『東京ガス、Octopus Energyの洋上風力投資ファンドに出資』、『SAF開発のSkyNRG、製造施設拡大のため約1.7 億ユーロを調達』、『blackshark.ai、3Dマッピング技術で1,380万ユーロを追加調達』、『アステラス製薬、Propella Therapeuticsを買収』、『Element Energy、新・再利用バッテリー管理システムで1億ドル超調達』、『Deep Sky、カナダのギガトン級炭素除去プロジェクトで資金調達』、『旭化成と日揮、グリーン水素製造でマレーシアGentariと提携』、『シンガポールNium、韓国大手銀行と提携』を取り上げた「イノベーションインサイト:第59回」をお届けします。

先週、英国Octopus Energyが設立した洋上風力投資に特化したファンドに、東京ガスがコーナーストーン投資家として2.2億ユーロの出資を行うと発表した。この出資は、2030年までに再生可能エネルギー電源取扱量6GWまで拡大するという東京ガスの目標に貢献すると期待されている。同ファンドは、2030年までにグローバル規模で浮体式を含めた洋上風力の開発・建設・運営に35億ユーロを投資する予定だが、主な地理的焦点は欧州に置かれる。なお、両社は2020年に合弁会社を設立し、日本におけるOctopus Energyブランドを立ち上げた上、今年10月には、東京ガスがOctopus Energyのエネルギー供給用エンド・ツー・エンド・プラットフォーム「クラーケン」のライセンスを取得している。今回の出資により、両社の更なるパートナーシップ強化が想定される。

アムステルダムを拠点に持続可能な航空燃料(SAF)を開発するSkyNRGが、1億7,500万ユーロを調達した。SkyNRGは、2011年にSAFを使用した世界初の商業フライトの提供を開始し、現在ではボーイングや、最大40億ユーロの長期的な貢献を約束しているKLMオランダ航空を含む世界40社以上の航空会社にSAFを提供している。SAFは、航空業界が2050年のネット・ゼロ目標を達成するための方法として大きな注目を集める中、同社独自のライフサイクル分析によると、SkyNRGのSAFをジェット機に使用することで、化石燃料と比較して排出量を最低でも75%削減できるという。なお、同社は今回の調達資金を新たなSAF製造施設の開発に充てる予定で、2030年までに戦略的なオフテイク・パートナーとともに、欧州と米国に専用のSAF施設を建設することを目指している。

オーストリア発AI地理空間インテリジェンス企業のblackshark.aiは、マイクロソフトのM12、Safran、CapgeminiのVCファンドなどが参加した最新のシリーズAエクステンションラウンドで1,380万ユーロを調達し、シリーズAの調達総額が3,220万ユーロに達した。blackshark.aiのソリューションは、衛星画像や航空画像から大量の生データを地理空間デジタルツインに変換するもので、マイクロソフトのフライト・シミュレーター向けに、地球全体の3Dデジタル・ツインを初めて作成したことで知られている。同社は現在、再生可能エネルギー、重要インフラ監視、不動産資産管理、都市計画、自律走行車などへの応用が期待されるダイナミックな高頻度3Dマッピングと地理空間インテリジェンスを政府機関や民間企業に提供している。新たな調達資金は、同社のさらなる技術開発と、営業・マーケティング活動を強化するために活用されるという。


アステラス製薬が、ノースカロライナ発Propella Therapeuticsを1億7,500万ドルで買収すると発表した。買収は2024年3月までに完了する予定。この一環として、アステラスは、Propellaが前立腺がん治療薬として開発中の注射可能な次世代アンドロゲン生合成阻害剤PRL-02を買収する。PRL-02は現在フェーズ1試験を実施中で、2024年に次フェーズに移行する。アンドロゲン産生酵素を標的とするPRL-02は、ヤンセンファーマのZytigaなど従来の薬剤の欠点は補いつつ、同様の効果を実現するという。Zytigaは毎日経口摂取する必要があるが、PRL-02注射は一度で12週間持続する。そのため、患者が投薬計画を管理しやすいと考えられている。アステラスは他にも今年5月、ニュージャージー本社の Iveric Bioを59億ドルで買収し、眼科領域のポートフォリオを強化したばかりだ。

カリフォルニアを拠点とする Element Energyは、ファーストおよびセカンドライフ電池ストレージ用のバッテリーマネジメントシステム開発のため、1億1,100万ドルを調達した。今回の資金調達には、新規投資家のCohort Ventures、大規模バッテリーエネルギー貯蔵システムインテグレーターでもある三菱重工業などに加え、既存投資家のLG Technology Venturesと電力会社のEdison Internationalが参加した。しかし、新規投資家の一社である「米国最大級のクリーンエネルギー発電会社」の名前は明らかにされていない。Element Energyは、独自のハードウェアと制御アルゴリズムを開発し、新品および再利用蓄電池の安全性、可視化と使用効率の向上に取り組んでいる。現在、米国で技術検証のパイロットプロジェクトを進めており、2024年初頭にコミッショニングを完了する予定。そしてパイロットプロジェクトを通じて必要なデータを取得し、UL認証規格を取得の上、商用化を進める計画だ。

モントリオール拠点の炭素除去プロジェクト開発企業 Deep Skyは、カナダにおけるギガトン規模の炭素除去イニシアチブを推進するため、シリーズA資金となる約5,470万ドルを調達した。この資金調達は Brightspark VenturesとWhitecap Venture Partnersが共同主導し、カナダ・ビジネス開発銀行のクライメートテック・ファンドを含む企業からも多額の出資を受けた。Deep Skyは世界初の炭素除去プロジェクト開発企業で、世界中の炭素回収技術を一堂に集めている。技術にとらわれないDeep Skyは、製鉄所のような排出地点で実施される炭素回収とは異なり、あらゆる場所で大気から二酸化炭素を直接抽出するダイレクトエアキャプチャー(DAC)など、最も有望な技術を結集している。再生可能エネルギーを動力源とするDeep Skyの施設は、豊富な水力発電、膨大な風力発電の可能性、そして炭素回収に必要な豊富な地質構成を持つ広大な領土を持つケベック州に戦略的に位置している。


Petronasのクリーン・エネルギー部門であるGentari Sdn Bhdの100%子会社であるGentari Hydrogen Sdn Bhdと、旭化成株式会社、そして日揮ホールディングス株式会社が、60MWクラスのアルカリ水電解槽システムを使用し、年間最大8,000トンのグリーン水素を製造するための詳細な事業化調査を完了したと発表した。各社はまた、同プロジェクトの前工程設計(FEED)研究に関する覚書にも調印した。声明によると、このプロジェクトは、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による支援を受けている。覚書に基づき、当事者は2024年1月のFEED調査開始に向けて準備を進めており、運転開始は2027年を予定している。3社間の協業体制により、グリーン水素を製造するための統合制御システムと組み合わせた60MWクラスの水電解槽の配備が進むことになる。この商業規模のプロジェクトは、グリーン水素の市場を育成し、地域のグリーン水素製造の基盤を確立するというコミットメントを示すものであり、日本、マレーシア、そして東南アジア全域における脱炭素化という広範なミッションに合致するものである。

シンガポールを拠点とするリアルタイム・グローバル・ペイメントのNiumが、韓国の金融機関である全北銀行(JB Bank)と、グローバル送金サービスに関する提携を発表した。Niumによると、この提携の下、両社は韓国に住む250万人の外国人労働者と居住者をターゲットとしたグローバル送金サービスを提供する。クロスボーダー決済におけるNiumの専門知識と、全北銀行の強力な現地プレゼンス・顧客基盤を活用することで、このパートナーシップは、今までにないレベルの信頼性と手頃な価格でリアルタイム決済サービス(RTP)を提供する態勢を整えている。Niumの送金ネットワークは100の通貨に対応し、190カ国以上、そのうち100ヵ国でリアルタイムのサポートを提供している。その資金は口座、ウォレット、カードに振り込まれ、35の市場にて現地で回収される。なお、成長を続けるNiumのカード発行事業も、既に34ヵ国で利用可能だという。

植木 このみ
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