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フィリピン海事産業の変革と日本企業に広がる機会

アナ・デメティロ
クイックナビゲーション

フィリピンは、海事産業の発展において新たな段階に入りつつあります。同国にはすでに相当規模の造船基盤、経験豊富な労働力、そして商業オペレーターや政府機関からの需要拡大があります。次の課題は、より高度な船舶を建造し、高付加価値の工程をより多くフィリピン国内で担うことです。

フィリピンには造船所と海事スキルがある一方で、より複雑な船舶生産の専門技術や技術支援へのアクセスを現地企業が必要としているケースも多くあります。日本企業にとって、これは船舶用電子機器、自動化、航法、通信、デジタルシステム、高度な生産設備などの分野で機会を生み出します。(イントラリンク、フィリピン拠点カントリー・マネジャー、アナ・デメティロ)

確立された産業

フィリピンは、受注残ベースで世界第5位の造船国であり、長年にわたり重要な造船拠点として知られています。その造船所は、船体建造、鋼材加工、組立、修理において豊富な経験を有しており、海事産業庁(MARINA)に登録された造船所は132ヶ所にのぼります。これには国内事業者向けの小規模造船所から、国際顧客向けの船舶を建造できる大規模施設まであり、海事分野の作業員、エンジニア、技術者など幅広い人材基盤に支えられています。

同市場では、新たな生産能力への投資の可能性も広がっています。たとえば、HD Hyundai Heavy Industries Philippines は、生産能力を130万重量トンから250万重量トンへ拡大する計画です。これは、フィリピンがより大型のプロジェクトを誘致できる、という市場の信頼性を示しています。

一方で、プロジェクトの技術的要求が高まるにつれ、輸入したシステムや専門設備、海外企業からの支援に依存する場面が多くなっているのも事実です。したがって、日本企業にとっての機会は、船舶の生産量を増やすことだけでなく、フィリピンの造船所がより価値の高いエンジニアリング、システム統合、高度製造の領域へ進むのを支援することにもあるといえます。

政府による支援

造船・船舶修理の輸出は成長を続けており、2023年の4億8,700万ドルから2025年には5億4,500万ドルへ増加しました。こうした進展を維持するため、複数の法制度上の取り組みが進められています。造船・船舶修理開発法、財政インセンティブ法案、フィリピン船籍登録法案は、投資を促進し、国内の海事能力を拡大することを目的としています。

防衛政策も同分野を後押ししています。自立的防衛態勢再活性化法は、国家安全保障と国内産業の発展を結び付けるものであり、国内生産、研究、技術移転、海外パートナーとの協力をより重視しています。政府調達にもこうした優先事項が反映され始めており、例えばフィリピン沿岸警備隊の40隻の巡視船プログラムでは、フランスとフィリピンの造船所で建設を分担することにより、現地企業は実践的な生産経験を得る一方、外国製設備、設計ノウハウ、システム統合、研修への需要が生まれています。

商業需要もこれらの法整備に大きく影響しています。登録済みの木造船体旅客船7,000隻以上が、近代的な代替船体を必要とすると見込まれています。これには、より安全な設計、優れた設備、効率的な生産方法が求められます。

Manila port-1

写真:マニラ港

日本企業にとっての機会

日本企業にとっての主な機会は、フィリピンが既に有する製造面での強みと、高度な造船に求められる技術要件との間にあるギャップを埋めることにあります。具体的な分野として、以下が挙げられます:

  1. 船舶用電子機器:フィリピンの造船所や船舶運航事業者は、国際基準を満たすレーダー、ソナー、通信機器、統合ブリッジシステム、安全技術、船舶監視ツールを必要としています。特に、機器だけでなく付加価値を提供できる企業は優位に立てるでしょう。顧客は、船舶が就航した後もシステムが継続して機能するという信頼を必要としているからです。設置、検査、システム統合、乗組員訓練、保守支援は、製品そのものと同じくらい重要になり得ます。
  2. 航法・通信技術:フィリピンは多数の島々、交通量の多い沿岸航路、厳しい気象条件などの課題を抱えています。信頼性の高い航法、船舶追跡、リアルタイム通信は安全性を高め、運航事業者が船隊をより効果的に管理する助けとなります。
  3. 自動化技術:ロボット溶接、自動切断、配管加工システム、資材搬送設備、デジタル品質管理は、造船所の生産量増加や一貫性向上に貢献します。これらの技術は、熟練労働者の生産性を高めるとともに、反復作業や精密作業におけるミスの削減につなげることができます。
  4. デジタルツール:より大規模で複雑なプロジェクトの支援に向け、特に船舶設計ソフトウェア、生産計画プラットフォーム、デジタルツイン、資産管理システム、予知保全ツールは、船主、造船所、設備サプライヤー、船級機関の間の連携を改善できます。
  5. 高度製造設備:コンピューター制御加工、精密測定、非破壊検査、最新のコーティングシステムは、造船所が品質を向上させ、より厳しい仕様の案件に対応する助けとなります。また、高額な生産設備では、ファイナンシングが購買判断に影響を与える可能性があります。例えばリース、段階的投資、船舶プログラムと連動した設備パッケージなどを提供するサプライヤーは、案件を獲得しやすくなる可能性があります。
  6. その他:電力管理、燃費効率、防火安全、水処理、排出規制対応などの分野もさらなる機会をもたらしています。船舶運航事業者は、運航コストの削減、信頼性の向上、より厳格な環境・安全要件への対応を迫られています。

市場でのポジション構築

多くの海外企業にとって、フィリピンのパートナーと協業することが、市場参入における最も現実的なルートとなります。現地の造船所、エンジニアリング企業、船舶運航事業者、政府請負業者は、市場知識、顧客関係、現地サービス体制を提供でき、サプライヤーが調達手続きや技術要件を理解するうえでも役立つでしょう。

共同生産も有効な手段です。海外企業が船舶設計、主要技術、技術監督を提供し、フィリピンの造船所が加工、組立、システム統合の一部を担う形の協業は、政府が重視する技術移転を推進し、フィリピン側のパートナーの能力構築につながる直接的な役割を与えます。

商業提案においては、研修もその一部に含めるべきでしょう。同国にはすでに経験豊富な海事人材がいますが、新しいシステムを設置、運用、保守するには専門知識が必要です。体系的な研修と認証制度は、現地で技術を正しく活用し、必要に応じたサポートを提供することを確実にする助けとなります。

さらに、市場での恒久的な拠点設立を検討する企業は、海事産業パークや輸出志向のインセンティブを活用することもできます。フィリピンは、地域的な包括的経済連携(RCEP)、欧州連合の一般特恵関税制度プラス(GSP+)、日本および韓国との自由貿易協定を通じて優遇的な市場アクセスを有しています。これらの枠組みは、国際市場向けの生産拠点としての同国の可能性を高めています。

しかし、市場参入には必然的に忍耐が求められます。調達には時間がかかることがあり、プロジェクト要件は案件ごとに異なり、顧客は製品の設置後にも支援を期待します。この点、現地での関係構築に投資し、自社技術がどこに適合するかをしっかりと理解している企業ほど、持続的なポジションを築ける可能性が高くなります。

Robot arm maritime

 

高付加価値の造船へ

フィリピンには、より強固な海事製造業を築くために必要な基盤、すなわち、造船所、人材、国内需要が備わっています。次の段階への到達は、より高度な技術へのアクセスと、それを効果的に活用する能力にかかっています。日本企業は、この能力ギャップを埋め、現地生産を支援し、造船所がより複雑な船舶を納入できるよう支援することで、重要な役割を果たすことができます。中でも、専門技術を、パートナーシップ、研修、信頼性の高いサービスと組み合わせられる企業が、最も有利な立場に立つでしょう。フィリピン市場の機会は、製品を販売することにとどまらず、同国海事産業の次の段階を形づくることにこそあります。

フィリピンにおける海事ビジネスの可能性についてご相談をご希望の場合は、弊社までお気兼ねなくお声がけください。

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アナ・デメティロ
Author Bio
アナ・デメティロ

フィリピン拠点のカントリー・マネジャーとして、同国における現地業務を統括するとともに、海事、石油・ガス、建設、産業分野でのリサーチおよび市場参入支援を担当。イントラリンク入社以前は、EMISおよびFactSetでシニアリサーチおよびM&A関連の役職を歴任。サント・トーマス大学で経営学(財務管理専攻)の学士号を取得しており、英語とフィリピン語を話す。