資先企業の例には、液体水素キャリア技術の仏HSL、作業員用外骨格を提供する伊Agade、ノルウェー発ナノ材料ベースの半導体プロバイダーCrayoNano、医療用拡張現実(AR)メガネを開発するラトビアのLightSpace Technologiesなどがある。EICはこのマイルストーン達成により、欧州のディープテック企業に対する強力な投資家としての地位を固めたと言える。なお、ポートフォリオの全企業リストはこちら。


心血管系疾患を評価するAI搭載画像解析ソフトウェアを開発するElucidは、Elevage Medical Technologiesが主導した最新のシリーズCラウンドで8,000万ドルを調達した。今回の資金調達により同社は、心臓病と闘うための重要な情報を医師と患者に提供するため、商業化をさらに拡大する態勢を整えた。米国と欧州で承認されたElucidの診断ソフトウェアは、CT血管造影スキャンデータを取り込み、AIアルゴリズムを使用して血管内のプラーク(動脈硬化巣)蓄積の3Dモデルを構築、臨床医に脳卒中や心臓発作の主な要因についてより詳細な画像を提供する。また、動脈プラーク自体の安定性に関する客観的分析も可能で、プラーク破壊により脳や心臓、その他臓器への血流が遮断される可能性を予測するのに役立つ。Elucidは現在新しい適応症に向けて、CTスキャンによる心筋の冠動脈から細かく枝分かれした血管造影を分析するためのPlaqueIQソフトウェアを開発中だ。

行動医療向けAIを提供するEleos Healthは、Menlo Venturesが主導し、SamsungNEXTやIONなどが参加したシリーズBラウンドで4,000万ドルを調達した。これにより、同社はグループセラピーセッション、コンプライアンス自動化、事例管理、同時文書化、バリューベースケア向けの新しいAIソリューションや同社の製品開発計画推進に加え、行動医療プロバイダーにサービスを提供するためのリーチ拡大、より多くの電子カルテや業界団体をエコシステムに取り込むための戦略的パートナーシップ開発を強化する。米国においては、行動医療サービスの必要性が叫ばれる中、多くの人々が必要なケアにアクセスできていないのが現状だ。臨床医の不足、持続不可能な症例数、管理上の負担が、実際に医療提供者が需要を満たすのを困難にしているという。行動医療に特化した大規模言語モデルに構築された臨床専門知識と、高度なAIを組み合わせたプラットフォームにより、今後Eleosがこのギャップを埋めることを期待されている。

リチウムイオン電池材料のリサイクル、再利用、商品化に特化したクリーンテック、Princeton NuEnergy(以下PNE)は、リチウムイオン電池のダイレクト・リサイクル技術を推進するため、Wistron Corporationが主導し、Honda Motor Co.を含む新規投資家、Shell Venturesなどの既存投資家が参加したシリーズAラウンドで1,600万ドルを調達した。PNEはLPASと呼ばれる低温プラズマ支援分離プロセス、リチウムイオン電池のリサイクルに関連するコスト、環境廃棄物、二酸化炭素排出量を大幅に削減する特許を主要技術としている。PNEのアプローチは従来のリサイクル方法と比較して、より高い重要材料回収率と優れた材料性能を可能にするという。資金調達に加え、PNEは米エネルギー省から、バッテリーリサイクルに関する複数の研究助成金も獲得している。今後は外国の重要素材への依存削減、国内の製造能力拡大、米国における質の高いクリーンエネルギーの雇用創出を強化するというコミットメントを推進する予定だ。


産業オートメーション向けにコード不要のロボット・プログラミング・プラットフォームを提供するAugmentusが、500万ドルのシリーズAラウンドを完了した。この資金は米国、欧州およびアジアでの事業拡大と、溶接、表面処理、仕上げ工程など複数の分野にわたる顧客需要強化に活用される。2019年設立、シンガポールを拠点とするAugmentusは、ロボティクスに携わった経験のない人でもロボットプログラミングをより簡単に、誰でも利用できるようにすることを目指している。そのプラットフォームは、3DカメラとAIを使用して関連する空間情報を取得し、複雑な表面や部品のずれなどを考慮して、ロボットの移動に適した経路を生成する。同社によると、1年前にプラットフォームの商業化を開始して以来、既に30社以上の顧客にサービスを提供しているという。その中には、現代自動車、Johnson & Johnson、またシンガポールのエンジニアリング会社のST Engineeringなどが含まれる。

Johor Corporation (JCorp) Groupのデジタル・ファースト・アグロフード企業であるFarmByte Sdn Bhd が、シンガポールのアグリテックArchisen Pte Ltdに約170万ドルを投資し、マレーシアのJohor州に合弁会社を通じて自動垂直屋内農場を設立するための基本合意書(HOA)に調印した。その合弁会社は垂直農場を開発・運営し、マレーシアとシンガポールに農産物の供給を実現する。 FarmByteは農業インフラと重要な地域市場に関する見識を持つ一方、Archisenは自動化システムやデータ分析の利用を含む屋内農業の実践に関する技術的知識を提供する形だ。さらに、ArchisenはFarmByte従業員のための包括的なトレーニングも提供する。JCorpのアグロフード戦略計画の一環として今年初めに設立されたFarmByteは、Johor州とマレーシアの食料安全保障の課題への対策を強化するために創設されたもので、デジタルファースト戦略を採用することでエコシステムを統合、高品質な農産物の生産で農家の生活を向上させることで、アグロフード産業の変革を目指している。

植木 このみ
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