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脱炭素イノベーションの未来へ―日英共創の可能性

ノエル・プリッチャード
クイックナビゲーション

本稿では、弊社でサステナビリティ・オフィサーを務めるノエル・プリチャードによる、グローバル・サステナビリティ・トレンドの考察と、その中で過去30年間にわたり脱炭素と経済成長を同時に実現してきた英国におけるクリーンテックの成長、そして日英共創の可能性についてのプレゼンテーション概要をお伝えします。

はじめに

トランプ政権の発足や欧州の産業競争力を巡る新しい議論などを受け、メディアでは「ESGの後退」「反ESG」「ESGバックラッシュ」が語られています。しかし、グローバルなテクノロジーとビジネスの視点から見ると、実際の「現場」では現在もより多様化した社会とともに、特に脱炭素化とクリーンテックには依然として多くの機会が存在しています。

そんな中、昨年12月に株式会社ブレーンセンターが運営するWEBメディア「Perspectives」を通じて開催したオンラインシンポジウム「脱炭素イノベーションの未来へ―日英共創の可能性に、弊社ノエルが、脱炭素イノベーション創出に向けた日英連携のエキスパートとして登壇しました。

同シンポジウムでは、ノエルの講演に加え、弊社が日本市場展開を支援する英国気候テック企業2社(下記)による技術紹介、さらにGX推進機構、株式会社日立製作所、マクセル株式会社なども登壇したトークセッションが行われ、ビジネスのちからで脱炭素イノベーションの創出に挑む日英の意志ある企業・人が集いました。

  • Evove: 水処理の研究開発に特化。3Dプリント技術を駆使し、セラミック膜および既存膜向けの部品開発を行うとともに、リチウムをサステナブルに回収可能なDirectLithium Extraction(直接リチウム抽出)システムを、栗田工業との協業を通じて、昨年の10月より提供開始。
  • Reactive Technologies:電力系統慣性や系統強度をリアルタイムで計測する高精度技術で9月から北海道電力と提携

なお、同シンポジウムは現在もオンライン配信中です。上記2社のピッチやトークセッションをご覧になりたい方は、こちらからご覧ください。

脱炭素イノベーションのグローバル潮流

世界では、脱炭素・ネットゼロに向けた取り組みが着実に進んでいます。方向性そのものは変わっていませんが、進め方やスピードには国や地域ごとの違いが見られます。

欧州ではネットゼロに向けた方向性は引き続き共有されており、各国は現実に合わせた調整を行いながら長期目標を維持しています。ただし、企業のサステナビリティ報告に関する新しい制度(CSRD)の適用開始時期が、一部の企業について延期されるなど、規制の運用や適用時期には柔軟性が出ています。投資面では、クリーンテック分野のVC(ベンチャーキャピタル)投資は一時期の盛り上がりが落ち着き、現在はAI分野への資金流入が増える一方で、再生可能エネルギーや送電網などのインフラ投資は引き続き継続されており、欧州全体としては着実な整備を軸に脱炭素を進めている状況です。

日本では、新首相の就任後もネットゼロ戦略の基本方針は変わっていませんが、注目すべき変化も見られます。原子力分野への注力が示され、核分裂だけでなく核融合も含めた技術の活用が重視されているほか、再生可能エネルギーの分野では輸入技術に頼るのではなく、日本独自の技術に重点を置く方針が打ち出されています。たとえば、日本が知的財産と技術的強みを持つペロブスカイト太陽電池などの革新的技術がその一例です。さらに、2026年には排出量取引制度(ETS)が開始され、国内カーボンマーケットへの関心も高まることから、日本では基本方針を維持しつつ、国内技術の強化と市場整備を両輪として脱炭素を推進している状況です。

米国は、現政権が化石燃料を支持すると同時に再生可能エネルギーに否定的である点で、他の主要国とは大きく異なる状況にあります。インフレ抑制法(IRA)の実質的な後退により、再生可能エネルギーやクリーンテック分野への新規インフラ投資は大きく減速しました。

一方、AIデータセンターの急拡大により、2030年までに電力需要が倍増すると見込まれています。すべてを再生可能エネルギーで賄うことは難しいものの、太陽光や風力は建設が早く、運用コストも低いため、結果として再生可能エネルギー分野への間接的な追い風となっています。

クリーンテックで進む英国経済の変革 

英国の温室効果ガス排出量は、1990年から2022年の約30年間で半減しましたが、経済は成長を続けています。これは、脱炭素と経済成長を同時に実現できることを示しています。

英国のネットゼロ関連産業は、経済全体の約3倍のスピードで成長しており、労働人口は2030年までに倍増して100万人を超える見通しです。イノベーション・エコシステムも活発で、約5,000社の気候テックおよびクリーンテック系スタートアップが存在し、業界の年収は全国平均を上回るなど、この分野が成長産業であることを裏付けています。

代表的なスタートアップ企業を以下に紹介します。

    • ULEMCo:大型車両や重車両向けに、ディーゼルと水素を併用できるデュアル燃料技術を提供。車両の排出量削減に貢献。
    • Superdielectrics:電動二輪車向けのハイブリッド蓄電技術を開発。軽車両の電動化に活用可能。
    • Azotic:窒素固定菌を活用して化学肥料の使用量を削減する農業スタートアップ。
    • Recycleye:機械視覚と高速ロボットでリサイクル施設の廃棄物分別を自動化。埋め立て処分量の削減に寄与。
    • Seratech:低炭素セメントの新素材を開発し、製造時のCO排出削減を実現。
    • Mission ZeroDAC(直接空気回収)技術でCOを回収し、産業用途に供給。

これらの企業は、英国市場だけでなく世界の脱炭素課題に取り組む技術を生み出しています。

このように、VC投資が減速している中でも、多くの企業は事業を継続、さらにその規模を拡大しており、レイチェル・リーブス財務大臣も、「経済成長とネットゼロの間にトレードオフはない。むしろネットゼロは21世紀の産業機会である。」とクリーンエネルギーと気候政策への強いコミットメントを改めて表明しています。さらに日英協力も進展しており、洋上風力分野の協力覚書は、両国の企業にとって事業拡大の好機となっています。

日本企業が注目すべき英国の技術領域と日英共創の可能性

英国政府の科学技術局は、2050年ネットゼロ達成に必要な技術を分析し、産業、熱・建物、農業・廃棄物、電力、輸送の5つの分野に整理しました。そのうえで、各分野において2050年ネットゼロ達成には現行技術では不十分であり、さらなる研究開発が必要な領域を特定しています。それらの中には、日本が強みを持つ、あるいは日英協業実績のある分野も含まれており、英国が支援を必要とする分野が多数存在しています。これは、英国市場での事業拡大・創出を目指す日本企業にとって大きな機会を意味しています。

UK net zero technologies

日本と英国は、ネットゼロやグリーン成長の方向性を共有しており、島国でエネルギーを海外に依存する点も共通しています。英国の成長するクリーンテック市場とスタートアップ・エコシステムは、日本企業にとって技術協力や事業拡大の大きなチャンスです。

一方、日本は世界有数のインフラ導入力・製造力・エンジニアリング力を持っています。英国企業にとって、日本は信頼できるパートナーとして、技術を世界規模に拡大するうえで欠かせない存在です。

「スローモーションのグリーン産業革命」の中心地、英国

このような背景から、クリーンテックにおける日英間の共創機会は明らかです。

しかし、そのような中で実際に英国企業との脱炭素事業創出に取り組んでいくためには、現地の複雑な規制や、提携分野の現地企業が日本企業に求める技術やリソースへの理解とともに、市場参入への適切なアプローチの精査が不可欠です。

特に政策の変化や投資動向の一部は大きく報じられることがあるものの、実際のビジネス現場では、各国・企業ともにサステナビリティやネットゼロへの取り組みを着実に進めています。こうした積み重ねは、急激な変化ではないものの、いわば「スローモーションのグリーン産業革命」とも言える構造的な変化を生みつつあります。

だからこそ、現地企業のマインドセットや技術特性への理解を持ち、確かな共創プランを構築することができるローカルパートナーとの連携により、より確実な事業創出に結びつけることが重要です。

本稿が、英国をはじめ海外市場での事業戦略やパートナーシップ検討の参考になれば幸いです。

英国での関連ビジネスに関するお問い合わせ、またノエルとの面談のご要望がございましたら、お気軽に弊社までご連絡ください。

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ノエル・プリッチャード
Author Bio
ノエル・プリッチャード

2015年のコーポレート事業設立から、同部署を弊社の戦略的支柱に育て上げ、その過程で30社以上の日本企業との新規ビジネスを獲得してきた。 現在は、グループ・サステナビリティ・オフィサーを兼務。 1997年に初来日。サウサンプトン大学で日本語学士号、INSEADでMBAを取得。入社以前は、ボーダフォン・グローバル・エンタープライズとベライゾン・ビジネスにてプリセールスやコンサルティング業務に従事。