『英Orbex、欧州初の完全軌道マイクロランチャー実現へ』『EV充電インフラのZunder が1億ユーロを調達』、『パンデミックからの回復がサステナビリティ実現を後押し』、『糖尿病網膜症スクリーニングAI、Eyenukが資金調達』、『AIコンテンツプラットフォームJasper、1億2500万ドル調達』『イーロン超えるか、29歳CEOが次世代脳インプラント構築へ』、『Socialla、美容とパーソナルケアのECプラットフォームで資金調達』、『暗号通貨プラットフォームPillow、1,800万米ドル調達』を取り上げた「イノベーションインサイト:第3回」をお届けします。
英Orbex、欧州初の完全軌道マイクロランチャー実現へ
スコットランド発、スペーステック企業の
Orbexが最新のシリーズCラウンドで4000万ポンドを超える資金調達に成功した。これにより、同社は小型衛星産業向けの低炭素軌道打ち上げサービスの提供開始に一歩近づいたと言える。今年5月、Orbex は、重さ 180 kg までの小型衛星を地球低軌道に投入するように設計された 2 段式ロケットとなる、長さ 19 メートルの『Prime』ロケットを発表した。この革新的な Prime ロケットは、再生可能なバイオ燃料である
Calor の Futuria Liquid Gas を動力とし、同規模のロケットと比較してCO2排出量を90%以上削減する上、欧州で公開された最初の完全軌道マイクロランチャー(小型宇宙ロケット)となった。なお、このFuturia Liquid Gasは、廃棄物などの持続可能な素材をブレンドして生成されたバイオ燃料で、CO2排出量削減に加え、通常のLPガスと同様の用途に使用できるという特徴を持つ。
EV充電インフラのZunder が1億ユーロを調達
電気自動車市場が欧州全体で急速な成長を見せる中、2030年までに500万台以上のEV普及を目指すスペインでも、その動きが活発化している。しかし、スペインでは全世帯数の70%が自宅敷地内に駐車スペースを持ち合わせておらず、EV向け公共インフラの普及が非常に重要視されているものの、そのインフラ整備は遅れている。そんな中、
Zunderが超高速 EV 充電ステーション展開に向け、1 億ユーロの調達を行なった。同社は、自社開発のロケーション選択技術、アプリ、超急速充電ソリューションを活用することで長距離の電動移動を実現する。既に国内に150ヶ所以上の充電ポイントを設置しているが、この調達資金をもとにフランス、ポルトガル、イタリアへの進出を加速する。また2025 年までに 4000ヶ所以上で設備を運用し、プラットフォームを通じて 4万以上の充電ポイント を管理する予定。
パンデミックからの回復がサステナビリティ実現を後押し
欧州環境庁(EEA)が発表した最新レポートによると、持続可能性に関する取り組みにおいて、パンデミックが重要な引き金となり、欧州都市にポジティブな変化をもたらしたことが明らかになった。これは、欧州域内64都市を対象に行われた調査において、環境やサステナビリティに関連する計画や管理に対して、変化に対するより柔軟で、オープンな各都市の姿勢を反映した結果だという。この結果は、特にモビリティやグリーンスペースで顕著に現れている上、環境問題に対する世論の認識向上も大きな役割を果たしている。また本レポートは、特定のテーマや課題が繰り返される一方で、持続可能性向上への移行経路は個々の都市と、その独自の特性に合わせて調整する必要があると結論づけた。これにより、EEAは各都市での研究と実験がイノベーションを加速するために重要であり、そのためには新たなアプローチや最新技術がさらに必要となると述べている。
糖尿病網膜症スクリーニングAI、Eyenukが資金調達
AIを活用した網膜症スクリーニング技術を持つロサンゼルス拠点のスタートアップ
Eyenukが、2600万ドルの新たな資金を調達した。同社のEyeArt AIシステムは、目の眼底画像を取り込み、1分以内に糖尿病網膜症の有無や眼科医の診察が必要か否かを検出する。判定正確率96%と言われるプラットフォームを支える機械学習と深層学習のアルゴリズムは、
米国立衛生研究所の支援を受けて開発され、診断のための国際臨床基準に基づき、眼病の兆候を探すように訓練されている。現在までに、EyeArtは米国、欧州、カナダにおいて、重度の糖尿病網膜症と視力低下糖尿病網膜症 (STDR)を診断するために医師が使用することを許可されている。
AXA IM Alrsがリードした今回の資金調達で、AIベースのスクリーニングとAI予測バイオマーカー技術を、眼科医からプライマリケア(かかりつけ医)、薬局、さらには高齢者ケア支援を通じて拡大されることが期待される。
AIコンテンツプラットフォームJasper、1億2500万ドル調達
「AIコンテンツ」プラットフォームを開発するオースティン発
Jasperが、15億ドルの評価額で1億2500万ドルを調達した。JasperはAIを活用して、ブログ記事、ソーシャルメディア投稿、ウェブサイトのコピーなどのコンテンツを生成する。検索エンジンで上位に表示されるように設計されたキーワードリッチな記事でも、既存のコンテンツを再利用した記事も、顧客が書いてほしい内容を自然言語で記述することができる。同社は
OpenAIのGPT-3登場を機に、企業やプロのクリエイター達の仕事を、より迅速かつ効率的に支援できるAIコンテンツプラットフォームの機会を見出したという。今回のシリーズAラウンドは、コア製品の構築、顧客体験の向上、Jasperの技術をより多くのアプリに導入するために投入される予定。また、全世界で100万人以上のユーザーを持つ文法・スタイルチェッカーであるAIスタートアップ
Outwriteの買収も進めており、Insight Partnersが主導した今回の資金調達は、2023年にJasperとOutwriteの提供サービスを統一する取り組みもサポートすることになるだろう。
イーロン超えるか、29歳CEOが次世代脳インプラント構築へ
脳とコンピューターを繋げる「脳インプラント」技術で競う企業のうち、最も名が知られているイーロンマスクのNeuralink以上に、さらに前進している企業がある。29歳の研究者兼CEOが率いる
Axoftがそれだ。柔軟な素材を用いて、脳性まひなどの神経疾患の治療、コミュニケーションを可能にする脳インプラント技術を開発しており、今週、ベンチャー企業
The Engineが主導するラウンドで800万ドルのシード資金を調達した。Axoftと他社の違いは素材だと言う。エレクトロニクスと脳組織の統合には、インプラント用の素材が要となる。人の脳は内部にシリコンチップを埋め込むことを特に好まないため、免疫系はすぐに反応し、時間が経つとその周りに瘢痕(傷)組織が形成され、インプラントは機能を失ってしまう。これを解決するため同社は、瘢痕組織を形成させない柔らかいポリマーを使用したインプラントを開発した。現在、Axoftの脳インプラントは、米食品医薬品局 (FDA)のブレークスルーデバイス(画期的医療機器)指定を受け、承認取得に向け優先的に審査を受ける予定だ。
Sociolla、美容とパーソナルケアのECプラットフォームで資金調達
インドネシアに拠点を置く美容通販スタートアップの
Sociollaは、TemasekやL Cattertonらがリードするラウンドで6,000万米ドルを超える資金を調達した。これにより、2014年の創設以来の調達総額は2億2,000万米ドルに達した。同社はEコマースプラットフォームと実店舗の急速な拡大により、4,200万人のユーザーにサービスを提供してきた。その店舗数は2020年から20倍拡大し、現在はインドネシアだけで48店舗構える上、ベトナムでも急成長している。なお、先日には子どもを持つ女性をターゲットにした美容とパーソナルケアのECプラットフォームを立ち上げたばかりだ。
暗号通貨プラットフォームPillow、1,800万米ドル調達
暗号通貨投資プラットフォームを開発するシンガポール発
Pillowは先日、AccelやQuona CapitalらがリードするシリーズAラウンドで1800万米ドルを調達した。2021年の創設以来、60ヶ国にて7万人以上のユーザーを抱え、Bitcoin やEthereumなど 7種の暗号通貨に対応している。Pillowは、金融機関へのアクセスが難しい人々に大きな影響力を与えたいと考えており、主にアフリカや東南アジアなどの新興国をターゲットにしている。なお、同社サービスの最大ユーザー数を抱える国は、ナイジェリアであると公開されている。

植木 このみ
Open Innovation Group, Intralink Limited
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