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イノベーションインサイト:第74回

イノベーションインサイト:第74回

『Viva Tech、最新のTop 100 Next Unicornsを発表』、『新たな暗号化技術を開発するZama、7,300万ドルを調達』、『Sooma Medical、脳刺激療法でうつ病の在宅治療実現へ』、『Alumis、約2.6億ドルの調達に続き、皮膚疾患改善データ発表』、『ガバメントテックRapidSOS、1.5億ドルを調達』、『歯科分野AIへの可能性を示唆、Overjetが5,320万ドル調達』、『シンガポールSynPhNe、ウェアラブルで米国進出』、『AI Singapore、LLM学習データセット強化に向けGoogleと提携』を取り上げた「イノベーションインサイト:第74回」をお届けします。

 

Viva Tech、最新のTop 100 Next Unicornsを発表

Viva Technologyは、毎年恒例となっている「Top 100 Next Unicorns」の2024年版を発表し、近い将来評価額10億ドルに達する可能性のある最も有望な欧州スケールアップを選出した。地域別では、英国が22社で首位を占め、僅差で21社のフランス、そして14社のドイツがその後を追う形となった。カテゴリー別では、人工知能がトップカテゴリーの1つとなり、AIベースの詐欺およびマネーロンダリング防止リスク検出プロバイダーであるComplyAdvantageなどが選出されている。一方、8億ユーロの企業価値と評価されている英国のFlo Healthが、同リストにランクインした最初のフェムテック企業となり、この分野の重要性が高まっていることを示した。その他の選出企業の例としては、糖尿病や肥満を治療するドイツのデジタルヘルス・スタートアップOvivaや、クラウドベースのホスピタリティ管理システムを開発するオランダのMewsなどが挙げられる。VivaTechの2019年から2023年までの過去の予測を見ると、先月ユニコーン入りを果たした仏会計ソフトのPennylaneなど、今までに選出された企業の約30%がすでにユニコーン・ステータスを達成している。

 

 

 

 

 

新たな暗号化技術を開発するZama、7,300万ドルを調達

パリを拠点にデータ・セキュリティ・ソリューションを開発するZamaは、最新のシリーズAラウンドで7,300万ドルを調達し、その企業評価額も約4億ドルに達したと発表した。同社は、「暗号の聖杯」とも言われる完全準同型暗号(Fully Homomorphic Encryption:FHE)と呼ばれる新しい暗号化技術を開発した。現時点で、同技術は現実のアプリケーションで使用するには時間がかかる上、コストも高いと懸念されているが、Zamaは、開発者がプライバシーを保護する機械学習・AIと機密性の高いスマート・コントラクトをブロックチェーンで構築できるよう、そのソリューションをオープンソースとして提供している。同社は6ヶ月前に商業展開を始めたばかりだが、すでに5,000万ドルの契約を結んでいる。今回の資金調達により、研究開発への投資を継続しながら、ブロックチェーンとAIにおける直接的な市場機会構築に向けたエンジニアの増員を行っていく予定だが、同社のソリューションは今後、ヘルスケア、金融サービス、政府のセキュリティ産業にも活用される可能性があるという。

 

 

 

 

 

 

 

Sooma Medical、脳刺激療法でうつ病の在宅治療実現へ

フィンランド発Sooma Medicalは、精神・神経疾患のための家庭用脳刺激療法で500万ユーロを調達した。WHOによると、全世界で約3億人が現在もうつ病に苦しんでいるという。しかし、抗うつ剤のような現在の治療法には、望ましくない副作用などの課題がある。そんな中、2013年に設立されたSoomaは、経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)を通じてこの問題に取り組んでいる。同社のtDCSポータブル装置は、微弱な電流で脳を刺激し、薬物療法を必要とせずにうつ病の症状を緩和する。この装置は、臨床医が遠隔で治療をモニターできるプラットフォームと組み合わせることで、患者が自宅で使用することができる。すでにFDAの画期的医療機器指定と欧州医療機器規制(MDR)の認証を受けている同装置は、世界中で2万人以上の患者の治療に貢献してきた。なお、Soomaは今回の資金調達により、製品開発と市場拡大を加速させる計画だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Alumis、約2.6億ドルの調達に続き、皮膚疾患改善データ発表

サンフランシスコ発Alumisが、未上場のバイオテックとしては今年最大の資金調達額となった2億5,900万ドルのシリーズCラウンドを完了した数日後に、主力製品ESK-001が皮膚疾患を改善したというデータを発表した。アロステリック型チロシンキナーゼ2(TYK2)阻害剤は、中等度から重度の尋常性乾癬の治療薬として評価されている。STRIDEと名付けられた第2相臨床試験のデータでは、プラセボと比較して、登録された228人の患者の乾癬が75%改善したと、先週米国皮膚科学会年次総会で発表された。Alumisは現在、ESK-001の極めて重要な第3相臨床試験を今年後半に開始する予定であり、この試験に最新調達資金が充てられる予定だ。全身性エリテマトーデス患者を対象としたESK-001の後期第2相試験や、非感染性ぶどう膜炎を対象としたリード候補など、Alumisは他の臨床試験にも本資金を充てる。Alumisは現在、ESK-001の1日1回投与錠剤の開発にも取り組んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバメントテックRapidSOS、1.5億ドルを調達

AIの普及とガバメントテクノロジー(GovTech)への継続的な関心を浮き彫りにする形で、RapidSOSがBlackRockからの新たな資本7,500万ドルを含む、1億5,000万ドルのシリーズCラウンドを完了した。本ラウンドにより、RapidSOSは公共安全分野において最も高い資金調達額を達成した企業の一つとなり、同社製品へのAIのさらなる統合を促進する可能性を示した。2012年設立のRapidSOSは、緊急対応者にリアルタイムでデータを送信することに特化しており、2月下旬に発表されたCentralSquareとのリセラー提携を含め、公共安全技術における同業他社との提携も強化している。RapidSOSはすでに2億5,000万ドルを研究開発に費やし、5億4,000万台を超えるコネクテッドデバイスから得られる「命を救うデータ」を、4,400以上の公共安全ソフトウェアシステムに統合してきた。同社の技術は2023年に約1億7,000万件の緊急事態で使用され、保有データ量は6年間で20倍に増加したという。今後の課題としては、増え続ける情報を、AIの活用を通じ、公共安全の既存システムや操作手順をどのように構造化するかだと見られている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歯科分野AIへの可能性を示唆、Overjetが5,320万ドル調達

ボストン発、ソフトウェア開発プラットフォームのOverjetは、歯科分野におけるAIへの投資としては過去最大となるシリーズCラウンドで5,320万ドルを調達し、同社の評価額は約5億5,000万ドルとなった。March Capital主導の今回の調達資金には、マサチューセッツ工科大学(MIT)発、革新的なアイデアの支援に特化した投資ファンドであるE14 Fundや米国歯科医師会などからの出資も含まれる。Overjetによると、同プラットフォームは歯科医療機関の効率的な運営や、虫歯などの診断改善に役立つという。Overjetは何百万もの使用例を基にAIツールを訓練し、それを臨床専門家が検証する。2018年にMITとハーバードの博士たちによって設立されたOverjetプラットフォームは、すでに数千の歯科医や保険会社と連携しており、主なユースケースである診断、治療の推奨、保険請求の見直しに加え、企業に対するビジネス運営支援も視野に入れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

シンガポールSynPhNe、ウェアラブルで米国進出

SynPhNe(Synergistic Physio-Neuro Platform)は、脳卒中やその他神経関連障害を治療するために設計されたウェアラブル・ソリューションで、シリーズA資金となる500万ドルを確保した。この新たな資金は、シンガポールを拠点とするSynPhNeが、特に米国市場でリハビリテーション・サービスを拡大するために使用される。2013年設立の同社は、脳と筋肉を1つのシステムでトレーニングするウェアラブル・ソリューションを開発している。タスクや活動中にリアルタイムで同期されたEEG(脳波)とEEG(筋電図EMG)信号を取り込み、自己修正学習ループを作り出す。これにより、セラピストによる初期トレーニングの後、理学療法、作業療法、また神経療法のプロトコルを自宅で実施できるようになる。SynPhNeは、シンガポールとムンバイのトレーニング・センター、有名病院や民間の医療・理学療法センターとの提携、また米国の患者や有名機関とのパイロット・プロジェクトを通じて、多くの国で事業を展開している。

 

 

 

 

 

 

 

 

AI Singapore、LLM学習データセット強化に向けGoogleと提携

AI Singapore(AISG)とGoogleが、東南アジアで話されている言語の大規模言語モデル(LLM)の訓練、調整、評価に使用できるデータセットを強化するための共同研究プロジェクト「SEALD(Project Southeast Asian Languages in One Network Data)」を開始した。AISGは、政府が率いるパートナーシップによる国家プログラムで、シンガポールを拠点とする研究機関とAIやスタートアップや企業を結びつけることにより、国内におけるAIへの取り組みを強化する。そしてこのコラボレーションは、東南アジアにおけるLLMの文化的背景に対する認識や能力の向上、その適用性の地域全体への拡大、最終的に社会に幅広い利益をもたらすことを目標としている。SEALDでは、データ収集・管理、クオリティチェックのために様々なエコシステム・パートナーとの連携が計画されている。例えば、評価とベンチマーキングにおける最先端技術の導入に向け、SEA各国の学術組織との協力する一方、公益向けのユースケースを推進するため、シンガポールや地域全体の政府関係者とも提携するという。なお、AISGとGoogleは、SEA LLMエコシステムの進展を促進し、強力な地域的専門知識を育成するため、プロジェクトSEALDのデータセットと成果をオープンソースで公開する予定だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

イントラリンクについて

イントラリンクは、日本大手企業の海外イノベーション・新規事業開発、海外ベンチャー企業のアジア事業開発、海外政府機関の経済開発をサポートするグローバルなコンサルティング会社です。

植木 このみ
About the Author

植木 このみ

オックスフォード本社を拠点に、プロジェクト実行チームの一員として、日本ならびにアジア大手企業を対象としたマーケティング事業をリードしている。2020年より海外エコシステムの最新情報を日本語で提供する「イノベーション・インサイト」を執筆。また欧州におけるイベント企画・運営も担当。

ラフバラー大学にて国際経営学修士号を取得後、ロンドンの日系企業でEMEA在日本企業の経営ビジネス戦略構築をサポートした経験を持つ。

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