先日公開したインドのデータセンターブームに関するインサイト記事に続き、本稿では、弊社イタリア拠点で欧州チームのシニア・プロジェクト・マネージャーを務めるアレックス・リオンヴィッレが、国際的なデータセンター向け冷却技術の最新動向を整理し、世界が求める日本企業の強みと国際協業の成功戦略について解説します。
はじめに
近年、AIの普及やクラウドサービスの拡大によりデータセンターの処理負荷は急速に増大しています。これに伴い、サーバーから発生する熱をいかに効率的に管理するかが、運用上の重要課題として浮上しています。冷却設備はデータセンター全体の電力消費の約4割を占めるとも言われており、省エネと高発熱環境の両立を可能にする冷却技術への関心が世界的に高まっています。
欧州では、データセンターのエネルギー性能や水使用量の年次報告義務化など、関連規制が整備され、省エネ・環境配慮型ソリューションへの需要が一段と拡大しています。一方、米国では大規模クラウド事業者と連携する企業が技術革新を主導し、環境負荷の低い新たな冷却技術の実装や検証が活発に進められています。こうした動向は、日本にとっても重要な示唆を含むと同時に、関連技術やサービスを提供する企業にとって、グローバルな成長機会を示すものと言えるでしょう。
データセンター冷却市場の方向性を決定づける主な要因
現在のデータセンター冷却市場を大きく動かしている要因は、環境パフォーマンスへの要求の高まりとAI用途の急速な拡大です。
EUではエネルギー効率指令(EED)を通じて、データセンターのエネルギー効率や水使用量の報告が求められるようになり、水資源や排熱の最適利用を含めた環境パフォーマンス全体が強く意識されるようになっています。廃熱を地域暖房などに再利用する「ヒートリカバリー」を原則とする考え方も示され、単なる省エネではなく、エネルギーの使い方そのものが評価対象になってきています。
一方で、AI向け高性能サーバーの普及は、冷却技術に明確な転換を迫っています。従来の空冷方式は1ラックあたり数kWから10kW程度を前提としてきましたが、AI用途では数十kW、場合によっては100kWを超える発熱が発生し、既存の設計思想では対応が難しくなっています。
こうした状況から、高負荷環境でも安定した熱管理を可能にする液体冷却は、現場レベルではすでに現実的な選択肢として検討が進んでいます。
高発熱サーバー対応の液体冷却技術と省エネ運用の最新動向
従来の空冷方式が限界を迎える中、データセンターでは直接液冷(チップ単位)が実運用のレベルで採用され始めています。あわせて、液浸技術(ラック全体を液体に浸す方式)は、次世代の中核技術として高い注目を集めており、実証や先行導入を通じて商用化に向けた検証が進められています。と組み合わせたハイブリッド構成も増え、今後の高発熱サーバー環境で主要な選択肢となる見込みです。
液体冷却は、消費電力や水使用量を抑えつつ効率的なサーバー配置を可能にし、運用コストや環境負荷の低減にも貢献します。一方、導入・運用の複雑さは課題で、ベンダー各社は漏水対策や安全設計、信頼性データの提供といった取り組みを進めています。
GoogleやMicrosoftなど大規模クラウド事業者は液体冷却の採用を進めていますが、中堅事業者では空冷とのハイブリッド型が現実的な選択肢となっています。さらに、光通信技術や半導体設計の進化により、冷却・電源・ネットワークを統合的に最適化する設計思想も広がっています。
このように、液体冷却や新しい熱管理技術は、持続可能で高効率なデータセンターの実現に欠かせない技術となっています。
世界が求める日本企業の強みと国際協業の最適アプローチ
欧州のデータセンター関係者が重視するのは、必ずしも最先端技術ではありません。他にも、「信頼性」「品質の一貫性」「想定外が起きない運用」といった運用面での優先事項も重要視されています。液体冷却は運用が複雑なため、日本企業の厳格な製造管理、余裕設計、長寿命部品、規律ある保守体制が高く評価されます。ポイントは技術力を強調するのではなく、運用リスク低減の視点で具体的に示すことです。漏液対策や異常検知、現地保守体制、サステナビリティKPIの提示も信頼につながります。
初期段階では、成果を生む取り組みに集中することが重要となります。自社製品の強みが最も発揮される明確なユースケースかつ、液冷がすでに当たり前になりつつある次世代AI向けサーバーやスーパーコンピューターのような大規模・高負荷計算用サーバー用途に絞って取り組むことが、現実的かつ効果的な戦略といえるでしょう。
同時に、欧州の信頼あるシステム構築事業者やOEM、運営パートナーといった「参入の扉を開く存在」を1~2社確保し、小規模案件で実績を作ることが重要です。欧州では、「実際にここで動いているのを見た」という事実が信頼の証になるからです。
参入初期に整えておくべき基本事項は以下の通りです。
- 現地サービス体制
- 保証・保守責任の明確化
- サステナビリティ報告に活用可能なドキュメント
一方で、全欧州カバーや全製品ライン展開、現地実績なしでの大規模廃熱利用プロジェクトは焦らず段階的に進めるべきです。特に廃熱利用は地域インフラ依存が大きく、収益化まで時間がかかるため、まずは現地実績を作ることが先決です。
日本企業が陥りがちな欧州パートナーとの協業の罠
このように、欧州パートナーとの協業は大きな成長性が見込まれる一方、必ずしも成果に直結するわけではありません。つまずきの要因には、友好的な議論で止まってしまうこと、日本側の意思決定や対応の遅れ、コミュニケーションの壁などがあります。
これを回避するためには、初期段階で取引のルールや責任分担の仕組みに合意しておくことが不可欠です。誰が顧客に販売するのか、全体システムの責任は誰が負うのか、利益配分や保証・保守の責任範囲などを整理しておくことが求められます。
さらに、協業をパイロット案件から本格展開に進めるためには、以下の道筋もあらかじめ設計しておくことが重要です。
- 成功の目安としてKPIや信頼性指標、サービス指標を設定する
- 達成時の次フェーズとして導入数量、価格、キャパシティ確保を決め、各段階の費用負担を明確化する
- 案件を前に進める責任者を社内に一人置く
- CE適合、設置マニュアル、トレーニング、予備部品、SLAモデルなど、欧州対応パッケージを整備する
このように初期段階から役割・責任・成功条件を具体化することで、協業を単なる話し合いに終わらせず、再現可能なビジネスとして成立させることができます。結果として、欧州市場での信頼獲得と事業拡大につなげることが可能になります。
おわりに
現在、データセンターの冷却は、AIやクラウドの高度化、環境規制の強化、エネルギー効率への要求といった複数の要素が交差する中で、その在り方自体が大きな転換点を迎えています。
関連事業者には、設備コスト削減に加え、規制遵守、運用コスト削減、環境負荷低減を同時に実現することが求められており、こうした高度な要求に応えられる日本企業の技術や運用ノウハウは、グローバル市場における新たなビジネスチャンスにつながっています。
欧州の高い環境意識や持続可能性志向を戦略的機会として捉えつつ、米国の最新技術動向や効率重視の運用手法を的確に取り込み、自社の強みと融合させることが、国際競争力の基盤となるでしょう。
弊社は、世界25拠点以上に展開し、180名を超えるバイリンガル・コンサルタントを擁しています。現地ネットワークやスタートアップ・大学との連携、規制情報の提供なども含め、戦略的な国際進出を総合的にサポートいたします。海外での事業開発やパートナー連携に関するご相談は、ぜひこちらよりお気軽にお問い合わせください。