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2025年の欧州クリーンテック投資動向が示す、エネルギーインフラ重視への転換

イワナ・ボデアン
クイックナビゲーション
 

2025年、欧州におけるクリーンテック投資は、単なる脱炭素技術への資金流入から、エネルギーインフラそのものの強化へと重心をシフトしたことが弊社の分析により明らかになりました。

その要因につき、今まで日本企業の脱炭素化プロジェクトに数多く携わってきた弊社欧州シニアプロジェクトマネージャー であるイワナ・ボデアンは、クリーン技術(水素、CCS、EVなど)の開発・導入が進む一方、企業間で「基盤となるインフラが追いついていない」という認識が強まったことにより、再エネ・バッテリー・EV充電といった新技術を支える基盤技術への投資が加速したと指摘しています。

また、欧州における電気料金の上昇や、エネルギー安全保障への懸念、政策・規制の現実的な調整など、エネルギー情勢の変化を挙げ「脱炭素化は急いで進められるものではなく、まず基盤技術が必要であることを欧州が示している」と分析しています。

サステナビリティ・脱炭素への取り組みで世界をリードする欧州の投資動向を理解することは、欧州のパートナー企業や顧客が今後どのように優先順位や注力分野をシフトさせるのかを読み解く手掛かりとして、新たな機会を切り拓く可能性を秘めるとともに、数年後の日本市場の動向や競争環境を先取りする実践的なヒントとなるでしょう。

本稿では、イワナの分析をもとに、欧州での基盤エネルギーインフラ強化とクリーンテック投資の最新動向を整理するとともに、日本企業が参考とすべき欧州流事業戦略の視点を解説します。

 

欧州投資動向から見るエネルギー安定供給の優先度

世界のエネルギー政策やクリーンテックの不確実性が続く中でも、投資自体は後退していません。20253月から12月にかけて、弊社が分析した欧州における株式・借入による資金調達は、総額で約67億ユーロに達しています。

これまで数年間、グリーン水素やCCUS、バイオベース材料などの革新的技術に多額の資金が投じられてきました。しかし、需要形成の遅れやコスト競争力の課題から、多くのプロジェクトが想定された商業化ペースを達成できませんでした。

その結果、大手企業と投資家は技術の将来性よりも、

  • 需要の確実性
  • 収益モデルの明確性
  • 実装可能性

という基本要素へ評価軸を戻し始めています。

その結果として、昨年はエネルギー転換そのものを支えるインフラ分野、特に以下の2つの分野に投資と注目が集まりました。

1. 安定電力供給を支える再エネ・バッテリー

昨年、欧州全体で再エネに約84,960万ユーロ、バッテリー技術に約14億ユーロが投資されました。これは、AIデータセンターや産業電化による電力需要増大の中で、太陽光・風力の変動性を安定化する蓄電ソリューションへの注目を反映していると言えるでしょう。バッテリーは脱炭素化の「基盤技術」です。バッテリーが増えれば、安価なクリーンエネルギーを貯蔵し、ピーク需要時に産業・家庭で活用でき、グリーン水素やグリーンケミカルなどの新技術も可能になります。

2025年の投資事例

  • 英国のSunsave13,000万ユーロ):太陽光パネル・バッテリーサブスクリプションモデル
  • スイスのEnergy Vault25,700万米ドル):エネルギー蓄蔵資産の開発・建設・所有・運用
  • ドイツのTerra One15,000万ユーロ):グリッドスケールバッテリー蓄蔵システム開発

 

2. 実用性を支えるEV充電インフラ

2025年の欧州EV市場は、中国製EV輸入関税の強化やテスラの欧州シェア低下といった逆風に直面しました。それでも、充電インフラには約14億ユーロが投資され、EV普及の最大ボトルネックが車両性能ではなく、使用環境にあることを示した上、運転者の航続距離不安を解消し、EV販売を後押しするインフラ開発に資金が注がれていることが明らかになりました。

2025年の投資事例:

  • フランスのElectra43,300万ユーロ):欧州における超高速EV充電網拡大
  • 英国のGridserve11,600万ユーロ):英国内でのEV充電網拡大

グローバル企業の投資戦略:時間軸別にみる事例


この環境下で、大手グローバル企業は短期・中期・長期の時間軸で投資を構成し、運用効率改善から事業構造転換まで幅広い取り組みを進めています。

(1) 短期的取り組み例

脱炭素化を進めるうえで、データは最も基本的な土台の一つです。どの程度エネルギーを使い、どこで排出しているのかが見えなければ、最適化も削減も進みませんし、しっかりしたデータ基盤がなければ、取り組みの成果を定量的に追跡することもできません。

各社は、スコープ1・2・3排出量への対応やEUが導入した炭素国境調整メカニズム(CBAM)といった新制度への適合を迫られる中で、こうした要件を満たすソフトウェアの導入を進めつつあります。また、産業分野での設備更新やプロセス転換を伴う本格的な脱炭素化はコストが伴うため、まずは現行オペレーションの無駄を減らし、エネルギー消費と排出量を同時に抑えることが重要なテーマとなっています。

その結果、DXとGXの両方を同時に後押しできるスタートアップへの投資が活発化しています。

たとえば、フランスのSchneider Electricは、製品単位での排出量追跡ソリューションを提供するドイツのMakersiteに出資しています。また、MicrosoftのベンチャーアームM12は、産業エネルギー最適化と脱炭素化を同時実現するドイツetalyticsを支援しています。


(2)中・長期的取り組み例

いま世界の経済は、太陽光発電、風力発電、蓄電池、CO₂回収・貯留、水素やグリーンアンモニアといったクリーンテックを土台とする方向へとシフトしつつあり、これらの設備を「つくる・据え付ける・運転する・保守する」ためのエンジニアリング需要が拡大しています。既存の技術・知見をこうした分野に横展開できるエンジニアリング企業にとって、新たな事業機会が広がりつつあると言えます。

ドイツのSiemens Energyは、こうした市場機会を積極的に取り込もうと動き始めており、融合炉スタートアップMarvel Fusionと商業統合融合発電所開発を進めつつ、地熱・CCUS技術のFactor2Energyにも投資しています。


(3)長期的取り組み例

経済が化石燃料・エンジン車・石油化学製品からの脱却を目指す中、石油・ガス企業は将来を見据えた事業変革を進めています。自社の既存技術・資源をどう活かし、未来のサプライチェーンに組み込んでいくかという課題に対応するため、e-fuelやバイオ燃料への注力が進んでいます。

例えば、英国ShellとタイのThai Oilは、グリーン水素技術を開発する英国Supercritical Solutionsに投資。ポーランドのOrlenは、持続可能な航空燃料(SAF)向けe-fuel技術を開発する英国OXCCUに出資しています。

これらの事例は、グローバル企業が単なる技術トレンドの後追いから、エネルギー転換後の産業構造を見据えた戦略的な動きを加速させていることを示しています。

欧州クリーンテック投資が日本企業に示すビジネス機会

本記事前半で述べた通り、欧州クリーンテック投資は、現在の需要に応えつつ新興技術のコスト効率的・持続的スケールアップを可能にする基盤技術を優先する段階に入りました。それにより、欧州のパートナー企業や顧客の注力分野が変化しつつあり、関連技術・ノウハウを持つ日本企業にとって新たなビジネスチャンスが生まれています。

日本企業は、欧州の潮流を読み解き、自社が持つ技術・ノウハウを、電力供給・蓄電・運用インフラといったエネルギー転換を支える領域でどう位置づけ、欧州の現実路線に適合させるかを今から見極めることが、数年後の市場変化への備えとなります。

また、前項で解説したように、事業の低炭素化・新領域展開には段階があり、短期的に活用できる技術と、長期的に取り組むべき事業領域を理解することも重要です。

  • 短期的:ESG報告に向けたサプライチェーン全体の炭素可視化など、即効性のある技術。
  • 中期的:再生可能エネルギーやバッテリーなど、既存の技術力を補完し事業領域を拡張する機会。
  • 長期的:水素、e-fuel、CCUSなど、既存事業の転換後に新たな収益源となり得る領域。

過去数年の欧州事例が示すように、脱炭素化には相応の取り組みが必要であり、基盤を構築せずに先進技術へ先行投資することは現実的ではありません。こうした教訓を踏まえ、日本企業は欧州のエネルギー転換を支えるパートナーとして、自社の戦略的役割を明確に定義していく必要があります。

 

おわりに

欧州のクリーンテック投資は、日本企業にとって単なる海外事例ではなく、数年後の日本市場の動向や競争環境を先取りする実践的なヒントとなります。また政策・投資・企業行動を横断的に理解し、自社戦略に落とし込むには、現地のトレンドや市場感覚を踏まえた分析が重要となります。この複雑かつダイナミックな欧州市場への参入・拡大は難しいものとなるでしょう。その上での事業成長を目指していくには、現地に身を置き、日本企業の動きだけでなく、ローカルスタートアップや投資の動向にも精通する信頼できるパートナーの存在が不可欠です。

弊社は、世界25拠点以上に展開し、180名を超えるバイリンガル・コンサルタントが海外での市場調査や事業開発を総合的にサポートしています。ぜひこちらよりお気軽にお問い合わせください。

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イワナ・ボデアン
Author Bio
イワナ・ボデアン

2020年の入社以来、英国本社にて再生可能エネルギーやスマートグリッド、グリーン水素、CCUS、精密発酵、リサイクル、これらを取り巻くEU規制など、サステナビリティ関連プロジェクトを数多く担当してきた。 ルーマニア出身。2016年に英国に移住し、シェフィールド大学で歴史学と日本研究の学士号を、岡山市への1年間留学を経て取得。