『世界デジタル競争力ランキング2021』、『AIはエネルギー業界をどう変革できるか 』、『抗生物質の代替化合物開発のMicreosが資金調達 』、『カーボンネガティブな熱可塑性プラスチックとは』を取り上げた「欧州イノベーションインサイト:第79回」をお届けします。
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このニュースレターでは、日本企業のグローバル展開、新規事業開拓に役立つ欧州の最新イノベーション、エコシステム、テクノロジー情報を、毎週ピックアップして現地から配信しています。
世界デジタル競争力ランキング2021
先週、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が最新の
世界デジタル競争力ランキングを発表した。これは世界64ヶ国を対象に、ビジネス、政府、より広い社会における変革の主要な推進力として、「知識」、「技術」、「将来への備え」などの重要項目からデジタル技術の活用・能力などを評価したもので、5回目の発表となる今回も、4年連続で米国がトップの座を獲得した。しかし、欧州からもスウェーデン(3位)やデンマーク(4位)をはじめ、5ヶ国がトップ10入りした。IMDの財務教授によると、欧州はGDPRの実施やより効率的なデジタルインフラへの取り組みなど通じて、データフローを民主的かつ透明に保つことを目指しており、そのデジタル競争力は近年大きく進化しているという。なお、今回は2位となった香港や、昨年から15ランクアップでトップ15入りを果たした中国などアジア勢の台頭も目立ったものの、日本は28位と低迷した。
AIはエネルギー業界をどう変革できるか
AIはエネルギー業界において、特に既存ソリューションの有効性を大幅に改善し、再生可能エネルギー源のより迅速な統合をサポートするなどさらなる活用が期待されている。主には、企業の生産意思決定能力改善や、家庭用ソーラーやバッテリーシステムの最適化を通じた光熱費削減のようなエネルギー需要管理だけでなく、再エネコストの大幅削減をもたらす衛星画像の大規模処理とリアルタイム測定を組み合わせた自己学習型気象モデル、さらに長期的なパフォーマンス向上につながるインフラ管理などを含む予測精度の改善である。ポルトガル発
Jungle.aiやノルウェー発
eSmart Systemsがこの分野で今注目を集めている。一方、AIは完全な自律性の実現にも貢献する。特に分散型エネルギー(DE)やプロシューマーの台頭により、エネルギーシステムが複雑化する中、AIモデルはグリッドの最適化プロセスを自動化できるとされており、ホワイトラベルソリューションを提供する独
GreenCom Networksなどが活躍している。既にAIの活用が進むエネルギー業界ではあるが、今後数年における新しいユースケースとアプリケーション領域の登場に注目したい。
抗生物質の代替化合物開発のMicreosが資金調達
特定のバクテリア除去を実現するプラットフォーム開発の
Micreosが、3200万ユーロの資金調達に成功した。現在、世界には人間に利益をもたらすバクテリアが存在する中、抗生物質は細菌の善悪を区別することができない、また副作用の原因となる上、近年、抗生物質への耐性を持つスーパーバグの登場など、抗生物質に対する複数の課題が存在している。そんな中、Micreosは非常に特異な酵素であり、私たちの健康に不可欠な数十億の善玉バクテリアを含むミクロビオームを維持しながら、不要なバクテリアのみを標的にする能力を持つエンドリシンを活用した新たなプラットフォーム技術を開発し、幅広い用途で抗生物質の代替用法として活用することを目指している。同技術は、スイス連邦工科大学チューリッヒ校との共同で開発され、今までに黄色ブドウ球菌によって引き起こされる皮膚炎を中心にエンドリシンベースの製品を提供してきた。Micreosは今回の調達資金により、アトピー性皮膚炎、糖尿病患者の創傷治癒、および血流感染症の臨床開発プログラムを加速するとしており、そのアプリケーションは今後も増える予定。
カーボンネガティブな熱可塑性プラスチックとは
バイオ炭及びバイオプラスチックから作られるカーボンネガティブ熱可塑性コンパウンドに炭素を長期間閉じ込めることができる、木材廃棄物を利用した材料を製造するベルリン発
Made of Airがシード資金調達を行なった。同社は、材料の寿命が長いユースケース向けに、化石ベースの熱可塑性プラスチックの代替品として提供することを目的に、既にAudi(ディーラー店舗におけるファサードパネル)やH&M(バイオマスベースのサングラス)と実験的なパートナーシップを結んでいる。Made of Airは、林業からのおがくずやチップサイズのバイオマス廃棄物を使用し、熱分解、つまりバイオ炭にする段階で、実際に材料に含まれるCO2を取り除き、それを元素状炭素にかなり近いものに変換するため、ガスの形で保持されることがない。また材料となるバイオマスは木材に限られず、今後は豊富な食品廃棄物に由来する原料なども検討していくという。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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